第76話 大逆転


 「本当か? 本当に間違いないのか?」

 「ああ。本当だし間違いじゃ――」


 言い終える間際に、背筋も凍る程の黒い靄が霧姉から発せられた。

 これは危険なヤツだ!


 「そんな大事な事はもっと早く言わんか! こんの馬鹿!」

 「!! あっぶねぇ! そんなモンを振り回すな!」


 カウボーイが頭上でロープをグルグル振り回すように、手に持っていたミストアーマーを武器にして攻撃して来た。

 ミストアーマーのタンクの部分にでも当たればただじゃ済まねぇ!


 「危ねぇし他のみんなにも迷惑だから止めろって!」

 「馬鹿! 雄ちゃんのアホー! 私が――私がどれだけ不安だったと……思っているのだ」


 暴れていたかと思うと不意に大人しくなった霧姉。

 小刻みに両肩を震わせている。


 「おおー! 八幡西のポイントが消されてゼロポイントになっているぞ! ホラ、商売上手さん。見て見て!」


 南彦根高校の部長さんが、嬉しそうに自分の端末を霧姉に見せている。

 霧姉は自分の端末を地面に叩きつけて壊してしまったからな。


 「……本当だ。しかも私達樫高に五千ポイントが加算されている」

 「お宝を回収したからな。ホラ、渡しておくよ」


 角張った銀色のジュラルミンケースを渡すと、霧姉はその場にへなへなと座り込んでしまった。


 「良かった……本当に良かった……」


 霧姉は顔を伏せて、何度も何度も良かったと呟いている。 




 田井中がナーガ改バベルタイプに噛まれたと気付いたのは、戦闘が始まってからだ。

 泉さんが狙撃してナーガ改バベルタイプの右腕が吹き飛んだ時、篠が血飛沫を浴びた時に変だと思った。

 確か瑠城さんの説明では食後のゾンビか、なりたてホカホカのゾンビしか血を流さないと言っていたはず。


 それなのに篠が返り血を浴びたって事は――と思い探してみると、沖ノノ島漁港で黒い靄が一つ確認出来た。

 どういう戦いだったのかは分からねぇけど、田井中はナーガ改バベルタイプに噛まれてから漁船に吹っ飛ばされたんだ。

 ……恐らくだが口に咥えて放り投げられたんじゃねぇかな? あのナーガ、両手不器用そうだし。


 いつの説明だったかはハッキリと覚えてねぇけど、瑠城さんが『噛まれた時点で死亡扱い』だと言っていた。

 まだ息があって意識が残っていても、噛まれてしまえば端末には死亡と表示されるのだろう。


 田井中はすぐにゾンビ化したのだろうか。

 フフ、周りに迷惑ばっかり掛ける奴の事だ。案外伊富貴が噛まれる直前までゾンビ化してなかったりして。

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