第23話 最後の戦い


 もう少しで小学校のグラウンドを視界に捉えるという場所まで来たので、作戦会議を行っている。


 「小学校の校舎の中に三匹、コイツ等は多分普通のゾンビだ。だがグラウンドに居る奴は違う。今までのゾンビ達とは別格だ」


 黒い靄の濃さが今までとは段違いだ。


 「その別格のゾンビも三匹だったな」

 「ああ。本当に大丈夫なのか? 引き返すのなら今の内だぞ?」

 「……大丈夫」


 お面で隠れているので表情が読めないのだが、本当に大丈夫なのか?


 「泉はグラウンドの端からの狙撃に専念してくれ」

 「任せて」

 「私と彩芽は二刀乱舞さんの背後からフォローする。グラウンドでの戦いになったら校舎からもゾンビ達が出て来ると思うから、気を引き締めて行くぞ!」

 「はい!」

 「二刀乱舞さんは任せる。自由に動いてくれ」

 「……あの、ゾンビ達の動きを止めるように、撃ってくれると……助かります」

 「よし分かった。泉も彩芽も、ヘッドショットを狙うよりも、足や胴体部を狙うようにしてくれ、いいな」

 「「了解!」」


 二刀乱舞さん、今までで一番普通に話が出来ていたぞ。


 「あの霧姉、俺はココで待機でもいいのか?」

 「雄ちゃんは常にゾンビの索敵。校舎の中で動きがあれば知らせてくれ。そしてリザーブタンクを用意しつつ、泉の傍で待機。そのくらい出来るだろ?」

 「りょ、了解した」


 はぁ、やっぱり俺も行かなきゃ駄目か。


 「いよいよ本日の最終決戦だ。みんな死ぬなよ!」

 「「「「おう!」」」」




 全員で小屋の壁に身を潜めて、霧姉がグラウンドの様子を窺う。


 「クソ、まさかアイツをオープン戦に配備して来るとはな。しかも三匹! 運営側もえげつないな」

 「どれどれ、アタシにも見せてよ! ホホ―、やるねー!」

 「私も――ウフフ、そう来なくっちゃ」

 「……似てる」


 俺以外が代わる代わるグラウンドを覗き込む。

 俺は別に興味ねぇからな。

 ただし二刀乱舞さんが覗き込んだ後、俺の方をチラリと見て何か呟いていたのが気になる。

 あれは何だったんだ?


 「雄ちゃんも見てみなってば、ホラ」


 霧姉に背中を押されたので、仕方なしに壁の端からそろりと覗いてみる。


 な、何じゃありゃ!


 グラウンドの中央に集まっている無茶苦茶デカいゾンビが三匹。

 遠くてよく分からないが三、四メートルはあるんじゃねぇか?

 顔から足の先までが絵の具でベッタリと塗り潰したように真っ青で、衣服は腰蓑だけ。

 ダンプカーが衝突しても大丈夫そうな程の筋肉質な体と短い白髪で、角さえ生やしていれば青鬼と呼ばれていそうな奴だ。


 グラウンド中央に集まっている理由、それはお食事中だからだ。

 フライドチキンを頬張るように、貪り食っているのは……人だ。

 原形を留めていないので分からないが、恐らくオープン戦の参加者達だ。


 ゲロ吐きそうな光景だ……もうホント勘弁してくれ。


 「その昔、一人のゾンビハンターが居ました」

 「突然どうしたの瑠城さん」

 「最強の名を欲しいがままに手に入れ、あっという間にSSSトリプルまで上り詰めたのです」


 俺の話を聞いちゃいねぇ。

 何故突然ナレーションみたいに語り始めたの? 何処を見て喋っているんだ?


 「ところがある試合で、勝利を確信したそのハンターは油断をしてしまいました。ベンチに座って帰りの船を待っている最中に、ごく普通のナチュラルゾンビに噛まれてしまったのです!」

 「その話、まだ続くのか?」

 「そのハンターの名前は――アレックス」


 んん? その名前何処かで聞いた事があるぞ?


 「最高のゾンビのだったアレックスは運営の手によって回収され、様々な品種改良が行われました。そしてその中でも最高傑作なのが……アレックス改バベルタイプ.verIII」


 ま、まさか――


 「じゃじゃーん! そうです。あそこに居る三匹が、そのアレックス改バベルタイプ.verIIIでーす!」

 「じゃじゃーん! じゃねーよ! アレの何処が俺に似てるってんだよ! マジふざけんな!」


 バケモンじゃねぇか! 人の腕かじってるじゃねぇか! 目が真っ赤じゃねぇか!

 あんな気持ち悪い奴に似てるとか言われたら、虐められていると思って部屋に引き籠るわ!


 「えー、雄ちゃんに似てるじゃないか。顎のラインとかさー」

 「鼻筋の通り方とかさー」

 「……顔色が悪いところも」

 「二刀乱舞さんまで言うの? しかもあんなに顔色悪くねぇよ!」


 クソ! 段々腹立って来た。

 アイツの所為で、何で俺がこんなムシャクシャしなきゃなんねぇんだよ!


 「オラ、さっさと行くぞ! ぶっ潰してやる!」




 俺と泉さんは身を屈めて移動を開始した。

 アレックス改バベルタイプ.verIIIは視覚で獲物を捉えて襲って来るそうなのだが、奴等は現在お食事に夢中。

 見つからないよう物陰に隠れながら慎重に移動する。


 俺達が移動した先は、グラウンドと校舎が見渡せる波打ち際で、背後は小さな漁港になっている。

 数隻の二人乗りの小型ボートが裏返しに置かれていて、何とかその一隻の背後に身を隠す事が出来た。

 地面は凸凹の石垣なので、体は少し痛い。


 小学校の校舎は、この島で一番大きな建物らしいのだが、瓦屋根が美しい二階建ての木造校舎だ。

 少し変わった造りで全ての窓の内側に『×バツ』の形で、補強の太い柱が入っているのが見える。

 こんな建物初めて見たのだが、出来ればゾンビハントとは違うカタチで、ゆっくりと見学したかったな……。


 泉さんがハンドサインを送ると、残っていた霧姉達が前進を開始した。

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