おばけたちのすてきなハロウィン
卯野ましろ
おばけたちのすてきなハロウィン
今夜は、おばけたちがずっと楽しみにしていたハロウィンです。
「楽しみだなぁ。今回は、どんなおかしがもらえるのだろう」
ふとっちょおばけが、ペロリと舌なめずりをしています。
「ぼくたちにとって、とくべつな日。だってこの日は、ぼくたちが人間たちの目の前にあらわれても、だれもこわがらないからね」
のっぽのおばけが、うれしそうに言いました。
おばけたちが出てくると、人間はおどろいて、走ってにげてしまいます。そのたびに、おばけたちは、かなしい気持ちになりました。そのようなことから、おばけたちは人間のいるところに出ないように、いつも心がけています。
けれど、ハロウィンはちがいます。たくさんの子どもたちが、すてきなかそうをするハロウィン。子どもたちのかそうは、魔女や動物、そしておばけなど、さまざまです。そういうことなので、いつもなら人間にこわがられているおばけたちは、ハロウィンになると、かそうをしている子どもだと思われています。自分たちを見ても、だれ一人こわがったりおどろいたりしません。それに、子どもたちになりきって、おいしいおかしをもらうこともできます。おばけたちは、そんなハロウィンが大好きなのです。
「今度こそ、人間となかよしになれたらいいな。人間のおともだち、できるといいな」
ちびっこおばけは、わくわくしています。すると、のっぽのおばけが言いました。
「人間がぼくたちを見ても平気な日は、ハロウィンだけだよ。ハロウィンがすぎたら、人間はまた、ぼくたちをこわがる。だから人間とは、おともだちには、なれない。前にも言ったよね?」
「……そうだったね。ごめんなさい……」
ちびっこおばけは、しょんぼりしてしまいました。
「まあまあ、おいしいおかしをもらえるのだから、それだけでいいじゃないか。さあ、早く行こうよ」
ふとっちょおばけがそう言った後、おばけたちは出発しました。
「ねえ。あのおうち、かぼちゃのちょうちんが、たくさんあるね。きれい」
「わあ、本当だ」
「あそこの家に、行ってみようか」
おばけたちは、ちびっこおばけが指差した家へとむかいました。
トントントン。
「はーい。どなたかしら」
おばあさんは、ドアを開けました。すると、
「おかしをくれないと、いたずらするぞ!」
おばけたちが、あらわれました。
「あら。いたずらされたら、こまっちゃうわねえ」
おばあさんは、にこにこ顔で言いました。
「いらっしゃい。さあ、どうぞあがって」
おばあさんにそう言われると、おばけたちは「おじゃましまーす」とあいさつし、家の中へと入りました。
「ここにすわって、ちょっと待っていてね」
おばあさんが、おばけたちのもとから去ると、いすにすわったおばけたちは、小さな声で話し始めました。
「一体、何があるんだろうね」
「おかし、もらえるのかな」
「おばあさん、どういうことを考えているのかな」
おばけたちが話していると、
「みんな、おまたせ。さあ、めしあがれ!」
おばあさんが元気な声を出して、おばけたちの目の前にもどってきました。
「わあっ!」
おばあさんは、とてもおいしそうなパンプキンパイを持ってきました。テーブルにおかれたパンプキンパイから、ふわっといいにおいがただよっています。
「お茶も、どうぞ!」
「いただきまーす!」
おばけたちは、わくわくしながらあいさつし、パンプキンパイを食べ始めました。
「おいしい!」
パンプキンパイを一口食べると、おばけたちは声をそろえて、そう言いました。
「ふふ、それはよかった。たくさん食べてね」
「はーい!」
うれしそうなおばあさんに、うれしそうなおばけたち。みんな、にこにこです。
「このパイはね、おじいさんの大好物なの」
おばあさんが話を始めると、おばけたちは食べることを止めて、おばあさんを見ました。
「ハロウィンになると、いつも二人で食べていたのだけれど、おじいさんは天国へ旅立ってしまってね。今年はパンプキンパイを作ろうかどうか、なやんだの。でもやっぱり作りたくなって……」
おばけたちは、やさしい声で話すおばあさんを、じっと見守っています。
「今年も作って、よかった。わたしの作ったパンプキンパイを、こんなにもおいしそうに食べてくれる、すてきなお客さんが来てくれたのだもの」
おばあさんは、にっこりとほほえみました。
「今日は来てくれて、ありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
「ごちそうさま!」
「ありがとう、おいしかった!」
おばあさんと、おばけたちは、おたがいにお礼を言いました。
「そのうえ、おみやげにパンプキンパイとたくさんのおかしがもらえるなんて、ゆめのようだよ!」
「おうちに帰ってから、ゆっくりあじわって食べてね」
うれしそうなふとっちょおばけに、おばあさんはやさしく言いました。
「あのね、おばあさん」
ちびっこおばけが、口を開きました。
「わたしたち……実は、おばけなの。でも、おばあさんと、おともだちになりたい。これからも、なかよくしたい」
のっぽのおばけと、ふとっちょおばけは、はらはらしました。そして、おばあさんは答えました。
「みんな、わたしのすてきな、おともだちよ。また遊びに来てね。待っているから」
おばあさんのことばを聞いて、おばけたちは幸せな気持ちになりました。
今夜のハロウィンは、おばけたちにとって、今までの中で一番すてきなハロウィンとなりました。
おばけたちのすてきなハロウィン 卯野ましろ @unm46
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