相剋

美作為朝

ボディ

 和才佑わさいたすく刑事は、かがみ込んだ。そして被害者の顔をじっと見た。

「ひどく痛めつけられとるな」相棒の小谷一成こたにかずなり刑事が言った。

 死体の顔はまぶたの上が、大きく赤く腫れ、切れ、出血、口の周りも赤く腫れ上がり、真っ赤だ。おそらく、右の八重歯あたりの歯が折れている。

「おい、いつまで、見とるんや、鑑識に道譲らんか」

 捜査一課長の糸井最いといすぐるが言った。

 和才はそれでも、屈んだままだった。

 ゴルフ場のフェンス脇の側溝に上半身だけつっこんで捨てられた男性の死体。

「おい、和才!」

 和才は、真後ろまで来ている、全身作業着の鑑識課の男に場所を譲った。

 夜遅く、犬の散歩中の女性が、側溝に上半身をつっこんで倒れている男性を発見。最初は、救急、消防に携帯で通報。そして消防から府警に通報。よくあるパターン。

「いつもはねー、こっち来ないんだけど、まーくんがわんわん吠えるから、ねー来たらねー。あんななってて、しばらく夢見て、寝られへんかもしれへんわー」

 当りは、鬱蒼とした藪の間の一車線の国道、片側がゴルフ場。人通りは殆ど無い。

 鑑識が、煌々とライトを照らし、30センチ間隔で砲眼を作り、這いつくばって、ありとあらゆる異物を拾い上げる。

 一課長の糸井が、地域課の警官が持ってきた地図を広げ矢継ぎ早やつぎばやに指示を出す。

「敷島の班は、この青線で区切ったところ、田崎と奈良岡んところは、こっちの赤線、、」 和才はまだ、死体が気になるらしい。

 その和才の様子を小谷が気にする。

「丁度、夜中でみんな帰宅しとる、叩き起こしても、話を聞き出せわかったな」

「はい」刑事たちがバラバラに返事をする。

 そして、散っていく。

 ゴルフ場から、数十メートル小山をくだらないと、住宅地はない。

 犯人は、この住宅街を通って、この現場まで来た、そして死体を捨てた。

 和才と小谷も、国道をダラダラ下る。

 和才らが復数の覆面パトカーを止めた、車道の近くに、遅れて、一台の覆面パトカーが到着。

 独りの体格のいい私服警官が降車。和才らとすれ違い、現場近くの一課長糸井のほうに向かう。

暴対ボウタイ宇賀うがさんや」

 そう言うと、和才は、覆面パトカーに乗り込んでしまった。ドアは空いたまま。

 小谷が呆れた顔で和才を見ている。

 和才は、マルボロを取り出し、一服の体勢。ライターが見つからない。

 小谷が大きく、ため息をついた。

「どう見ても、ガイシャは、ヤクザもんでしょう。暴対ボウタイの宇賀さんが来てるのがええ証拠や」

 と和才。

「だから、なんや」と小谷。

「もう一つやる気がせえへんなぁ」

 小谷のため息。

「どうせ宇賀さんと、どっかの組長とで手打ちでしょう」

「おい、俺はいくぞ」

 小谷の声に若干の焦りが入った。逃げるように、住宅街のほうへ、、 

「おい、和才っ」

 パトカーの中まで聞こえる。怒鳴り声がゴルフ場の丘の上から響いた。

 課長代理のデカ長の古橋の声だ。課で一番の年嵩。課長の糸井を助け、何もせず、怒鳴るのが任務。

 今度は、和才が大きなため息。一服できず、聞き込みへ。

 怒鳴ったデカ長の古橋より、しかめっ面で小谷に追いつく。

「あほじゃ」

 と小谷。

「一課なんか、来たん、大失敗ですわ」と和才。

「お前の意志で決まる人事とちゃうやろ」

 住宅街へ向けて、早歩きの二人。

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