第10話血圧にラブラドライト
【聖百花学園】
〈生徒達が登校して来る。麻里愛と真理絵が門を入る〉
「ねえねえどう思う?」
「どうって?」
「天空路さんと愛理ちゃんだよ。本当はどうなのかな?ちょっと怪しくない?」
〈たちまち不機嫌な顔になる麻里愛〉
「知らないわ」
「何怒ってんのよ?」
「別に真理絵に怒ってるわけじゃないけど」
「じゃあ誰に?」
「オーナーの周りって女の人ばっかりで」
「それで?」
「誰にでも優しくて、優柔不断で」
「それから?」
「それから、それから」
「麻里愛、天空路さんの事好きなんじゃないの?」
「え?何でそうなるのよ?」
「焼きもちに聞こえるけど」
「そ、そんなんじゃないわ」
【Lapis夢が丘店】
〈店内の掃除をする羊里〉
「もう終わるから、猫達出して良いぞ」
「OK」
〈遊はサロンからチビトラとチビタマを抱いて来る。その後ろからポンが付いて来る〉
最近やっとチビタマも抱っこ出来るようになったな。
「ニャウ(まだちょっと怖いよ)」
「痛っ」
チビタマに噛まれた。
「噛んだらメ」
あれ?タマは?
「タマおいで~」
「ンニャン(ここだよ)」
声はするけど来ないぞ。
まあ、犬じゃないし、呼んでも来ないか。
【サロン】
〈ベッドの上に飛び乗るタマ〉
「(もう少し寝てようっと)」
【売り場】
さあ、開店の時間だぞ。
〈羊里が玄関の鍵を開けると…〉
「もう、良い?」
「いらっしゃいませ。どうぞ」
「コーヒーお願い」
「どうしたの?愛理さん。何だか具合悪そうだよ」
「私、朝弱いのよ。低血圧で」
「朝の弱い人って「低血圧なの」とか良く言うけど、本当に血圧低いの?」
「計ってないからわからないわ」
「気持ち悪かったりする?」
「気持ち悪い」
「愛理さんの場合二日酔いだったりして」
「昨日は呑んでないわよ」
「おや、珍しい」
「病院で血圧計ると「低い」って言われるの」
これは本当みたいだぞ。
朝が苦手な言い訳ではなさそうだ。
〈遊は棚から石を出す〉
「左手出して」
「え?何よ?」
「これ握ってて」
「何の石?」
「ラブラドライト。血圧を安定させるんだ」
「本当に効くの?」
「しばらくそうしてて。あ、動物病院は?」
「今日はお休みよ」
「それなら良かった。石を握ってリラックスしてね」
「そんなんで治ったら病院いらないわよ」
「信じないと、石が頑張れないよ」
「頑張るの?石が?生き物みたいに言うのね」
「植物は生き物?」
「そうでしょう、枯れるから」
「石も死ぬから同じだよ」
「わけがわからない…石よ。死なないでしょう」
「花が枯れるのと同じ」
「石は枯れないし」
「エネルギーが枯れる」
「そんな事有るんだぁ」
「エネルギーは信じる?」
「私は感じないけど、麻里愛ちゃんは感じるのよね」
僕が言っても信じないけど、麻里愛ちゃんが言うと信じるんだね。
まあ、良いけど。
「ああ気持ち悪っ、信じるから治して」
そうそう、それで良いんだよ。
そうやって石に言えば良いんだ。
「お待たせしました」
「コーヒー飲んで大丈夫?気持ち悪いのに」
「目が覚めると思ったんだけど、ごめんなさい、飲めないかも」
血圧計は無いけど、気持ち悪いのが治ればわかるね。
「朝ご飯もここで食べようと思ったんだけど…」
「もう少しすれば楽になると思うよ」
だいたい愛理さんて料理とかするのかな?
しなさそうだな。
「お腹は空いてるんだけどね…」
「朝ご飯食べてないんだもんね」
「いつもは、コンビニとかで買って病院開けるのよ」
「やっぱりか」
「何よ?やっぱりって」
「自分で作らないの?」
「時間が無いのよ。料理は得意じゃないし」
〈遊は棚から石を出す〉
「これも一緒に持って」
「今度は何?」
「水晶と」
「水晶ぐらいわかるわよ」
「カーネリアン」
「これは何で?」
「カーネリアンはデトックス。添加物の多い食生活みたいだからね」
「添加物ね…まあ、そうかもね」
「お弁当とかに入ってるよ。明記する事を義務付けられている添加物は、裏とかに書いてある。書いてないのも入ってる可能性も有るね」
「お弁当ばっかり食べてないわよ」
「他には?」
「パンとか」
「市販のパンは添加物多いし、マーガリン入ってたり、小麦粉も漂白してたりで良くないね」
「じゃあ何食べれば良いのよ?野菜?」
「野菜も残留農薬が有るから出来れば酢を薄めた水で洗った方が良いよ」
「もう、食べて良い物なんて無いじゃない」
「安全な食べ物って無いのかもね」
「じゃあ、空気だけ吸って生きる?」
「空気も汚染されてるよね」
「そっかぁ」
「あら?気持ち悪いの治ってる。それに何だかポカポカして来たわ」
「血流が良くなったんだね。もう血圧も大丈夫そうだし」
「本当にこの子達が治してくれたのかしら?不思議ね」
この子達か…少しは信じてくれたかな?
「ねえ、血流を良くしてくれたのはどれ?」
「カーネリアン」
「これね。じゃあ、血圧は?あ、これか。何て名前だっけ?」
「ラブラドライトだよ」
「皆んな、ありがとね」
そうそう。
そうやって石に言うと、頑張るんだよね。
ありがとうと言う言葉のパワーって凄いし。
ありがとうって言ってる時、ネガティブになってる人って居ないと思うんだ。
その時だけでもポジティブなエネルギーになる。
だから良いんだよね。
それを石が感じて、ポジティブなエネルギーの状態を保とうとするんだ。
そう言えば「ありがとう」のパワーの話し、前に本店の子達に話したよな。
ご飯に「ありがとう」って言って、何日も腐らなかった話しね。
「おはようございます」
「あっ」
〈遊と愛理を見て足を止める麻里愛〉
「おはよう」
「愛理ちゃん来てたんだ」
「来るわよ、彼のお店だもん」
「彼?」
「私の彼」
「えっ?」
え?えーっ?
またそんな事言うかぁ?
「彼なの?天空路さん。愛理ちゃんの?」
「ちっ、違う違う違う、違うからっ」
「そんなに思いっきり否定する?冗談よ」
「もう、なんだあ。あれ?麻里愛は?」
〈真理絵が振り返ると少し離れた所に麻里愛が居る〉
「ねえ、麻里愛ちゃん。ちょっとこれ持ってみて?」
「え?あ…うん」
〈愛理は今持っていた石を麻里愛に渡す〉
「どんな感じ?」
「強いです。お腹から胸…そして、身体全体に行きます。ポカポカして来ました。手が暖かい」
まあそうだね。
カーネリアンは第1、第2チャクラ。
ラブラドは色々言われているけど、全てのチャクラに行くエネルギーだね。
水晶もそう。
「へー、そうなんだぁ」
【カウンター】
〈タマがカウンターの近くの棚から羊里を見ている〉
「(それ誰のご飯?)」
「待ってろよ。今飯作ってやるからな」
「(俺のだぁ)」
「ニャー(お腹空いたわ)」
「ポンも来たのか?魚を煮てるから待ってろ」
〈タマがポンを嘗めてやっている〉
【売り場】
〈すっかり元気になった愛理。遊と楽しそうに笑いながら話している。棚の整理をしている麻里愛は2人の様子が気になりチラチラと見ている〉
「(本当に付き合ってないのよね?でも、お似合い?楽しそうね…何でモヤモヤするのかしら?私…天空路さんの事…好きなの?ううん、そんな事…)」
「麻里愛、やっぱり気にしてる」
「何が?」
「天空路さんと愛理ちゃんの事よ。気になるんでしょう?」
「別に、そんなんじゃ…」
「今にも泣き出しそうな顔してたよ」
「え?私そんな顔してた?」
「うん」
「どうして?」
「どうしてかねぇ?好きなんじゃないの?天空路さんの事」
「だから、違うって言ってるじゃない」
「何ムキになってるのよ?(好きだからムキになるんでしょうよ)」
【天空路家のキッチン】
〈春陽が料理をしている〉
「ニャー(美味しい匂い)」
「ミュー(お腹空いた)」
「これはダメよ。お腹空いたの?」
「ミュー、ミュー(おやつちょうだい。おやつおやつ)」
〈春陽は戸棚から猫のおやつを出す〉
「ニャー(おやつだわ)」
「はい、どうぞ」
「ミュー(美味しい)」
「ねえ、あなた達のパパちゃん今日は早く帰るかしら?」
「(パパちゃん?)」
「(せっかくお料理作っても、温め直したら味が落ちちゃう。この為に出来るだけ早番にしてもらってるのよ。それなのに…シャツにお化粧なんかつけて帰って来るんだもの)」
「(春陽ちゃんどうしたの?)」
〈Lapisが春陽の顔を嘗める〉
「Lapis」
〈春陽はLapisをぎゅっと抱く〉
【夢が丘ハム】
「あら、天空路さん。いらっしゃい」
「こんばんは」
「今日は、焼豚ぐらいしか残ってないよ」
「あら、焼豚が残ってるなんて奇跡。私頂くわ」
「はいよ」
愛理さんだ。
やっぱり料理しなさそうだよね。
「焼豚もこれで終わり。天空路さん、猫ちゃん達にササミ持ってってあげて」
「いつもありがとうございます」
【Lapis夢が丘店】
「これは明日羊里君に煮てもらおう」
〈遊はササミを厨房の冷蔵庫にしまう〉
「天空路さんも呑む?」
「僕は注文のアクセ作らないといけないから」
「あらそう」
〈焼豚をつまみにビールを呑む愛理。遊は工房に入って行く〉
「ニャー(美味しそうな匂いがするわ)」
「ポンちゃん。これは味が付いてるからあげられないのよ」
「ニャー(お腹空いた)」
「天空路さーん。ポンちゃんにカリカリあげるわよー」
「カウンターの棚に有るよ」
「わかってるー」
【工房】
お腹空いたな。
軽く食べようと思って夢が丘ハムさんに行ったんだけど、何も買えなかった。
「ねえ、私の出来てる?」
〈愛理が工房を覗く〉
「今浄化中。明日には渡せるよ」
「楽しみだわ。はい、あーん」
って、口に入れられちゃった。
美味しい。
夢が丘ハムさんの焼豚。
本当にあそこのお店は何でも美味しいな。
「ねえ、帰りに呑んで行かない?」
「今日はやめておくよ」
「(何よ、つまんないわね。付き合ってくれても良いじゃない)」
【天空路家のリビング】
〈ソファーに寝ていたLapisがムクっと起きる〉
「Lapisどうしたの?」
〈玄関を気にするLapis〉
「(パパちゃんだわ)」
〈Lapisが走るとRutileもついて行く〉
【玄関】
〈鍵を開ける音〉
「ミュー(パパちゃん!)」
「ニャー(早く)」
〈ドアの音〉
「ただいま」
〈いつものようにLapisを肩に乗せてRutileを抱く遊〉
何だか良い匂いがするぞ。
【キッチン】
「お帰りなさい」
「ただいま」
春陽ちゃん来てくれてたんだね。
「(今日はお化粧つけて帰ってないかしら?)」
食べて帰らなくて良かったよ。
「はい、お兄ちゃん。ご飯」
「ありがとう」
「冷めないうちに食べて」
「頂きます。これ美味しい」
「そう?良かったわ」
昔料理の練習台にされてた時は、美味しそうに見えて、食べてみると「えっ?」だったり、見た目はアレだけど食べると美味しかったり色々だったけどね。
今は見ても食べても美味しい。
恋人が出来た時の為に練習するんだ、って言ってだけど、そのへんはどうなってるんだろう?
もう、いつ恋人が出来ても大丈夫な感じだけどね。
僕が食べてて良いのか?
待てよ…
それより、春陽ちゃんに恋人が出来たら、もう僕は食べられなくなるのか。
それはちょっと…
何モヤッとしてるんだろう?
美味しいご飯が食べられなくなるからだよ。
そこ?
こんな美味しい料理を毎日食べられる奴が羨ましいぞ。
って、待て待て…
殆ど毎日のように家に帰ると春陽ちゃんが居るよな。
まあ、今始まった事じゃないけど。
良いのか?
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