いけいけ!ぼくらのリジャスト・グリッターズ!
よくわかる?スパ◇ボ「」の説明小説
西暦2098年……地球は未知の敵、パラレイドによって存亡の危機に立たされていた。
全地球規模での最終戦争は、文明の全てを闘争へと駆り立てる。
彼ら学生は皆、
「統矢君。ちょっと、いいですか?」
透き通るような声に統矢は、手に持ったタブレットの図面から顔を上げる。
ようやく暖かくなり始めた五月の上旬、統矢は昼休みを屋上で過ごしていた。金網の外を見下ろせば、生徒たちが中庭でバレーボールをしたり、そこかしこで弁当を広げたり……
そんな彼の前に、見るも
凍れる無表情でじっと統矢を見詰めてくるのは、同じクラスの委員長、
その千雪が、春風に髪を抑えながら統矢を覗き込んでいた。
「少し、そのタブレットをお借りしたいのですが」
ニコリともせず、
統矢は最初、なにを言われているか訳がわからず首を傾げた。
物資が不足し、日本皇国の生活レベルは昭和中期まで後退している。タブレットなどという文明の利器は、見たこともないという世代さえいるのだ。そして、統矢が持つこれは大事なもの……消滅した北海道で戦死した幼馴染、
「え、いや、お前……なにすんだよ」
「ありがとうございます、では」
「あっ、ちょっと待て! いいなんて言ってないだろう!」
ヒョイと千雪は、あっさり統矢からタブレットを取り上げてしまった。
慌てて立ち上がる統矢は、軽い身のこなしで伸べる手を避けられる。
「また、図面とにらめっこですか? 統矢君」
「しょうがないだろ! 俺はあの機体を……【
「……ここの強度計算、間違っています」
「マジ? ちょ、ちょっと見せろよ」
慌てて統矢は、千雪の白く細い指がなぞる画面を覗き込む。
千雪は直ぐにデータを修正して、パンツァー・モータロイド……通称
ぎこちない手つきで千雪は、どうやら青森校区のネットワークへとタブレットを接続したいようだ。だが、それが統矢には気が気ではない。タブレットは個人の空間で、故人との思い出が詰まっている。更に言えば、同世代の女子には見せられない、男子故の
「ええと、ネットワークへの接続は……これでしょうか? 違いますね、でも統矢君。こういう趣味なんですか? いけない人ですね」
「おいバカやめろっ! 違う、そのグラビア画像は
「兄がいつもすみません。……統矢君が自分で使う、こういう画像はないんですか?」
「使うとか言うなっ、生々しい!」
「このフォルダでしょうか……あっ」
千雪の奴はとうとう、写真が詰め込まれたフォルダを開放した。
そこには、ショートカットの美少女の笑顔があった。北海道校区の教室で、自宅のキッチンで、そして統矢と一緒にPMRの前で。戦友にして幼馴染、更紗りんなの在りし日の肖像……それはもう、永遠の世界へいってしまった。
我ながら女々しいと思っていたが、統矢はそうした写真を消せずにいた。
そして、りんなそっくりの謎の少女、更紗れんふぁが現れた今でも時々眺めている。見ればみるほどにりんなとれんふぁはそっくりで、そのことがどうしても気になるのだ。
「……すみません、統矢君。少し、度が過ぎました。あら? こっちの写真は」
「思い出だけを詰め込んでると、ちょっと重いからな。お、お前な、千雪……その
千雪が最後に見せたのは、統矢の新しい仲間たち……この青森校区の
部活の仲間と言うには、絆は鉄と血で
明日には誰かがいなくなる、そういう現実と背中合わせの仲だった。
「……いいんだ、千雪。ネットだろ? 貸せよ、繋いでやる」
「は、はい」
おずおずと差し出されるタブレットを千雪に持たせたまま、手慣れた様子で統矢は指を走らせる。どの校区も、基本的には皇国軍、そして
かつて世界を覆って席巻した
「ほら、繋がったぜ。あと、わかるか?」
「はい。ありがとうございます、統矢君」
「しっかし、お前がネットなあ……なにすんだ?」
「勿論、ゲームです」
「……は? げぇむ、だあ?」
「今、ダウンロードしてます……スパロボ、スーパーロボット大戦です」
美貌のクラス委員とゲーム、どうも統矢の中で結びつかない。しかし、タイトルを聞いて妙な納得が湧き上がる。千雪は無類のPMR好き、そしてロボ好き……時々ちょっとメカフェチなのだ。
千雪は「ほら、見てください」と、金網により掛かる統矢に身を寄せてくる。
統矢にも画面が見えるように、ぐっと顔を近づけ、豊満な胸を押し付けてくるのだ。
自然と統矢は、甘い
「どっ、どど、どんなゲームなんだ? ロボか? お前の好きなメカメカしいやつか?」
「はい。今世紀初頭に大流行した作品で、今も有志の手によって存続されてるんです。個々に性能の違う人型機動兵器を指揮し、戦術的な勝利を積み重ねてゆくシミュレーションですね」
「あ、ああ……なあ、千雪。ちょっと顔が近――」
「いいですか、見ててください。自宅のデータを呼び出しました、今は第48話『栄光の落日、再び』です。……どうしても、統矢君にも、見せたくて」
嬉しそうに千雪は、少し不慣れな様子で画面を触ってゆく。
……多分、はしゃいでるんだと思う。
いつもの無表情を、僅かに弾ませ目元を緩めたあの顔は。
画面には3D表示でマップが表示され、デフォルメされた等身の低いロボットが沢山並んでいた。そして千雪は、自分だけのスーパーロボット軍団を指揮する司令官なのだった。
互いの呼気が肌を撫でる距離で、千雪はゲームを再開し始めた。
「えっと……相手を全滅させればいいのか?」
「そうですね、このマップはそうです」
「……数が全然違うぞ? 相手は五倍以上の兵力だ」
「大丈夫です、こちらは一騎当千のスーパーロボット軍団ですから!」
「……た、楽しそうだな」
「はいっ!」
要領を覚え始めたのか、千雪の操作は少しなめらかになっていった。
そして、画面上でアイコンが進軍を開始する。
画面の中のゲームという戦場を、統矢はぼんやりと眺めつつ……やっぱりどうしても、密着してくる千雪の体温が気になる。二の腕に当たるたわわな柔らかさが気になるのだ。
「では、サクッとクリアしてみましょう。スパロボ必勝パターン、開始です!」
「……おいおい、全軍で前進かよ。後詰は? 予備兵力は、そもそもだな――」
「メリッサを先行させ、集中をかけて単騎突入……敵のターゲットを中央に固定」
「待て、千雪。独断専行だ、無茶な進軍だぞ! ……ま、まあ、俺が言えたことじゃないけど」
「トール一号機とピージオンで命中率補正、そのまま速やかに火力を集中です!」
「これが指揮官機か、で……おいおい、電子作戦機までいるのか。ほ、本格的だな」
「最後は、ゴーアルターと神牙を中心としたスーパー系で中央を突破!」
「単なるゴリ押しじゃねーか! ってか、まるで武装や配備機に統一感ねぇな、この部隊」
「ふふ、
千雪は、楽しそうだ。
あの千雪が、表情こそ変わらないが楽しそうにゲームをしている。
画面の中では今、どうやらボスキャラらしき巨大ロボの周囲を、正義のスーパーロボット軍団が囲んでいる。
「な、なあ千雪……お前の指揮、な。これ、密集させすぎじゃねえか?」
「バルトさんの指揮範囲内は、命中と回避が高くなるんです。これは、アレックス君のジャミング範囲内でも同じですね。そして、この機体……」
「えっと、ヴァルキリー?」
「御巫先輩の89式【
「お、結構かわいい
「……統矢君、こういう感じの女の子がタイプですか……チェックですね……」
「ん? なんか言ったか? で、ボスがなんか」
「ああ、
援護攻撃シフトだとかフォーメーションがどうこうだとか言っていた、千雪のユニットたちが光の中に消えた。どうやらボスを中心に固まり過ぎてたらしく、大規模殲滅兵器で文字通り一網打尽にされてしまった。
千雪は「まあ」と目を丸くして、それから慌てて画面に食いついた。
「だ、大丈夫です。ゴーアルターは硬いので、寧ろ
「なんか、一機だけ派手に食らって爆発したぞ? いいのか?」
「ああ……統矢君の【氷蓮】が……そうですよね、装甲900しかないですもんね」
「俺かよ! ってか、俺たちも出てるのかよ!」
「ありがとうございます、統矢君……そして、ありがとうございました。
「勝手に殺すな」
味方のターンが回ってくるや、千雪は整然と並んだユニットたちに一斉攻撃を指示する。ゴーアルターや神牙といった強力な攻撃力のユニットを、ピージオンやヴァルキリーが援護攻撃で補佐。次にトールの一号機と四号機が合体技を浴びせると、ボスのHPが二割を切り――
「お、おい千雪……敵の増援みたいだぞ」
「大丈夫です、統矢君。メリッサを既に防衛戦に配置完了しているので」
「……意外とえげつないことするな、お前。で? ボスが弱ってるから、トドメだろ?」
「そうですね……ここで私の、我が軍の切り札を投入します!」
すすーっと千雪が、空色のアイコンへ指を向ける。
だが、表示されたステータスに統矢は、あまり明るくないゲーム的な知識で口を開く。これは……素人でもわかる、統矢でもなんとなく知れる。
「なあ、千雪。このユニット、あれじゃないか? ……弱くないか?」
「! ……な、なんてことを言うんですか、統矢君! 私、怒りますよ?」
「半端な装甲に微妙な運動性? これが防御力と回避率なんだろ? えっと、攻撃力もそこまで高くないし……オマケに、射程が1しかない武器が、移動後に使えないって駄目だろ」
「あ、あうう……そ、それは」
「加えて言えば、えっと、合体攻撃?
「……このユニットは……私の……89式【幻雷】
あっ、と思った時にはもう、遅かった。
千雪はなんだか、プルプルと小刻みに震えている。
ヤッチマッタ……核弾頭級の戦略地雷を、全身全霊で踏み抜いてしまった。
そんな時、救いの
そうこうしてると、セーブしてから千雪がゲームのアプリケーションを終了する。
これはフォローしないとまずいと思って、統矢が言葉を選んでいると――
「……もぉ、いいです。これはこれで、とりあえず。それで、統矢君」
「は、はいぃっ! な、なんでしょうか千雪さん、ええと。そ、そうだ、帰りに甘いもんでも食ってくか? その、スパロボ? あとでゆっくりやれよ。タブレット、貸すから、なあ」
「……このタブレットには、カメラが付いてるんですよね?」
「あ、ああ。ほら、これだよ。ここを」
千雪は、ぷぅ! と小さく頬を膨らませていたが、統矢がカメラを起動させてやると、タブレットを自分へと向けた。
そして、統矢に身を寄せてさらに密着度を増し、頬と頬が触れる距離でフレームに二人を納める。
「お、おい、千雪」
「笑ってください、統矢君」
「……お前が言うな、お前が。お前こそ、なんだ? 笑えよ。なんで写真なんか」
「撮ります。はい、チーズ……のたっぷり載ったピザと冷えたコーラが待ってるぜ、野郎ども。パラレイドを倒してさっさと帰投だ、ガンホー!」
「棒読みだぞ、千雪。っていうか、なんだよそれ」
「海兵隊のグレイ大尉に教えてもらいました。……写真、撮れましたね。では、教室に戻りましょう」
不思議と千雪は、統矢とのツーショットを撮ったら機嫌が治った。彼女はその写真を、先ほどのフォルダの一番新しいフォトとして保存する。
どうして一緒に写真を撮ると、機嫌が治るのか……?
女というのはワカランと、統矢は肩を
「さ、統矢君。時間がありません、戻りましょう」
「お、おう」
「それと、ページ数もあまりありません。シメてください、主人公的に」
「……お前なあ、メタ発言にも程があるぞ? な、なんだよ、シメって」
「宣伝でもしたらどうでしょうか、ギリアム・イェーガー少佐みたいに」
「あ、ああ……ええと……リレイヤーズ・エイジもよろしく! ……って、なんだかなあ」
統矢は
東北の短い春を揺るがす、パラレイドの大規模な本土再侵攻……その第二の次元転移が青森を襲う直前の、平和な学園生活のひとときだった。
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