第3話良い獣医さん?
【麻里愛の家の隣】
〈車が止まり女性が子供を連れて降りてくる〉
「ちょっと!誰がそこに車を停めて良いって言ったの?!」
「あの…ここ、母の家なので」
「ここはうちの土地です!車を停めて良いなんて言った覚えは無いわね!」
「あ…すみません…」
〈家から母親が出て来る〉
「どうしたの?あ、大屋さん」
「ここに車を停めないでちょうだいね!わかったわね?!」
〈ブリブリ怒って去って行く四柱見栄〉
「あの人が大屋さんか…お母さん、どうしよう?車…」
「あら、稲ちゃん。どうしたの?」
〈隣の家の窓から顔を出しているのは麻里愛の祖母の富さん。稲さん親子は今の四柱の件を富さんに話した〉
「何だかまた怒鳴ってたと思ったら、本当に意地悪ね。どうぞうちに停めてください」
「良いんですか?」
「良いのよ、良いのよ」
「悪いね富さん」
【麻里愛の家】
「稲さんどうしたの?」
「車ぐらい置かせてあげれば良いのに、四柱さんがダメだって」
「それで怒鳴ってたんだ…ハア、凄い邪気だわ…真っ黒」
「ミャー、ミャー」
「あら?子猫の声?」
「稲さんが可愛かってる野良ちゃんが赤ちゃん産んだのよ」
「キャー子猫?見たい。あ、でも角のお家の猫みたいに酷い目に遭わされないと良いけど…」
【花屋】
「ありがとうございました」
〈寿宴の花屋からお客さんが帰って行く。店内の花は数少なくなっている〉
「あら、今日はもう閉めようかしら?そうだ!」
〈携帯電話を取り出しどこかへ電話をする宴〉
「あ、モシモシ。今日お店お休みでしょう?ねえ、付き合ってくれない?」
【駅のホーム】
「で?どこに行くんですか?」
「天空路さんの支店。素子なら知ってると思って」
「何で私が一緒に行かなきゃなんないんですかあ?」
「知ってる?夢が丘温泉駅に有るんだって」
「この前カットに来た時、そんな事言ってましたけど」
「ああ、良かった!じゃあ場所わかるのね?」
「前はレストランだったって言うから、たぶんあそこだと思うけど…たぶんですよ、たぶん」
【Lapis夢が丘店】
はあ…
今日は麻友さん来ないよな?
いや、来てくれるのは嬉しいんだけどね。
「遊ちゃん。俺が手伝えるの今月一杯だからな」
「うん、わかってる。バイト募集しないと」
「へへ、ポスター印刷しといたよーん」
「おお!」
入り口の窓の所に内側から貼れば良いかな?
セロテープは…
有った。
〈遊がポスターを窓に貼っていると硝子の向こう側から顔が覗く〉
あ、来たね。
〈ドアの音がして二人が入って来る〉
「昨日の約束覚えてますか?」
「アクセサリー制作講座受けに来ました」
「いらっしゃいませ」
ここの工房は少し囲って有るだけで、店内からも窓の外からも見えるようになっているんだ。
まずはビーズを選んでもらおうかな?
「うーん、迷っちゃう」
「何を作るかにもよるわよね?」
イヤリングとペンダントトップを作る事に決まったみたいだね。
金属パーツを出すと、彼女達の目が輝いた。
女の子だな。
〈ああでもない、こうでもないとパーツを選ぶ麻里愛と真理絵をニコニコして見ている遊〉
「私これにする!」
「私はこの金具をつけるわ」
「バチカンだね」
「そう言う名前なんですか?」
「うん」
ピンを丸めただけの物よりも、バチカンを付けた方がペンダントトップもちょっとグレードアップする感じだよね。
「私揺れるタイプのイヤリングにしたい」
「こんなふうにパーツを繋げたり、タッセルを付けても良いね、例えば、チェーンでタッセルを作るとか」
「やってみる!」
【夢が丘温泉駅近くの階段】
「ここの駅初めて降りたわ」
〈素子と宴は駅を出て街の階段を下りる〉
「ここを下りて左が温泉街で右に行くとヨーロッパのリゾートっぽくなってるんですよ」
「じゃあ、右?」
「右に行ってすぐですけど」
【商業地区】
「あら、本当。こんな素敵な所が有ったなんて」
「その先が天空路の店だと思いますけど」
【Lapis夢が丘店前】
「ここかしら?看板にLapisって書いて有る…でも何か石屋さんぽくないわね」
「そう言えば、カフェスペースを残して、石はオーダーだけ受けるって言ってたな」
「ねえ、向こうの窓見て」
「あ、天空路だ」
「入るわよ」
「はいはい(何してるんだろ?私…別れた彼のお店に来て。まあ、遊ちゃんもうちの店に来るし、腐れ縁?)」
【店内】
「いらっしゃいませ」
「天空路さん接客中ね」
「オーナーにご用でしたか?」
「ええ、ちょっと相談が有って来たの」
「何かアクセの作り方教えてるみたい」
「アクセサリー制作講座ですよ」
「コーヒー飲んで待ってるわ」
【工房】
「出来た!」
「待って、タッセル付けたら終わり」
インカローズのイヤリングとロードナイトのペンダントトップ。
邪気祓いの石って言ってたけど良いのかな?
やっぱり年頃の女の子は、邪気祓いより恋愛や美しくなる石が好きなのかな?
ピンク色の嫌いな女性ってあんまり居ないよね。
あ、宴さんと素子ちゃんだ。
【テーブル席】
「いらっしゃいませ」
「ああ、天空路さん。支店を出したって聞いて、これお祝いのお花」
「うわぁ、可愛い蘭だね」
「エリデス・ローレンセアエよ」
「ありがとう。店内が華やかになるよ」
「今日は天空路さんに相談が有って来たのよ」
「え?僕に出来る事なら何でも言って」
「クリスタルの去勢手術をしないと、スプレーって言うの?アレが始まると大変らしいわよね」
「そうだね」
「良い獣医さん知ってたら教えて」
「うちの主治医は荻窪なんだよ」
「え?何でそんな遠く?」
「知ってる、テレビとか出てる赤髭先生だよね?」
「父が荻窪出身で、今の先生のお父さんの代からずっとうちに来てくれてたから。こっちに引越してからも注射とかは来てもらってるんだけど」
「そう…手術に連れて行くのは無理だわ」
「そうだよね」
「信頼出来る先生じゃないと怖いし」
「あの…ごめんなさい。うちの親戚が獣医なんですけど…」
「あら本当に?」
「はい、腕は確かですよ」
「どこに有るの?病院」
「この街です」
「明日でも行ってみようかしら?」
【天空路家】
〈rutileがLapisを追いかけて走る〉
また始まったぞ。
仕掛けるのはrutileなんだけど、Lapisが本気になったら…
「ニャ(お姉ちゃん、待てーーー)」
「(もう、いい加減にしなさいよね)」
ほら、今度はLapisに追い詰められてrutileがダンボールの箱に逃げ込んだ。
「クリスタルとrutileは兄弟だからな、うちの子もそろそろ去勢を考えないといけないんだよな」
「あら、Lapisの赤ちゃんは?」
「え?」
「産ませないの?」
「えっ?rutileがパパ?」
「そうよ、決まってるじゃない」
春陽ちゃんに言われるまで考えてなかった。
甘えん坊のLapisがお姉ちゃんになったのもびっくりだけど、rutileがお婿さんで赤ちゃん?
でも、rutileはまだ子供子供してて、Lapisの事お姉ちゃんだと思ってるんだよな。
それは、もう少し時間がかかりそだぞ。
最初の頃は親だと思ってお乳を探してたもんな。
「赤ちゃん生まれたら可愛いけど、僕の手は2本しかないし、Lapisとrutileだけで手一杯だよな。Lapisを可愛がってるとrutileが見てるし、rutileを可愛がってるとLapisが見てる。だからいつも、両方の手で二人(?)を可愛いがるんだ。赤ちゃん生まれたらどうしよう?」
「お嫁さん貰えば良いだけの事よ」
お嫁さんね…
「(お兄ちゃんの優柔不断が直ったらお嫁さんになってあげても良いわよ)」
【夢が丘温泉駅近くの階段】
〈翌日〉
「おはようございます」
「おはようございます。ありがとうね」
真理絵ちゃんが、親戚の人の動物病院に連れて行ってくれるんだ。
今日は僕は店が休みだから付き添い。
階段を降りて温泉街の方へ行く。
【動物病院前】
「ここです。ちょと建物は汚いけど、勿論衛生管理はちゃんとしてますから」
ああ、荻窪の獣医さんも、お父さんの代の時は汚い病院だったよな。
でも、凄く良い先生だった。
今のお兄ちゃん先生もだけどね。
「ボランティアで野良猫の避妊手術とかしてて、お金儲けは得意じゃないの。それで病院中々立て替えられないのは困り物だけどね」
「良い先生なんだね」
「そうなのよ」
真理絵ちゃん、ニコニコして嬉しそうだね。
【動物病院の中】
「愛里ちゃん。昨日話した人連れて来たよ」
「はい、いらっしゃい」
愛里さんて言うのか、素敵な人だな。
血液検査をして大丈夫そうだから、クリスタルは預けて夕方取りに来る事になった。
「ねえ、この前の保護した猫の里親決まった?」
「うん、ボランティアに頼んだ」
そういう事もしているんだね。
本当に良い先生だな。
さて、僕は休みでも店は開いてるから行ってみるかな。
【Lapis夢が丘店前】
「私も夕方までここで時間潰して良い?」
「どうぞ、どうぞ」
宴さん、一度帰ってまた電車乗って来るの大変だもんな。
【店内】
「いらっしゃいませ、寿様(あら、一緒だったのね)」
「こんにちは。今日はこっちなんですね」
あれ?
麻友さん来てたんだ。
「私、コーヒーとチーズケーキお願いします」
「はい、畏まりました」
羊里君と二人で居たのか。
来てみて良かったよ。
「本店は春陽ちゃんと由良ちゃんが居るから、大丈夫です。二人にも「夢が丘店の様子見て来てください」って言われたの」
そうなんだ…
「本当は二人も来たいのよ。今度は順番に来させますね」
それは良いんだけど…
今まで羊里君と二人だけだったんだよね?
大丈夫だったのかな?
【麻里愛の家】
「また外で四柱さんの怒鳴り声がする」
「稲さんが怒鳴られてるわね、どうしたのかしら?」
〈窓の外で四柱見栄の怒鳴り声がする〉
「野良猫に餌をやらないで頂戴!私猫は大嫌いなのよ!薬でも撒こうかしらね」
「市役所に言って処分してもらうか?」
「そんな…生き物を処分だなんて」
「文句が有るなら出て行ってもらって結構です!」
「夫婦で来てるわね」
「聞こえてる。酷いね」
「猫が嫌いだから処分だなんて、良くもまあ、そんな酷い事を」
「あの人犬派だから。珍しい犬飼って自慢してるんだよ」
「あら、真理絵ちゃん。いらっしゃい」
「四柱さんの親戚も獣医なんだけど、物凄い金儲け主義で、検査だ薬だって儲けて凄い病院建てたのよ。愛里ちゃんとは大違いだよ」
「四柱さんの親戚じゃあ、間違ってもボランティアはしそうにないわね」
「お隣の猫、愛里ちゃんに里親探し頼んでみようか?」
「稲ちゃんに相談してみるわね」
【稲さんの家の玄関】
「里親か…居なくなったら寂しいけど…このままじゃ殺されちゃうしね、お願いしようかね」
【夢が丘動物病院】
「そういうわけなのよ」
「父親と母親と子猫二匹ね、兎に角捕獲しましょう。親達は避妊しないと」
「里親さん見つかると良いわね」
「それが中々大変なのよ。でも探してみるわ。あなた達も里親探ししてみて」
「うん、友達とかに聞いてみよう」
【聖百花学園】
〈翌日〉
「どうだった?」
「皆んなに聞いてみたけど、猫は飼えないって」
「そっちもか…」
「ねえ、天空路さんに相談してみない?」
「協力してくれるかな?」
「だって、寿宴さんの猫も保護したの天空路さんだって言ってたじゃない」
「うん、そうだけど」
「クリスタルちゃんの兄弟は天空路さんの家で飼ってるって言ってたし」
「だからって後二匹、いや、親達も保護したいから四匹だよ。飼ってくれると思う?」
「うーん、でも、相談してみようよ。天空路さんが飼ってくれたら、稲さんに会わせてくれると思うの」
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