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「お待たせいたしました。ジンジャー・ホット・トディでございます」
彼女の前に差し出したのは、ジンジャーハニードリンクのホットカクテル版みたいなやつ。美味しくて温まれるこの季節にピッタリの酒だ。
「・・・美味しい」
「お気に召したようでなによりです」
「ありがとうございます」
ホッとしたような表情を見せてくれた。その表情に何かが引っかかる。何処かで見たことがあるような、会ったことのあるような? もしかして一度来店されたことがあるのかも? でもこんな美人忘れるか? 普通。
それくらい印象が強い女性だから。
「ごちそうさまでした」
結局答えが分からないまま時間が過ぎた。
「良かった。少し雨足が弱まっているみたいです」
「良かった。安心しました」
「本当にタクシーは良かったですか?」
「大丈夫です、お気づかいありがとうございます」
「いえ、ではせめて傘だけでも」
彼女は傘も持たずに来店した。俺の可愛いとも格好いいとも言えない、超絶普通のビニール傘を渡す。こんなのでもあった方が良いに決まっているから。
「そんな」
「お風邪を召されてもいけませんから」
「・・・恐れ入ります。お借り致します」
「いえいえ、何処かで処分頂いても結構ですのでお気になさらず」
突然の雨で買っただけで、ただの置き傘になっていた奴だし。
「そんなわけにはいきません。タオルと一緒にお返しいたします」
「あ、いえ、タオルは」
「いいえ、後日お返しに参りますので、その時までどうかお貸しくださいね」
「お客様」
「今日は本当に良くしてくださってありがとうございました」
彼女は最後に微笑んで颯爽と帰って行った。もうちょい良い傘置いておくべきだったなぁ、なんて思いながら、ふ、と湧き上がってきた。見たことある、道理で見たことある。急いでもう一度扉を開けた。外は雨。彼女の姿はもう見えなくなっていた。
彼女は、あの、超絶人気歌手の・・・
「桜小路ありあじゃん・・・まじか」
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