第81話 極秘情報


 『祝 ゾンビハンター部全国大会出場!』


 大きな垂れ幕が校舎の屋上から下げられている。

 まさかこの俺がゾンビハンター部で全国大会に出場する日が来るとは、夢にも思わなかったな……。


 まだ朝早い時間だというのに、校門前では人だかりが出来ている。


 「水亀君! 滋賀県大会優勝おめでとう!」

 「ねぇねぇ! 雄磨君って彼女居るのー?」

 「あの、これクッキー焼いて来たからみんなで食べてね!」

 「ミズキ、ホウカゴどーなつオゴッテ!」

 「今日こそはウチとカラオケ行こうなー!」


 全国大会出場が決まったからなのか、今日は女子達の押しが一段と凄い。

 獲物を狙う肉食動物みたいに眼光が鋭いんだが……怖い。


 「水亀君は忙しいんです! 今から部室でミーティングなんですから、ちょっと離れて……と、通して……はわわ、み、水亀君たすけてー」


 俺と十数名の女子達の間に体を捻じ込んで割って入った篠は、逆に人の波に飲み込まれてしまってもみくちゃにされている。

 ……何やってんだよ。大丈夫か?


 「田井中氏が体調不良で入院されましたが――」

 「八幡西の不正事件についてですが――」

 「島の支配者アイランドルーラーさん! 今のお気持ちを――」


 更にはカメラやマイクを持った大人も待ち構えていて、インタビュー攻めにされてしまった。

 まぁ記者連中は霧姉に任せておけば問題ないので、俺と篠は霧姉を残してさっさと部室棟へ向かった。




 「ムフフ、今日もバッチリCMして来たぞ」

 「霧奈さんおはようございます」

 「霧ちゃんおはよー」


 俺達が部室に到着してから十数分後、漸く霧姉がやって来てゾンビハンター部のメンバーが揃った。


 「彩芽から部室に呼び出すなんて、余程の事があったのか?」


 霧姉は足もとの荷物を隅に寄せて座るや否や、携帯電話を床に置いた。


 「……何だ? 携帯がどうかしたのか?」

 「気にしなくていい。ちょっとみんなの会話を録音したいだけだ。さぁみんな、何でもいいから話して話して」

 「おい、まさか記者達に買収されたんじゃねぇだろうな?」

 「そんなワケないだろ。私が必要なのだ、気にするな。さぁさぁ――」


 俺達の会話が必要って……一体何を企んでいるんだ?

 霧姉に促されて瑠城さんがゆっくりと語り始めた。


 「まず最初にですね、昨日の決勝戦で私が話を遮った時の事を覚えていますか?」

 「ああ。アレだろ? ゾンビハンター社で不穏な動きがあるとか、田井中が不正しているとか話している最中に、瑠城さんが芝居っぽく話を打ち切った時の事だろ? 話が危険な方向に進んでいたから止めたんだよな?」

 「そうです。あの時既に私には不穏な動きを取っているという人物に心当たりがありました。その人物はゾンビハンター社で田井中専務と派閥争いを繰り広げていた、峠岡みねおか常務という将来を有望視されている若手役員です。ゾンビハントを盛り上げる為なら手段を選ばないという、強硬派で知られている人物ですよ」


 手段を選ばない、か。厄介そうな奴だな。

 確かにそんな奴に聞かれている中で核心に迫った話をすれば、俺達の命も危なかっただろう。

 昨日の話だけでも危険だと判断されれば消されるかもしれねぇ。


 「過去にもSSランクで開催されたランキング戦で、SSSランクのジャイアントノーズを三体同時に出して、人気選手達を全滅寸前まで追い込んだり、解除不可能な罠を設置して選手を死亡させたりしている、ゾンビハンター達が恐れる要注意人物なのですよ」


 その峠岡とかいう奴が裏で指示を出していたから、選手達でレイドボス戦を開催したり、ナーガ改バベルタイプが出て来たりしたのか。 

 俺がピンポイントで狙われたのもそいつの所為か。……勘弁してくれよ。


 「彩芽、その情報は確かなのか?」

 「はい。昨日自宅に戻ってから裏を取りましたので間違いありません。その時に得た情報は他にもまだありまして、緊急入院した田井中氏ですが、峠岡常務との派閥争いに敗れて失脚しました。このまま入院中に辞職するか、或いは口封じの為に消されてしまうでしょう」


 不正に関与していたところを責められたのだろうか。

 今までゾンビハントで人の命を簡単に消せる立場だった人間が、一歩間違えれば消される立場に変わってしまうのか。

 ホント、恐ろしい世界だな。

 せっかく俺が苦労して田井中……息子の方を運営側に回収させたってのに、肝心のオヤジが力を失ってしまったんじゃ、全く意味がなかったな。

 派閥争いで失脚に追い込むような人物が、ゾンビウィルスのワクチンを使って田井中を助けるとは到底思えねぇ。


 「そして厄介な事に今回の選手権では、峠岡常務が全面的に指示を出すみたいです」

 「そんな大物が選手権に口を出して来るのか?」

 「霧奈さんの仰る通り、通常であれば選手権で役員が口を出して来る事は到底考えられません。しかし今回の選手権では私達樫高のおかげで、世間から、世界からの注目度が飛躍的に上昇しました。結果、私達には想像もつかないような巨額のゾンビマネーが裏で蠢いているのです。手柄を独り占めにしたい峠岡常務がより一層選手権を盛り上げようと、無茶な指示を出して来る可能性も十分に考えられます。みなさん、全国大会までのひと月弱、気を引き締めて練習しましょう!」

 「そうだな――って泉さん、ちゃんと聞いてたのかよ?」

 「んー、アタシには難しい話はちょっと……」


 泉さんは話そっちのけで、設計図のような物を書きなぐっていた。

 そしてずっと静かだった篠に至っては、途中から夢の世界へと旅立っていた。


 「ったく、しょうがないなー。ホラ、鏡ちゃん起きて起きて。泉ももっと喋ってくれないと」

 「喋ってって言われてもねー……。そうね――」


 霧姉に促された泉さんの話は、八幡西校のアキちゃんの事だった。

 ウォーターウェポン部の部員達三名と共に、近々泉さんに会いに来るらしい。


 「鏡ちゃんも、さぁさぁ」

 「あぅ……えっと――」


 篠はお爺さんの状態を話してくれた。

 滋賀県の病院に入院して以来、劇的に病状が回復しているそうだ。

 篠の話ではお爺さんが元気になり過ぎて、病院側に酷く迷惑を掛けているとか。

 退院まではまだまだ日数もお金も掛かるみたいだが、……まぁお爺さんが元気そうで何よりだ。


 「昨日の試合の結果も知ったみたいで、電話が掛かって来ました……はぁ」


 その時の様子を思い出したのか、篠は深いため息を吐いていた。





 「そうそう、そうでした! 大切な事を言うのを忘れていました! 雄磨君!」

 「何だよ瑠城さん、改まって」

 「SSランク昇格おめでとうございます!」

 「おめでとー雄磨!」

 「ああ。ありが……と、ん?」


 泉さんも手を止めて祝ってくれたんだが……SSランク? 俺が? 初耳だけど?


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