ゲゲゲの部長

ポムサイ

ゲゲゲの部長

 ある金曜の昼下がり。

 東証一部上場企業の営業部長、滋野は部下である入間の来訪を待っていた。

 ドアをノックする音がする。滋野が入るように促すときびきびとした動きの入間が入ってきた。


「部長お呼びでしょうか?」


「うむ。君は確か私とそう歳は変わらなかったよな?」


「はい。今年42になります。」


「そうか…。この事を私が君に話した事は内密に願いたいのだが…。」


 室内に緊張が走る。


「分かりました部長。なんなりと…。」


「君は子供の頃、アニメのゲゲゲの鬼○郎は観ていたかね?」


「?…。はぁ、観ていましたが…。」


「あの歌を覚えているかね?」


「はい。墓場で運動会ですよね?」


「そうだが、まずはエンディングを思い出して欲しい。」


「エンディングですか?確かおどろおどろしい絵が流れる中でヘヘヘイヘヘヘイと歌っていたと記憶しておりますが。」


「それだよ。そのエンディングの歌詞で『言う事聞かない悪い子は夜中迎えに来るんだよ』という一節があった事を覚えているかね?」


「はい。悪い子は夜中にお化けが迎えに来てお化けの世界に連れていかれるという歌詞でしたね。子供の頃、凄く怖かったと記憶しています。」


「うむ。だが、ここでオープニングを思い出して欲しい。『楽しいな楽しいな、お化けにゃ学校も試験も何にもない』とある。」


「あぁ、ありましたね。」


「と、いう事はだ。悪い子がお化けに連れていかれる。だが、そこは実に自由で楽しい世界だと言っている訳だよ。」


「!!た…確かに…。」


「似ているとは思わんか…?」


「?何とでしょうか?」


「この社会だよ…。悪い者ほど富み栄え、真面目にコツコツ働いている者がバカを見る…。この社会そのものじゃないか…。」


「部長…。」


 しばしの沈黙が流れる。口を開いたのは入間だった。


「部長が何を言いたいのか解りました。

 今、社内で起こっている派閥争い…。専務のやり方はあまりにも汚い。悪い者が笑う社会を許してはいけない。ついに部長が立ち上がるんですね。」


「…ん?」


「…え?」


「あ…派閥争い?」


「違うんですか?」 


「いや、昨日思いついちゃって誰かに話したかったんだけど、世代が違うと全然伝わらないな~…って…。そう言えば入間君、同世代だから分かるかな…と思った次第です…はい。」


「……。」 


 ある金曜の昼下がり。

 東証一部上場企業の営業部長、滋野は部下である入間の信頼を失った。



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