第百六話

「それでは参りますかねぇ、……奥義『画竜点睛』ッ!」


 マクシムスは両手から展開した黒炎を、頭上で両手を合わせて圧縮。

 そして極限まで抑え込まれた、強大なる黒炎の高熱エネルギーを身体の前まで振り下ろし、目前に迫る略奪者達に向けて、解き放った。


「ぎあ……あああぁぁあ……っ!!!!」


 まともに直撃した略奪者達が、断末魔の絶叫を上げる。

 そしてそのまま奥の見張り台らしき建物諸共、奴らの肉体は消し飛ばされ、爆炎と爆風が、被弾場所を中心として巻き起こった。


「腕を上げたものだな、マクシムス。俺も負けてはいられん。しかしまだ戦闘は始まったばかり。後々のことも考えて、余力は残しておかねばなるまい」


 俺はカルティケア王からの助言で開眼した黄金色のオーラを一点にのみ集中させ、炸裂の瞬間にのみに爆発させる技術を、再びこの場にて発動させた。


「ぎぃ……やあああぁぁッ……!!」


 その技は螺旋を描くように、無数の略奪者達の群れに突っ込み、捩じるように奴らの肉体を破壊していき、光の波の中に飲み込んでいった。


「うむ、ミコト戦でたまたま成功させた究極奥義には到底、及ばんが、オーラを節約しながら、奥義としての体裁を保つだけの威力は出せるか。いずれは究極奥義も、完全に己のものとしなくてはならんが、現時点ではこれだけ出来たなら、上出来だ」


 こちらからの立て続けの猛攻により、略奪者達から悲鳴のような叫びが上がっている中、ふと前方に目を戻すと、奴らの中でも特に体躯の大きな連中が、こちらへと向かってきていた。

 その大きな体で地響きを立てながら。


「身長は五メートルは越すか。平均的な魔物ゴルグと比べても大きい。だが、今更その程度で怖気づく俺達ではないがな」


「ええ、動きは鈍いようですし、奴らがここに到着する前に、こちらから行かせてもらいましょうか」


 そう言い放つと、マクシムスは巨躯の略奪者達に向かって駆けたが……次の瞬間っ……!

 遠距離から放たれたと思われる何かが、マクシムスに命中。

 その身を仰け反らせた。


「おや……なんですかねぇ、今のは? 威力はさほどでもないようですが」


 マクシムスは走るのを止め、慎重に自らが受けた攻撃の正体を見極めんとした。

 が、その時だった。不意にマクシムスが地面に片膝をついたのである。

 それを見た俺は何事が起きたのかと、急いで駆け寄って声をかけた。


「どうした、マクシムス!?」


「恐らく……毒、のようですねぇ。単純な物理的な攻撃では私達相手には分が悪いと学習したのでしょう。かなりの遠距離からの狙撃です。気を付けてください。奴らは中々、良い狙撃銃を持っているようですから」


 俺は遠方に目をやり、視線を凝らしてみた。

 マクシムスを狙撃した者の姿までは確認できなかったが、高台となっている場所からの攻撃であろうことは予測できた。


「……考える間も与えてはくれないか。もうあのデカブツ達が迫ってきている。攻略法は戦いながら、見つけ出すしかあるまい」


 とうとう俺達の目前まで到達した巨躯の略奪者達は、手にした大棍棒を俺へと振り下ろす。

 消費を抑えるため、黄金のオーラを薄く纏った俺は、それを片手で軽々と受け止めると、更に押し返した。


「図体のデカさだけで俺に勝てると思うな。くたばれ、略奪者共」


 俺は奴らの大棍棒を素手で握り潰すと、ルーンアックスを振り抜いた。

 瞬間、胴体を両断された巨躯の略奪者は地面に崩れ落ち、次の対象を求めて俺が攻撃を開始しようと思った、まさにその時だった。


 ――こめかみに鋭い痛みが走った。


 さっきのマクシムスのように、思わず仰け反りそうになる。

 間違いなく先ほどマクシムスを狙撃した、遠距離からのあの攻撃だった。


「ちっ、まったく厄介だな。意識の外から狙撃されては、防御も回避も間に合わん」


 俺は手で軽くこめかみを触ってみた。すると、軽く出血していた。

 受けたダメージは浅いが、心配されるのは毒による効果だ。


「……毒が回るのも時間の問題か。仕方がない、それまでにこの戦場でどうにかすべきなのは、狙撃手の方のようだな。……ラグウェル!!」


 俺が名を叫ぶと、上空を飛翔していたラグウェルから返事が返る。


「どうしたの、アラケア!」


 ラグウェルが地面へと降下し、両翼を羽ばたかせながら降り立った。

 俺はすぐさまラグウェルの背に飛び乗ると、彼に言った。


「遠方からこそこそと俺達を狙っている奴がいる。そいつの居所を特定したい。この要塞島が見下ろせるくらい、高く飛んでくれ」


「分かった、そう言うことなら任せてよ」


 俺を乗せたラグウェルは、あっという間に上空まで舞い上がり、俺は島全体を見渡しながら、狙撃手の居場所を探った。

 島の高台、そして先ほど受けた攻撃の角度から判断し、大よその見当をつけた俺はラグウェルに言った。


「あそこだ。あの丘に築かれた砦らしき建造物。あの場所かもしれん。まずは、あそこに向かってくれ」


「分かったよ、アラケア!」


 俺の指示を受けたラグウェルは隼のごとく急降下し、瞬く間に砦の屋上へと降り立った。

 そして飛び降りた俺は周囲を見回し、狙撃手がいないか探した。


「少なくとも屋上には姿がないようだが、構わん。この砦ごと破壊させてもらう」


 俺は中指と人差し指を揃えて「クン」と空に向かって突き出し、覇王影を発動させようとしたが、異国の言葉がその奥義の発動を遮った。

 声の方向を見ると、そこにいたのは右腕が長筒の銃のように変形しており、無精髭を生やした青年の姿をした略奪者だった。


「まさか、お前が狙撃手か? つまりこの場所で正解だったと言う訳だな。だが、いくらお前の狙撃の腕が長距離を正確に狙える程、熟達していても、姿が見えてさえいれば、恐れるに足らん」


 そう言うと俺は足を一歩踏み出し、そのまま飛びかかろうとしたが、突如……!

 足元が大きく崩れ落ちていった。いや、砦が内部から爆発した。


「な、に!?」


 ガラガラと足場が崩れていく中、再び俺を鋭い痛みが襲った。

 見ると俺同様に落下していく中、青年の略奪者が俺を狙撃していたのだ。

 その顔は大胆不敵でありながら、凄みを感じさせる笑みを浮かべていた。


「なるほど、俺を倒すために砦を犠牲にする手段と言い、他の略奪者共とは覚悟もレベルも違うようだ。いいだろう、その勝負、受けて立つ」


 俺はルーンアックスを持つ手に力を込めると、落下していく瓦礫を足場に青年の略奪者に飛びかかっていった。

 だが、すかさず奴は右腕の狙撃銃で俺に対し、弾丸を連続で撃ち放った。

 正確……いや、それ以上に奴の弾丸はあり得ない急角度で、軌道が変化し、俺の死角から、弾丸を次々と全発命中させていった。


「ぐっ……! もしやお前も使えるのか、俺達のライゼルア家やマクシムスらの裏社会で伝わっている、気を操る技術を!?」


 その腕に驚愕する俺を余所に、完全に崩れ落ちた砦の瓦礫の上で、奴と俺は向かい合った。

 そして青年の略奪者は無言で、しかし余裕ある笑みを浮かべて俺に狙いを定めて、狙撃銃を構えている。


「……すまないな、どうやら俺はお前達の評価を見誤っていた。所詮はその銃や大砲と言った、武器に頼り切った奴らに過ぎないと。だが、改めよう、その認識を。でなければ、お前には勝てまい。俺の体に毒が回り切る前に……勝負を急がせてもらうぞ」


 俺の全身から黄金色のオーラが噴出し、足を一歩踏み出したかと思うと、奴がすかさず立て続けに撃ち放った弾丸を回避し、ルーンアックスを振り抜く。


 ――だが、しかし!


 そこへ軌道が変化した無数の弾丸が、一斉に背後から俺に襲い掛かった。

 軌道を変幻自在に変えられる、回避も防御も不可である狙撃である。

 それに対し、俺がとった行動は……。

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