第98話 新型ウォーターウェポン


 泉さんはとても辛そうで、頭を抱えながら作業を続けている。

 ウォーターウェポンの完成までには、もうしばらく時間が掛かりそうだ。

 待っている間に篠のオデコにも冷却シートを貼った。

 お面の下の表情はとても辛そうで呼吸も荒く、声を掛けるのも躊躇ってしまった。


 「雄ちゃん、今の沖ノノ島はどんな状況だ? 各校のポイントと照らし合わせながら、この後の作戦を練ろう」

 「そうだな」


 今日は手強そうなゾンビの数も多い事や、各校のポイント状況が目まぐるしく変化している事を、瑠城さんも合わせた三人で話し合う。


 「……また一人犠牲になりましたね」

 「二位と三位が入れ替わったぞ」

 「俺達は最下位だから、ウォーターウェポンが出来上がり次第、一気に追い上げなきゃならねぇ。何処に向かう?」


 島の北側には三個のお宝が集中して設置されている。

 そしてその周囲には手強そうなゾンビも数体居る。

 これは俺達が向かう事を想定して配置されたと考えるべきだろう。

 まだ他のチームは北側に向かっていないみたいで、手付かずで放置されている。

 他校とのポイント差次第ではこのお宝に向かわなきゃなんねぇんだけど、俺と瑠城さんの体力が何処まで持つか分からねぇから、なるべく移動距離は少なくしたい。

 そこでみんながどうするかと頭を悩ませている。

 他の高校がこのまま全滅してくれれば、霧姉がさっき倒した一体のゾンビのポイントだけで勝利出来るんだけど、今のポイント状況を見ている限りそれは無理そうだ。




 試合開始から一時間が経過した。

 泉さんの作業はかなり難航している様子で、まだ終わっていない。


 「……っぐしゅん! ぐぞぅ……」


 体調不良が作業に影響しているみたいだ。 

 ティッシュのゴミが山積みにされている。


 そんな時、一つのチームが漁業センターに戻って来た。


 「おやおや、これはこれは。樫高さんじゃないですか」


 ……俺が回収しようとした道具箱を持って行った奴らだ。

 一人噛まれてしまったのか四人しかいない。


 「端末で確認していても、樫高さんのポイントが伸びないから、どうされたのかと思っていたのですが。フフ、まさかこんな場所で油を売っておられるとは」

 「星龍せいりゅう高校さんは絶好調みたいですねー。二位と千八百ポイントも差をつけているじゃないですかぁ!」


 営業モードの霧姉が対応してくれている。

 ……確かこの学校って、石川県代表のスポーツ特待生が多い学校だったよな。


 「ええ、我々はこの後、他校とのポイント差を見ながら行動するつもりです。樫高さんはこのまま試合を終えるおつもりなんですか?」

 「ウフフ、嫌ですよぉ、そんなわけないじゃないですかぁ。泉ちゃんがメンテナンスを終えたらすぐに出発しますよ?」

 「神の手ゴッドハンドさんの……って、な、何だそれは?」

 「……霧ちゃん、お待たせ。完成し……し――っぐしゅん! ……辛い」


 机に突っ伏してしまった泉さんの傍には、仕上がったウォーターウェポンが存在感を放っていて、星龍せいりゅう高校の部員達も目が釘付けになっている。


 こ、これは、……ミニガンだ。

 装甲車や武装ヘリに備わっているガトリング砲の、持ち運びバージョンと言った方がいいアレだ。

 腰の辺りに両手で抱えて持つウォーターウェポンで、束ねられた六本の銃身がクルクルと回転する……はずだ。

 その銃本体も大きくて目を引くけど、そこから更に三本の管が伸びていて、霧姉が背負う箱型のパーツと繋がっている。

 この霧姉が背負う箱の部分に船のエンジンが収納されているみたいだけど、その箱はミニガン専用の弾薬箱に見えるように加工されている。


 ……泉さんのこだわりで見た目が大切なのは分かるんだけど、今日はここまでしなくてもよかったんじゃねぇのか?

 それとタンクが見当たらねぇんだけど、この銃は水を使わねぇのか?

 それとも銃本体にタンクが内蔵されているのか?


 「……じゃあ使い方をレクチャーするから。雄磨、ちょっと」


 泉さんに手招きされて弾薬箱の中身を見せられた。


 「このエンジンは水冷式だから、こっちのホースは雄磨が背負うタンクに全部突っ込むの」


 銃本体に向かって伸びている管とは別で、給水用のホース、エンジン冷却用のホースと順に説明される。

 どうやら俺はこのホースの届く範囲でしか、霧姉の傍から離れられないらしい。 

 その他にもエンジンの始動方法や停止方法、タンクには常に水を多めに入れておいて、絶対にタンクの水を切らさないようにする事、こまめに給水する事、そしてこのウォーターウェポンは非常に燃費が悪い事などが説明された。


 「……よし、一度試運転してみよう」


 霧姉がエンジンを背負い、そこから伸びるホースを俺が背負うタンクの給水口に突っ込む。

 弾薬箱に作られた小窓を開け、説明された通りレバーをオンにしてから、勢いよく紐を引っ張った。


 ブロロン、ブロロロロッ……


 「「「おおーーー!」」」


 小さなエンジンらしい軽快なエンジン音が漁業センター内に響くと、霧姉や瑠城さんは勿論のこと、青龍高校の部員達からもどよめきが起こった。


 「運転しっぱなしっていうのは、エンジンが壊れるから駄目。ガソリンは充分に入っているから心配ないよ。ただし一度始動させればその後は必ず給水して水を入れ替えて。それと威力があり過ぎるから、絶対に人に向かって――っぐしゅん! ……分かった?」

 「人に向かってぐしゅんだな。分かった」


 泉さんが先に警告して来たって事は、このミニガンは余程危険な代物なのだろう。


 「泉、ご苦労様。しばらく休んでいてくれ。……雄ちゃん、威力を確かめに行くぞ」


 霧姉と二人で漁業センター前の桟橋まで歩く。

 霧姉が一番手前の漁船を指差し、ウォーターウェポンを腰の辺りで構える。

 レーザー式のサイトスコープも取り付けられていて、緑の点が数メートル先の漁船の中央付近をフラフラと照らしている。


 「……行くぞ!」


 霧姉が腰を落として両足のスタンスを広めに保ち、ミニガンのトリガーを引いた。


 ズドドド……!


 エンジン音はうるさいけど、射撃音は以前泉さんがトラクターのバッテリーを使用して改造した、アサルトライフルタイプのウォーターウェポンと然程変わりはない。

 しかし連射速度と威力は桁違いだ。

 勢い良くバリバリと船体の破片は飛び散り、更には並べて停めてあった数隻先の漁船まで弾が貫通しているみたいで、漁港対岸に近い漁船からも破片が舞っているのが見える。

 あっという間に手前の船は、船体中央付近で船首と船尾に分断され、ガボガボと大泡と水飛沫を上げながら琵琶湖に沈み始めた。


 「――待った! き、霧姉ストップだ!」

 「なんだよ雄ちゃん、今から本気を出すところなのに――」


 霧姉の文句は無視して、問答無用で弾薬箱を開けてエンジンを停止させた。

 霧姉が射撃していたのは僅か数秒間だったのだが、俺が背負っているタンクが極端に軽くなってしまったのだ。

 貯水量を確認する為に、体を左右に振って背負ったタンクを揺らしてみても、チャプチャプと物凄く軽い音しか聞こえて来ねぇ……。


 コレ、燃費悪過ぎじゃね?

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