雨宿りの君

カゲトモ

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 カロン、と扉のベルが鳴ったと同時に、帽子をかぶった女性が飛び込んできた。外は雨が降っていて、彼女はずぶ濡れだ。確か今日は夜から強い雨に変わると天気予報で言っていた。だからか今日は客入りが悪く、今店内にいるのは俺と彼女だけだ。

 彼女は服に付いた雨を払い落としている。

「いらっしゃいませ。お客様、よろしければこちらをお使い下さい」

 バックルームから素早く一枚のタオルを取って来た。先日町内会の清掃の時にもらったものだが、無地で有名所のタオルだったので一度洗濯して持って来ていたのだ。ナイス判断、俺。

「いえ、お構いなく」

 彼女はメガネの奥の瞳を優し気に細めて遠慮がちに言った。小さなバックから取り出したハンカチでは間に合わないのは目に見えている。

「遠慮なさらずにお使いください」

 もう一度差し出すと、彼女は少し迷うようにしてから申し訳なさそうに受け取った。

「どうも御親切にありがとうございます」

「とんでもございません」

 彼女にタオルを渡して暖房の温度を一度上げた。今日は雨のせいかとても気温が低くて寒いから。

 一通り拭き終わってから彼女が帽子を取る。艶やかでふんわりと巻かれた髪。こんな雨の日なのにその影響を受けていないのは凄い、なんて変な関心をしながらにっこりと微笑んだ。

「酷い雨になりましたね」

「えぇ、本当に。少しこの辺に用事があったのですけど、急に降り出したものだから驚いてしまって」

「天気予報ではこのまま明日まで降るらしいですよ」

「そうなんですか・・・それは困りました」

「雨が止むと良いんですけれど」

「はい、せめてもう少し弱まって欲しいです」

 彼女はここへ飲みに来たのではないんだな、と思う。多分間違ってない。この辺の飲食店は居酒屋やバー、スナックばかりで雨に降られてたまたま入ったのが俺の店だったってだけだと思う。

「きっとこの強い雨がずっと降る訳じゃないと思うので、雨宿りでもしていってください」

「すみません」

「いえ、お気になさらず。この雨でお客様はどなたもいらっしゃいませんでしたから」

 広いとは言えないが、狭くはない空間に彼女と二人。カウンターに促して彼女を座らせた。別に飲ませるつもりはないけれど、ずっと突っ立っていさせるわけにもいかない。

「一段と寒くなってきましたね」

「えぇ、ついこの間まで暑い暑いと言っていたんですけど、寒くなるのは早いです」

 帽子を取った彼女はメガネを掛けていてもその端正な顔立ちまでは隠すことが出来ないようで、つい目を奪われてしまった。視線がぶつかってから静かに逸らす。今見てたのばれてた? ばれてたら恥ずかし。

 なんて、俺だってもういい大人だからね、バーテンだしね、ポーカーフェイスくらい出来るしね。めっちゃ綺麗だけど。

「なにか温かい物でもお入れしましょうか」

「えっと、そうですね・・・」

「お茶も紅茶もコーヒーもありますけど」

「え? こちらってバーですよね?」

 彼女が心底驚いた風に言う。いやいや、お茶も紅茶もコーヒーも酒を作るのに使ったりするし、第一俺が休憩中に飲むし。

「お好きなものをお作りしますよ」

「えっとそれじゃぁ」

 何か甘いものを、とのオーダー。こんな落ち着いた女性でもやっぱり甘いものが好きなんだなと可愛く思う。だってオーダーする時ちょっと恥ずかしそうだったから。なんて。

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