第九話
「あっ!? ちょっと、ちょっと……そんな怖い顔して殺気飛ばさないで。こんな状況だし人間同士、助け合って危機を乗り切ろうじゃないか。ねぇ? アラケア君」
俺が睨むと、宰相シャリムは慌てふためいて狼狽しだした。
こいつが今回の主犯なのは間違いない。
その白々しい態度を見ても、俺は警戒を崩さなかった。
「こ、怖いなぁ。僕は非武装なんだよ。もしかして僕が砦に黒い霧を発生させたと思ってるのかい? でも、普通に考えてそんなのあり得ないでしょ。だって
俺はずかずかと歩み寄ると、手を伸ばしてシャリムの胸倉を掴み上げた。
シャリムが俺に持ち上げられた体勢で弱々しく口ごもる。
「そうだな。俺の読みでは、お前は俺の一族の分家であるカルギデと通じているはずだ。確かに奴がライゼルア家の秘匿情報をお前に流していたとしても、俺達が調べてきた限りではそんな芸当は、今の人類には出来ん。だが、お前達は俺の知らない未知の技術を持っている。カルギデの人ならざる肉体と、国境沿いの赤甲冑の兵士達、あれは何だ? お前はあれらを使って、何をしでかそうとしている?」
「た、単刀直入に聞くねぇ。さっきも文官達が遠回しに聞いてきたけどあれは対
俺は乱暴にシャリムの胸倉を放す。
すると呼吸が楽になって、シャリムはゲホゲホとむせ返って蹲った。
「まあいい。武器を携帯している様子もない……にも関わらずこの状況に飛び込んだからには、切り札でもあると思ったが……。おい、死にたくないなら俺達について来い。一応、お前は国賓扱いだ。事態が収まったら即、国にお帰り願うがな」
「いいのかい? 黒幕はこいつだよ。ほぼ間違いなく」
ヴァイツが俺に忠告する。
「俺もそう思うがな。あまりに無防備な姿を晒されて痛めつける気も失せた。それにどのみち証拠もない今、こいつに死なれてはギア王国に宣戦布告をさせる大義名分になりかねないからな。俺はそっちを危惧しただけだ」
「良い判断だよ、さすがアラケア君。じゃあ僕も少しは君の役に立たってあげないとねぇ」
シャリムは立ち上がるとニカっと笑いかける。
目の前にいるのは今、自分を痛めつけていた相手だというのに怒気も殺気もまったく発することなく、読めない男だった。
「ちょ~~と、ちょっと……待ってくれないかな。今、周辺状況を探知しちゃうからねぇ」
シャリムはそう言うと目を閉じ、うーんと唸り出すと、次第に額に玉のような汗を流し始めた。
「んんんん~~~~~~……よし! 見つけた!」
そしてくわっと目を開いたかと思うと、シャリムはまるで子供のように飛びあがってガッツポーズをとった。
その様子に俺はあっけにとられていたが……。
「見つけただと? いや……今、何をしていた?」
「いや、僕にはこの黒い霧の中を見通す千里眼のような力があってねぇ。霧の発生源を見つけたんだよ。その元凶をどうにかすればこの事態は収束するんじゃないかなぁ? 多分だけどね。どうする? 行ってみる? 僕なら案内出来るよ?」
俺は目を爛々と輝かせて言うこの男に調子を崩してしまったが、しばし考えると返答した。
「……いいだろう。案内しろ、その場所にな」
「信じる気かい? アラケア。罠の可能性もあるけど……。……分かったよ、君の判断だ。従うよ。でも、何かを企んでるのかもしれないから僕はこいつが逃げないよう見張っとくからね」
「ああ、罠だったらギア王国が戦いを仕掛けてくる戦意がある十分な証拠だ。その時は俺はこいつを殺す」
俺はシャリムを睨むと、彼に進むよう指示した。
「決まりだねぇ。じゃあ行こっか、アラケア君、ヴァイツ君」
そして俺とヴァイツとシャリムは黒い霧の中を進み始めた。
目指すは霧の発生源があるという、目的地へ。
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