第3話 きみとぼく
「どうしよう!もうおしまいだ!!」
ザーザーとノイズの走る声がする。ここはとある国からだいぶ離れた道の真ん中。舗装されていないためガタガタと車は揺れる。
「そんなに困ること?」
「困るよ!電波が来ないと僕はラジオじゃない」
「いやいやだって今喋ってるのはララくんだろ?」
ララくんと呼ばれたのはラジオ。ラジオはアンテナを伸ばして運転しているロボットをつついた。
「いたいって、ちょっと」
「この辺の人は電波を使わないのかな。あのなぼっさん、僕は電波がなきゃただのゴミだ。ぼっさんがいるから僕はこんなにおしゃべりなんだ。もしも君に何かあってそのへんに僕が投げ捨てられたら」
「嫌なこと言うなあ」
「まあそうね、私だってあなたがいなきゃ運転できる人をひたすら待たなくちゃいけない。ララがきてからロボとふたりきりだったのが楽しくなったしね」
「でしょう!それに電波がないと歌と声色は変えられないんだ」
女性の声は車の中に響くだけで姿は見えない。ロボやぼっさんと呼ばれる車を運転しているロボットがため息をつく。
「そうだなあ、レディに言われちゃしょうがない」
「お!引き返す?」
「ああ、人のいないところに行きたいけれど、そうすると電波も電池もガソリンだってなくなっちまう」
「それは困るわ!それとウォッシャー液ね、最近ろくに洗車もしてくれないんだから」
どうやら女性の声はこの車から流れているようだ。不満そうに訴える。ぐるっとUターンして、来た道を戻っていく。そのうち電波を受信したのかララがごきげんな曲を流しだした。ロボットは鼻歌を歌いながら運転をする。
「それにしたってぼっさんとレディはどうやって給油とか洗車してたの?」
「あ、今いいとこだったのに」
「やっぱり音楽は大事だろ?」
「はいはいわかったってば」
「洗車は目立つからなかなかしてくれないけど、ガソリンスタンドは無人のところが多いから。結構バレないわよ。誰か来てもロボは小さいから隠れてしまうか、おもちゃのふり。無人の車なんて金目のものがなければスルーよ」
「そう?」
「あ、でもほら一回車が欲しかった人がいてさ、乗っ取られそうになったことあったよね」
「あの酔っ払った四人組ね!」
「なんだそりゃ飲酒運転じゃん」
「そんなこといったら俺らは窃盗だ」
「で?どうやって追い払ったの?」
ララが短くしたアンテナを揺らしながら聞く。
「レディが大声出してドアをバンバンってした」
「それだけ?」
「うん」
「そうね、私パニックになっちゃって」
「酔っ払って四人乗り込んでエンジンかけようとしたら、レディの絶叫と4つのドア一斉に開いたり閉まったりだよ。バンバンバンバンってあんな夜中に。幽霊が乗ってるとでも思ったんだな」
「そりゃ怖いね」
「情けない声出して逃げてったわよ!」
「さすがレデイ」
「吐かれたらたまったもんじゃないからね!」
一瞬静かになる車内。ララはアンテナをまた揺らす。
「あれ?ぼっさんはどこにいたの?」
「ああロボはね」
クスクスと笑うレディ。ロボットは慌てて答える。
「自分で言うよ!しばらく車体の下にいたんだ。四人が来てびっくりして下に潜って。そしたら悲鳴がしてドアがバンバンして車が揺れて、慌てて人が出ていって」
「うんうん」
「すぐ戻れなかった」
「怖かったの?」
「怖かった」
「そうね。でも早く来てほしかったわ」
少しすねたようなレディにロボットは謝る。
「人も怖かったけど、このまま君がいなくなったらって思ったら怖かった」
「ヒューヒュー」
「ララくんもだよ、いなくならないで」
「ぼっさん、どうしたのさ?」
「時々オセンチになるのよ。こちらこそ、その言葉そっくり返すわ。あのまま酔った男たちのものになるなんて考えたくもなかった」
「うん」
「ぼっさん、これからもよろしくね」
「もちろん」
「だから電波は大事だからね」
「はいはい」
「皮肉なものよね、離れられないのも」
「しかたないさ、そういうふうに作られてるんだから」
また流れ出した曲に合わせてロボットは鼻歌をする。青い車とロボットとラジオは旅をする。
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