第43話:お前の居場所はどこにある?
まさかの緋色からのプロポーズ。
それを受けて慌てふためく朝陽。
彼女の口から出た言葉は……。
「にゃ、にゃぁ」
「なんで、にゃぁなんだよ」
「ひ、緋色が私を驚かせるからでしょ!?」
「驚かせてはいない」
「十分ですっ」
膨れっ面をしながら抗議をする。
「す、素直になればと言いましたが、プロポーズされるとは思いませんでした!」
想像以上の展開にテンパり気味である。
「うぅ、いきなりすぎるよ、緋色……」
戸惑うのも無理はない。
――私を好きになってくれる人がいるなんて。
もちろん、緋色に嫌われてはいないと思っていた。
けども、彼の方から“結婚したい”と言われるとは思わなかった。
――完全に想定外でびっくりだよ!?
愛の告白がプロポーズへ。
急展開に頭がついていかない。
「本気なの、緋色? いつもの冗談とか」
「ちげぇし。母さんもお前の事を気に入ってる。以前から考えてたことだ」
「ひ、緋色ってホントに言葉にしてくれないと気持ちが全然分かりません。そんなに愛されてたなんて初めて知ったもん」
愛している、と言われたこともなく。
何となく、本当にただ何となく付き合っていたような関係。
それゆえに、緋色の想いは彼女には驚きだ。
――付き合っているのに好きとか言ってくれないのもアレなんですが。
素直になれない恋人。
ストレートな言葉に困惑して、朝陽が暴れるのを押さえつけるように、
「大人しくしろ」
彼の腕の中に閉じ込められてしまう。
「顔、あげろよ。照れてるのか?」
「うぅ……恥ずかしくて見せられません」
「今さら照れるなよ」
「そ、そう言うことを言うのはずるいと思います」
真っ赤になった顔をあげると、彼は満足した様子で、
「お前ってさ、黙ってるとホントに美少女だよな」
「黙ってないとダメなんですか!」
「……素直に褒められない俺のことを察しろよ」
「素直に褒めてよ、今日くらいは……」
これは緋色なりの照れ隠しでもあるのだ。
朝陽が照れているように彼も、同じくらい照れている。
「朝陽は可愛い女だよ」
緋色の言葉に朝陽はそっとねだるように瞳を閉じた。
「んぅっ……ちゅっ」
唇を触れ合わせてキスをされる。
赤く染まる空の下で重なり合う影。
――キスってするよりもされる方が私は好き。
緋色から愛されてるって深く想えるから。
「緋色のキスは情熱的だね。私、緋色にされるキスが好き」
「朝陽のキスはお子様なんだよ」
「お、お子様ですと? 私にはチュー経験が緋色しかないんですぅ」
純情少女に経験を求められても。
こういう意地悪な物言いな所も緋色らしい。
唇を尖らせる朝陽は、緋色に軽く拗ねながら、
「ずるいなぁ、緋色は……」
もう一度だけ、キスを交し合った。
心がときめく瞬間。
「大好きだよ、緋色……んっ」
キスされると愛されている実感ができるから。
心が通じ合う、その愛しさが満たしてくれる。
「それで返事は? 俺のために都会を捨ててくれる覚悟がお前にあるのか」
「……ありますよ。緋色のためだけじゃなくて私もここが気に入ってるから。ていうか、好きな人に告られて嬉しくないわけないじゃん」
彼から愛されてると言葉にされる事が何よりも嬉しくて。
「私は緋色が好きなんだもん。私の夢を知ってるでしょ?」
「超イケメンでカッコいい男の嫁になりたいってやつか」
「……なんか思い出補正と自分が対象だからって話を盛ってない?」
「違ったっけ?」
「まぁ、そうなんだけど。素敵な男の子のお嫁さんです」
大人になって夢に現実を求めるようになっても、憧れていた。
結婚なんて朝陽には遠い未来だと思えていた。
「私を緋色のお嫁さんにしてください」
「いいよ。まぁ、よろしく頼む」
「はい、こちらこそです」
お互いにそれ以上は照れくさくて言葉が続かなかった。
今なら桔梗が言っていたあの言葉の意味がよく分かる。
『こんな風にお父さんの話を聞くって事は、色んな考えがあっての事でしょ?』
少し前からいろいろと彼なりに想うことはあったようだ。
――緋色はお父さんの事を知る中で、私との事も考えてくれてたんだぁ。
朝陽自身に都会を捨てて田舎で暮らす、その覚悟をさせなければいけない。
押し付けるのではなく、自分からそう思ってもらえるように。
過去の両親の結婚の経緯を自分に重ねてたのかもしれない。
「そろそろ、夕日も沈むし……帰るか」
自然と手を差しだして指をお互いに絡ませ合う。
「ねぇ、緋色。さっき、奈保さんに言われた『居場所』って言葉の意味が分かったが気がするの。人ってね、大事な人がいる場所が“自分の居場所”なんだ」
自分の居場所とは、自分が素直になれる所。
ここが朝陽の居場所だと言える場所が欲しかった。
「……朝陽、お前の居場所はどこにある?」
「ここです。ちゃんと、緋色の隣にありますよ。えへへ」
朝陽が笑うと彼は「そうか」と短く答えて、歩き始める。
夕闇に仲良く並ぶ、影が二つ。
甘えるような声色で、緋色におねだりする。
「緋色。明日、指輪を買ってよ」
「指輪?」
「そーだよ。緋色の場合、実は冗談だったとか意地悪しそうな気がする。ちゃんと安心できるように、すぐに形にして見せてください」
「しねぇよ、それくらいは信じろよ!」
「信じたくても嘘だって言われたらぁ……」
「はいはい……ったく、買ってやればいいんだろ」
「ありがと。緋色、愛してるよぉ」
じゃれつくのではなく恋人同士の抱擁を交わし合う。
朝陽が人生で一番綺麗だと思えるのは今日の夕焼けかもしれない。
その緋色に輝く夕暮れの空はいつもよりも眩しく見えた。
愛して、愛されて……。
胸いっぱいの幸せを田舎ライフで手に入れました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます