凝固点と不可逆反応
一雨ごとに、また一晩ごとに、秋から冬へと季節がすすんでいるように。
秋から冬に切り替わる瞬間というものを、定かには見届けられないように。
想いの温度が冷えてもどらない、不可逆性の「凝固点」を超えてゆく瞬間に、恋人が立ち会えることはないのだろう。
不可逆反応であれば、羽化のように一晩あればおわっているものだ。その女にとって不可逆に変わる「凝固点」として重要であるらしい一瞬は、たいてい恋人は飲みに行っているか、自分のことで一杯であるかなにかしているのである。
むかしほぼ一緒に住んでいた彼がいた。わたしがインフルエンザで食糧もままならぬときに避難のため実家に帰った。彼はまったく正しい。
感染の心配がなくなってきてから戻ってきて、「インフルエンザ大丈夫?」って言った。まったく、間違っていない。
しかしわたしはインフルエンザ罹患と自宅療養の間に、それは体温だけでない温度が下がりつつあったようであり、それに加えて安全になってからの大丈夫? が最後の後押しとなって不可逆性の「凝固点」をK点越えしたのである。
頻繁にはないけれど、恋愛だとかの秋の終わりは、こういう感じなんだと思う。
冬を迎える頃になると、ぼんやりとインフルエンザの彼を思い出す。
ストーブの焚き始め、埃の焦げる匂いが好き。
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