ミニフィクション・不特定もの

小書会

卓球台

 この間上がってきた企画書にひとつ、目を疑いたくなる一品があった。


「閉じない卓球台」


 最初これを見たときは意味が分からなかった。まず、卓球台が閉じるものだということ。これは知識不足であったが、移動や収納の都合で卓球台は天板を起こして垂直な状態での移動と収納が可能らしい。それは別にそういうことでいいのだが、問題はそれの閉じないものを作りたいという意図だった。


 新しい卓球台がほしいという声はどこからサンプリングしたか知らない、いや、あったとしてもそれは単に備品の更新であって、従来の閉じるやつでいいんじゃないだろうか。閉じないことによるメリットがよくわからない。ただただ収納に困るだけじゃないか。


 正直会議に通すつもりは全くないが、気になってしょうがないので提出した田口君に閉じない理由を聞いてみた。


「けがするからですよ」


 本当に単純な答えだった。確かに閉じるという構造上、うっかり閉じたときに手を挟んでしまうことは十分に起こり得る。

「違いますよ。体ごと挟まれるんです。あれですよ、ああやって上向きに閉じるじゃないですか。そのときにうっかり体を持って行かれて、上の方でバチン!って」


 ちょっと言っている意味がよく分からないんだけど。


「え? 分からないですか? だから、この手を卓球台として、これが…こう! ね」

 いや…うん……それはいいんだけど、なんだかね、信じがたいというかね?

「これで毎年1000人は病院送りなんですよ」

 ええ? それで? 本当に?


 そのショックで思わず納得してしまった。

 私は企画会議にその企画書を出した。田口君は誇らしげな顔をしていた。


 企画会議の結果は…まあ、聞かなくてもいいだろ?

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