第13話 文化祭2日目 その4

 文化祭閉幕までの残った時間、各々テンションが上がったまま、持ち場へと引き上げていった。

 ミスコンの集票は校長と事務のおばさんが行う事になっていた。

  

 俺は、気になっていた中の様子を見に旋盤室に向かった。

 そこには、中の作った製品の寸法をチェックするおっさん達、それを黙って見守る中の姿。緊張感に満ちている。


「この短時間でよく出来たね、寸法もバッチリだよ。さすが、木本大の娘さんだ」

「父を知ってるんですか?」

「もちろん。君のお父さんと同じ職場にいた事もあるし、仕事をお願いした事も、もちろんある。それだけに、あの事故は私もショックだった。お父さん、今どうしてる?」

「今、障害者年金で・・・。」

「そうか・・・、すまない、嫌な事、聞いてしまったね」


 初耳だった。中の家が巧の所と同様、工場をやっているのは知っていたが、何か複雑な事情があったとは・・・。


「実は君の事は前から知っていたんだ。高校ものつくりコンテストに中学生で特別参加していた頃からね」

「そ、そうなんですか」

「君が順調に成長してくれて、本当に嬉しい」

「ありがとうございます」

「今回は私たちのわがままに真剣につきあってくれて、ありがとう。久しぶりに私たちも興奮したよ。お父さんも、さぞや喜んでくれているだろうね?」

「いえ、父は・・・。でも、木本製作所の名前は、僕が絶対引き継ぎますので」

「それは頼もしい。でも、君なら出来るよ。その時は、是非うちの仕事をお願いしたいな」

「ありがとうございます!」


 いや、ちょっと待て。せっかくのイイ話の途中でナンだが、その時じゃ無いよ、仕事もらうなら今でしょ? 

 せっかくのチャンス、口を挟ませてもらわないと。


「お話の途中すいません。差し出がましい事言うようで大変申し訳ありませんが、もし、中の腕を評価していただけたと言うのでしたら、今すぐにでも、仕事をいただくという事は、できないでしょうか? 私たちの学校、現在でも、実際に仕事を受注して運営していて、今は、なるべく多くの仕事が欲しい、そういった状況なんです」

「本当に? 君たちだけで、この学校で、仕事を受注しているというのかい?」

「はい。実際に数社と継続的にお付き合いさせていただうています」

「そうか、わかった。そういう事なら、当社でもお願いしてみよう。そのかわり、最初は見積もりから、数量も限定されてしまうけど、それでもいいかい?」

「もちろんです! ありがとうございます」

「先ほど、ほかの子たちの作業風景も見させてもらったけど、大した腕だったよ、その点では安心できる」


 文化祭をきっかけとして仕事を受注する。これこそ、学園祭を行う事にした本来の目的だったのだ。よくやった、中。


 中が、こんな感動シーンを演じていた時、他のみんなはどうしていたかと言うと、中々面白い事になっていた。


 みんな持ち場に戻った所で、一斉にファン? が押し寄せ、握手をせがまれたり、一緒に写真を撮ったりと、まるでアイドルの握手会といった様相を呈していた。

 これは、俺とて他人事ではなく、カフェ・ミリーズは押すな押すなの大盛況となり、厨房の大男も体を小さくして、必死に調理の手伝いをしていた。俺ももちろんフル回転でテーブルを周った。


 そんな中、午前中の屋台では大汗をかきテンテコ舞いになり、ミスコンでも散々だった巧の事がふと心配になって、人でごった返すカフェをちょっと抜け出し、焼きソバ屋台へと様子を見に行ってみた。

 すると、何と巧は屋台を小白川のチームメイトに任せ、自分は屋台脇の長いすに寝転がり、タバコをふかし、やさぐれていた。


「巧さーん! キャベツの切り方、こんなでイイですか?」

「オーケー、それでイイよー」

「なんか、テキトーじゃないスか? てゆうか、マズいでしょ? いくらなんでも学校でタバコって?」

「いいんだよ、ココは、なんでもアリ」

「巧さん、麺何玉いれます?」

「残してもナンだから、全部いれちゃえ! おい、デブオ! それは、後で入れんのっ!」


 こいつ、ラグビーエリート高のメンバーをすっかり顎で使ってやがる・・・。


「けど、オマエらも災難だったなー。アタシに票取られちゃってさ。ホントは他の連中に投票したかったろうに」

「いえ! 俺は自分で投票できても、巧さんに票入かれたスよ、絶対!」

「おー、デブオ! オマエ、イイやつだなー」

「まぁ、俺も巧さんに入れたよ、しょうがないけどさあ」

「よしっ! オマエら、焼きソバ残ったら、全部食っていいよっ!」

「もう、さすがに食えねーーー!」


 良かった・・・。巧も数は少ないけど、何とか支持者を得て楽しげにやってるじゃないか。


 そして、運命の結果発表。


 ミス・スカ女・グランプリは・・・俺だった。


 残ってくれていた多くの人に祝福され、もちろんユウコも大喜びで、もちろん俺も嬉しかった。実際は男でありながらナンだけれど、ミスの称号は、やっぱり嬉しい。


 ちなみに準ミスは、俺の想像に反し未理だった。てっきり美留だと思っていたのに。セツ姉も思ったより票が伸びなかったな。

 思うに、あのカフェ・ミリーズ効果はてき面で、あそこに顔を出してくれたお客さんは、みんな俺たちのどちらかに投票してくれたに違いない。


 閉幕のアナウンスの後、最後まで残ってくれていた人たちに、校門でお見送りをしながら、2日間の文化祭は幕を閉じた。

 ユウコとも、そのチームメイトの4人とも、近日中の再会を誓って別れた。


「いまさら、結果全部見る? 準ミスまででイイよね?」


 閉幕後の教室、そういって、全投票結果を教えたくない風の校長。


「だって、あんまりこれじゃあ、作田さん、可哀そうだよ? あんなに一生懸命やっていたっていうのに。あーあ、可哀そうに・・・」

「そこまで可哀そう、可哀そうって言うなよっ! 居たたまれなくなるだろうっ! いいから、全部結果、教えろよ!」


 最終的な投票数はこんな結果だった。


1位俺112票 2位未理89票 3位美留86票 4位セツ姉72票 5位三日月55票 6位直35票 7位中28票 8位巧5票


 巧、5票って、あのラグビー部の連中から強引に奪った4票の他は、たったの1票かよ・・・。


 結局、みんな、俺の優勝に多少なりと胸につかえるモノがあるのだろう、言葉少なに、最低限度の後片付けを行った。

 しかし、そんなムードを変えようかと思ったのかどうか。校長と事務のおばさんの引き上げた後、巧がみんなを集めて、こんな提案をした。もちろん大歓迎だ。


「なあ、片付け、こんなもんにして、打ち上げやろうぜ?」


 それからが大変だった。


 そもそも事の発端は、セツ姉がもらったという差し入れが、全部アルコールだった事だ。結局それしか残ってなかったので、みんな、ビールで乾杯となってしまった、そこに尽きる。


 俺は以前、アルコールで記憶が飛んでいるので、ビールでの乾杯は躊躇したのだが、さすがにお祝いの雰囲気と一大イベントが終わった開放感から、ついつい気が緩んでしまったのだ。


 ツマミは猪の肉。例の肉、三日月が知人の猟師から直接手に入れたらしいのだが、そのまま未理の冷蔵庫で保管されていて、ソレを嬉々とした表情で三日月が捌き、屋台の鉄板でバーベキューである。肉また肉のつまみ。美味であるが、あまりにエネルギッシュである。


 ちなみに、以下は俺が後日、未理から聞いた話だ。情けない話、最初の30分くらいで、俺は記憶が飛んでしまっていたのだ。


「大体、君といい巧といい、すぐにカッとなるのは悪い癖だ。常に冷静でいる事は、良い仕事をする上で必要不可欠な要素じゃないのか?」

「兄は冷静というが、それは単に熱意が足りないのではないか? 己の心の熱を込めてモノを作る大切さ、それが兄には不足してるのではと思う。だからであろう、兄の作品には、思い、といったものが感じられない」

「思い、なんてものは、一体交差いくつの範囲で納めればいいんだ? そういう数字に表れないものには、それこそ、熱意なんて込められないね!」

「自らの欠けている部分に気付かないとは、気の毒なことだ!」


「いい加減にしたら? あなたたち、自分だけが正しいとでも思ってるの? ハッキリ言って、二人とも、ピースの足りないパズルみたいなモノよ! いつまでたっても完成しないね、不完全なパズル。けど、よく見たら、あら、ソックリじゃない!? ただのファザコンって所が(笑)!」


 い、いや、確かに中と三日月が絡んでたの憶えてるが、俺、こ、こんな事言ったっけ?


「大体、直ちゃんは物言いがストレート過ぎるし言葉も難し過ぎるのよ。それでは余計な誤解を招きかねないわ。言葉使い、まずはそこを気をつけないと」

「例えば、交尾、とか、生殖器、とかいった言葉も駄目なのでしょうか?」

「そ、そうね・・・」

「では、交尾は、なんと言えばいいのでしょう? SEX? 生殖器は?・・」

「ちょっと待って! そういう事を言ってるわけじゃないのよ。直ちゃん、あなた、もうちょっと情緒ってものがあってもイイんじゃない?」


「何やってんのよ、あなたたち? そういうエロ話ばっかりしてるのって、どうかと思うわよ。そういえば、私が今まであなたたちと話した事って、ほとんどエロ話だったかもね。あなたたちって、まるで欲求不満の年増女みたい(笑)!」


 あ、いや、これは・・・全然憶えてません。直、セツ姉、も、申し訳ない・・・。


「あのねぇ、しーくんはわたしと付き合ってるのよぉ!? これはぁ、みんなぁ公認の中なわけぇ? わかてるぅ、美留?」

「む・・・むむ!」

「エッチだってしたしぃー! 美留がいくらがんばったてぇ、しーくんはわたしのものですからぁ!」

「むむむ!・・・ウソッ!」


「未理、ちょっと黙って頂戴っ! 美留も怒っちゃ駄目よ。今度デートするのよ、私たち、それでいいじゃない? 未理、これは約束しちゃったから、悪いけど、許してね? 文句があったら、巧に言って頂戴!」


 ちょっと憶えてる、美留が何かヤバイ事言いそうだと思って、一瞬酔いが覚めたっけ。でも、いいタイミングで、デートの件、未理に言えたかも。


 ちなみに、俺が巧に絡んだらしい一幕・・・。これは、マジやばいだろう・・・。


「ねえ、巧? 確か、最下位の者は優勝者のいいなりになるって、約束だったわよねえ?」

「あ、ああ」

「じゃあ、とりあえず、水、入れてきてくれない」

「ああ、わかったよ。・・・ほれ」

「あとは、んーと、どうしようかしら? そうね、私は最下位のドブス女です、今まで生意気言ってすいませんでした、って言って頭下げなさいよ」


「それはヒドイわ、忍ちゃん!」

「そうだ、キャサリン、相手は酔っ払いだ、そんな事、言う必要は無い!」


「へー、言わないの? 確か、誰かさん、嘘つかない、って言ってたのにねー」

「ぐっ!」

「え!? 聞こえませんけどー?」

「わ、私は・・・最下位の・・・ドブス・女です・・・今まで、生意気言って・・・す、すいませんでしたーーーっ!」


 ・・・俺、最悪じゃない?

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