第14話 年末の風物詩はお忘れなく

 私は今、商店街の中を走っている。

 猛スピードのつもりだが、足は安いローファー、両手には買い物袋だからスピードはあまり出ない。

 しかも、買い物袋には特売で買ったジャガイモとニンジン、醤油ボトルとよりによって重たい物ばかりが入っている。急いでいるからそこらに放置してもいいのだが、貧乏性だから食べ物を粗末になんてできない。松の内が明けてすぐに特売に走る自分も悲しいが、それ以上に正月気分が抜けていなかった己のうかつさが悔やまれる。

 とにかく、走っている。息はとっくに切れて、心臓もバクバクだ。はっきり言って走る想定じゃない状態から全速力で走っているから体が悲鳴をあげている。

 ああ、こんなことなら買い物は最後にすればよかった、せめて軽い物を買えば良かった。新しいのを買ったついでに確認じゃなく、単独で早く済ませていれば…。

 しかし、そんな後悔している時間は無い。街頭の時計を見ると2時47分。目的地まで間に合うのか。

 否!間に合うのかではなく、間に合わせないとならない!これを逃したらきっと夫は離婚を言い渡す、子供達も永遠に軽蔑する。一生取り返しのつかないことになる。泣き言言っている間にも刻一刻と過ぎていく。

 目的地が見えてきた。しかし、無情にもシャッターが降りかけている。

 ええい、モンスター客になってやる!

 私はジャガイモが入ったレジ袋をシャッターの隙間目掛けて投げ込み、スライディングシュートのごとく体も滑り込ませていく。店内に散らばるジャガイモにニンジン、明後日の方向へ転がっていく醤油ボトル、床にスライディングしたために明らかに擦りきれる音がしたコート。店内の人間誰もが唖然とするが、何もかも構わない、この台詞で皆も納得するはずだ。

「すみませんっ!! 一昨年のジャンボくじ一等の換金に来ましたっ!」



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