第16話男脳と女脳の話し

【Lapis夢が丘店の工房】


《遊と真理絵がアクセを作っている》


夢が丘店はご注文だけなんだけど、ディスプレイ用のアクセを作る事も有るんだ。


麻里愛ちゃんが接客をしてくれているから、真理絵ちゃんはアクセ作るの手伝ってくれてる。


「それでね、オーナー」


「うん」


「愛里ちゃんてば酔っ払ってて全然覚えてなくて」


「うん」


「オーナー」


「うん」


「オーナー」


「うん」


「さっきから「うんうん」て、ちゃんと聞いてます?」


「え?」


「お父さんと同じだ。返事はするけど何も聞いてないんだから」


「あのね、真理絵ちゃん。男の脳って、一度に2つの事が出来ないんだ」


「えーっ?うっそお!」


「男の脳は何かやってる時に話しかけられると、手が疎かになるか、話しをちゃんと聞けてないか、どっちかだね」


「そうなんですか?女の子は、普通に両方出来ますよ」


「女の子って、料理しながら電話したりするらしいけど、僕は絶対無理」


「私は料理とかしないけど、麻里愛に電話すると、料理中だったりするな」


「男は話しに夢中になってたりしたら危ないよな、やけどしたり手を切ったり」


「別に危なくありませんよ。変なの」


「テレビ見ながら話してると、テレビの内容なんてわからなくなっちゃうし」


「無い無い、それは無い。料理しながら電話してテレビもちゃんと見れるし」


「そんなの絶対無理だよ。全部いい加減になっちゃうし、料理は危ないでしょう」


「男の脳ってそうなんだあ。だからお父さんがテレビ見てる時話しかけると、返事はするけどちゃんと聞いてないわけか」


えーっと…


あ、これだよ。


デザインやり直しだな。


石をデザインボードに並べながら話してると、わけわからなくなっちゃう。


「でね、麻里愛って…」


「うん」


「昨日大学で…」


「ふーん」


デザインは出来た。


作るのは後にして、少し真理絵ちゃんの話しを聞かないと。


「大学でどうしたの?」


「え?大学?」


「何か有った?」


「私そんな事言ったっけ?」


「さっき言ってなかった?」


「ああそうだ。もう、その話しはとっくに終わってますよ」


「そうなんだよね、女の子の話しはテンポが早くて、考えてる間に置いて行かれちゃうんだ」


「女の子同士だと、これが普通なんだけどな。みんな普通について来ますよ」


「男の脳って答えを出そうとするんだよ。だから考える。でも、女の子は別に答えを出してもらわなくても良いんだよね。ただ聞いてほしいだげ」


「そうそう。聞いてなくても良いから喋りたいだけの時も有るし」


「相談とかでも、男は何とかしてあげたくて考えるけど、女の子は実はもう自分の中で答えが出ていて、後押ししてほしいだけなんだよね。余計な事は言わなくて良いから、その答えに「良いね」「そうだね」って言ってほしいらしい」


「そうそう、わかってるじゃないですか」


「だから、男が一生懸命考えて違う答えを出すと、別にそんな事言ってほしくない感じだったりする」


「そうなのよ!」


「「じゃあ相談するなよ」なんて言ったらケンカになるしね」


「そうよね…。へえ、男の人って一生懸命考えてくれてるんだあ」


「だから、その間に置いて行かれてるんだよね」


「なるほどお」


じゃあ作ろうかな。


これはワイヤーの方が良いな。


マンテル使うか。


それから真理絵ちゃんと色々話したんだけど、女の子の話しは本当に良く飛ぶ。


「うーん、それはね、たぶんその男の子はそんなつもり無いと思うよ」


「え?まだそこ?もうその話しは終わってますよお。今は美味しいスイーツの話し」


「女の子は、そうやって答えが出てなくても進めちゃうんだよね。男はモヤモヤしてるんだけど」


「平気です。私の脳はもうそれはとっくに終わってこっちの話し」


「僕は置いて行かれてるし、モヤモヤしてる「男の子にこんな事されてどういう事?」って言われて、考えてるうちに話しが2つも3つも先に飛んでるんだもん」


「男と女の脳ってそんなに違うんですね。理解するのは難しいけど、そういうもんなんだあって」


「そういうものだと思えば、お父さんの生返事許してあげられるよね?」


「そうですねー」


【カウンター】


今のうちにlunchにしよう。


うちは、接客が無い時はできるだけ皆んなで食事をするようにしてるんだ。


「はいよ、今日の賄い」


「ありがとう、美味しそうだね」


「当たり前だ。la merに居たんだからな、俺は」


「帰りたくなって来た?」


「帰りたい気もするが、ここは楽しいからな(麻友も来るし)」


麻里愛ちゃんと真理絵ちゃんはガールズトーク。


僕達はそのテンポの速さについて行けないから、入れない感じ。


まあ、いつもの事だよね。


「オーナーはどうしてヒーラーになったんですか?」


と、思ったら麻里愛ちゃんがこっちに振った。


「そうそう、私も知りたーい!」


「震災の時にね、ヒーラーさん達が被災地にヒーリングエネルギーを送ってたから、僕にも出来たらやりたいと思ったんだ」


「何かオーナーらしい動機よねー」


「それで石ですか?」


「最初は本当にそんな事が出来るなんて信じられないよね?」


「うん。私もやってもらうまで信じて無かったー」


「ブログで知り合った人が、石を使って無料遠隔ヒーリングをやってくれたんだよ。それで僕も参加したら、本当にエネルギーを感じたから、それでやろうと思ったんだ」


「それであの美人の先生の所にね」


あ、何か麻里愛ちゃんトゲの有る言い方?


「動機が不純よねー」


真理絵ちゃん今度はそう来たか。


「男の先生が良いと思ってたんだよ」


「本当かしら?」


本当だって。


麻里愛ちゃん口とんがってるぞ。


「どこに行くか色々探して先生のホームページを見つけたんだけど、写真とか見てなくて、女性とは知らずに行ったんだ」


「本当かなあ?怪しいもんだわねー」


「じゃあ、どうしてそこを選んだんですか?」


「色々探したんだけど、気になって何度も何度も戻って見たホームページだった」


「可愛いピンクとかで、綺麗な女の人が想像出来たんじゃないの?ねえ」


《頷く麻里愛と羊里》


「その時はグリーンだったよ。本当に行くまで男の先生なら良いなと思ってたんだ。井の頭線だったから、行きやすいかなと思って。降りた事無い駅だったけど、近くの駅に住んでた事が有ったからね」


「ほう、ご縁が有ったワケだな」


そうだよね、縁が無ければ行かないでしょう。


もっと近くにもヒーリングスクールは沢山有るんだから。


「ある程度勉強して行かれたんですか?」


「早く石を触りたかったんだけど、敢えて我慢した。予約を入れてから、一切何も見なくしたんだ」


「えー?何でまたそんな事を?」


「手ほどきから先生にしてもらいたかったから」


「「手ほどき」って、また古めかしい言い方よね」


「あ、僕古典の習い事沢山してたからね」


「マジっすか?」


「うん。代稽古とかしてたんだけど、教える時はどこかで習って来た人より、一から手ほどきの方が教えがいが有ったから」


そうなんだ。


色々な所へ行って習って来た人って頭でっかちになってるし、続かない。


だから転々とするんだよね。


まあ、最初から良い師匠を見つけられたらラッキーなんだけど…


僕はラッキーだよな。


「今も大地震有りますよね。ヒーリングエネルギーを送ってるんですか?」


「うん、やってる。お節介ヒーラーだからね」


「アハハ、お節介ヒーラーって、オーナーにぴったりー」


「僕の先生がお節介ヒーラーなんだよ。彼女にこそぴったりだな」


「優しそうな人ですよね?」


「えっ?」


「何でそこで「えっ?」とか言って固まるかな?」


「優しいけど、とても厳しい人だよ」


「そうなんだあ」


【天空路家】


《遊は玄関の鍵を開けて入る》


あれ?お迎えが無い。


パパちゃん寂しいぞ。


《女物の靴が揃えてある》


春陽ちゃんが来てるのか。


だからってお迎え無しなのは寂しいじゃないか。


僕がまだ母屋に居た時、フレデリックは、どんな時も迎えに来てくれたのにな。


あの子が来てくれなかったのは、最後の日だけだった。


本当は来たかったのに、もう、目が見えなくなってて来れなかったんだよな。


それ以外は、僕が何度外に出ても、帰るといつも玄関で待っててくれた。


なのにうちのワガママ猫達は…


【キッチン】


「ニャー(ご飯ちょうだい)」


「ミャーミャー(春陽ちゃん早く早く)」


「いまあげるから、待ってね~」


「ただいま」


「あ、お兄ちゃん。お帰りなさい」


僕が帰って来ても、二人(?)は春陽ちゃんの手ばっかり見てるよな。


「はい、どうぞ。お兄ちゃんのご飯も出来てるわよ」


「うん、ありがとう」


春陽ちゃんも女脳なんだろうけど、マシンガントークじゃないし、僕の事わかってくれてるから楽だよな。


「ご飯入れるわよ~座って~」


ハイハイ。


LapisもRutileも、人間の食べ物は食べさせてないからね、自分達の食べ物だと思ってないんだ。


だから、ご飯の時テーブルの上にあがったりしないで大人しくしてるから助かる。


Lapisは僕の隣の椅子にチョコんと座ってる。


Rutileは春陽ちゃんの隣の椅子で寝てるな。


お留守番の時はどうしてるのかな?


きっと二人(?)で遊んだり、くっついて寝たりしてるんだろうな。


《Rutileが春陽の膝に乗る》


「Rutile、そんなにしたら春陽ちゃん食べられないよ」


「大丈夫よ。良い子にしてるわよね?」


「ンニャ(良い子だもん)」


「お前達、春陽ちゃんの事ママだと思ってないか?」


「あら、ママになってあげてもよわよ。ね、Lapis、Rutile」


「ニャー(春陽ちゃん大好き)」


「ミャー(何?)」


「そんな事言ってて、良い人出来たらすぐ嫁いで行っちゃうんだろ?可愛い妹を持って行かれる兄貴の気持ちって…」


「行かないわよ。お兄ちゃんのせいで一生結婚出来ないんじゃないかしら、私」


「何で僕のせいだあ?」


「男性不信(もう!鈍感)」


男性不信?


それ、僕のせいか?


僕が結婚出来ないのは、Lapisが焼きもち妬くからだよな。


LapisとRutileが懐いてくれる人ならね。


はあ…


【お風呂場】


《遊は身体を洗っている》


やっぱりLapisもRutileも鳴かない。


来てないのかな?


いつもなら洗面所で待っててくれてるのに。


Rutileが鳴かないって事は居ないんだよな。


春陽ちゃんに甘えてるんだろう、きっと。


まあ、良いや。


いつもはRutileがギャーギャー悲しそうな声で鳴くから、返事をしながら急いで洗うんだ。


ちゃんと温まる時間も無くてすぐ出なきゃいけないし。


今日はゆっくり入ろう。


【洗面所】


《春陽が遊の着替えを持って来る》


【お風呂場】


《遊は湯船に入っている》


でも、やっぱり、ちょっと寂しいぞ。


【洗面所】


《春陽は遊の着替えをカゴに入れる。その時ガラッとお風呂場の戸が開く》


「Lapis、Rutile」


「やっ、もうお兄ちゃん」


「あ、ごめん」


《春陽は後ろを向く》


「子供の時はお風呂一緒に入ってたよな」


「いつの話しよ?着替えそこに置いといたからね」


「うん、ありがとう」


《春陽は洗面所を出て行く》


「ハークション!うーっ、もう一度温まろう」


《遊はもう一度湯船に入る》


怒られちゃった。


そうか…


本当の妹じゃないんだもんな…


何だか寂しいぞ。

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