第13話 わからない


「あ!みーつけた!!!」


 小さな女の子の、高い声。嬉しそうな、探していたおもちゃを見つけたような声。まあその通りなのだ。


 白衣がまるでスカートのようで、あまっている袖もバサバサと振り回している。ぴょんぴょんとはねる2つの髪の毛も弾んでこちらへ向かってくる。その後ろからゆっくりと歩いてくるのは、ロボットを作った研究者。丸い眼鏡の奥はいつも見えない。口はあまり開かない。白衣の中はわからない。背が高いから余計に顔はよく見えない。


 バンッ

「何ぼーっとしてんの、早く乗って!」


「レディ!ダメだ!!動いちゃ、」


 勝手にドアが開いたことで、眼鏡の男は銃を取り出す。


 バンバンバン、

「きゃああぁぁあ!」


「レディ!!!」


 弾はレディと呼ばれた青い車のタイヤを撃ち抜く。



「この野郎!人でなし!!!」


「そんなこと言っちゃダメなんだよ?」


「ミカに言われたくない!」


 ロボットは腰のポシェットからピンクのペンライトを取り出し、ミカの右目に突っ込んでいく。強い光が目に当たったため、いやいやと首を振るミカ。



「くらえ!」


「それ!!!」


 ピカー!

 今度は眼鏡の男へ2つは戦いを挑む。男は遠慮なく銃口をロボットへ向ける。



「なんだ!?」


 弾は発射されず、仕方なく男は銃で殴りつける。地面で崩れ、ロボットの手からペンライトが転がっていく。



「やー!」


「ぐぅっ!ヒカリちゃん!」


 男は銃をいじっていたが、諦めたようでロボットに話し出す。



「僕の銃に何をした?」


「あんたの銃?勝手に俺の魔法のおこぼれがかかっちまうだけだ」


「科学だよ」


「じゃあどうしてそいつは動かない?」


「わからない、わからないからお前を実験するんだ」


「お前に使われるのはごめんだ!」


「私もその通りだ。私は人も殺せる。こんなロボットや車を撃つのに私を使うな。自分で捕まえろよ、人間」


 喋ったことに驚き、銃を投げ落とす。



「今度はそうしてバケモノだって言うんだろ?あんたが作ったんだ!あんたがそうしたんだ!」


「うるさい!」


「じゃあなんで話せるようにしたの?」


「な?」


「ねえなんで?」


 そう声がするのは男の眼鏡から。ひとりでに眼鏡はくいっと男の髪をあげて頭に乗る。



「眼鏡がないと何も見えないんでしょー?ねえ?なんで話せるように、人間みたいに考えるようにって研究してるの?朝も昼も夜も夜中も朝っぱらも、ねえ?どうして?ねえ?」


 ダン!ダン!!パキ

 いやあぁ、いやあ!!


 背後でミカがペンライトを足で踏み潰している。開いたドアからラジオがザーッっというノイズが出すが2人は大して気にしていない。アンテナを精一杯伸ばしても誰にも届かない。


「やめてよ、やめろよ!壊すなよ、壊してどうするんだよ、使うために作ったんだろ!!なんで壊すんだよ、意味わかんねーよ!わかんねえ!!なんなんだよ、あんたら、なんでここまでするんだよ!!!何がしたいんだよ!」


 ラジオは男の声で怒鳴る。眼鏡の男と声のトーンを合わせている。ミカは気にも留めずギリギリと地面にペンライトを擦り付ける。そしてロボットを指差す。


「おいロボットの坊ちゃん、あんたが研究所に戻るならこいつは離すよ」


「…わかった、わかったからもうやめてくれ」



 ロボットは男のところへ歩くと、足元の銃が口を開く。


「私を使え、あんな人間撃ってやるぞ?」


「お、俺は…」


「そうだ!ぼっさん!!そんな人間殺せ!!!!!」


 ラジオが後ろでフルボリュームで叫んだ。いろんな声色が混じる。


「ララくん」


「一緒に人のいないどこかでのんびり暮らすんだろ?」


 辺り一面キィーンとしたハウリングが走る。


「「「殺せ!!」」」


「俺は…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そこどけ物のけ 新吉 @bottiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ