魔法の盾

@manaka_ve_

第1話

むかしむかし、そのまた昔、とある小さなシールンという町のその片隅に、一つの盾が落ちていました。

その盾は伝説の英雄が持っていた伝説の盾として伝えられてきました。伝説によると英雄が力尽き、盾を落としたのがその場所。

銀色に鈍く光るその盾は劣化もしなければ傷一つつかない、どんな怪力の男でも動かせもしない、この世のものとは思えないようなものでした。

その魔法の盾は非常に地味で、街の人々はその動かせない盾を、崇めるどころか邪魔くさいとすら思っていました。


そんな盾を誰もどかせないまま、時は流れていきましたとさ…。

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「いでっ!」

歩道のど真ん中に盾が転がっている。

少女は、この盾に躓いたのだ。

「誰だよこんな所に盾置いてったの…!危ないなぁ!」

それを見ていた近くの店のお婆さんが、慣れた様子で説明する。

「あぁ、お嬢さん。その盾は伝説の英雄が落とした盾で、誰も動かせ」

「よっと。」

少女は盾を片手でひょいっと持ち上げると、「すみません、誰か落としてませんか〜」と周囲に呼び掛けた。


周りからは歓声が上がった。



少女は何事か分からないまま、町の役所へ連れていかれ、伝説の英雄の生まれ変わりと表彰された。彼女は終始訳が分からなかったが、悪い気はしなかった。

盾は、彼女のものとなった。


彼女は、少し離れた彼女の祖父の家へ遊びに行く途中だった。


その途中で、盾に躓いた。


そして、彼女は街の人々に囲まれ、夜まで宴に参加させられる事となった。


結局彼女が祖父に会えたのは、朝日が昇る頃であった。

ーーーーーーーー

「うーん、結構カッコいいな。」

手に持った銀色の盾は窓から差し込む朝日に照らされ美しい輝きを放っている。

皮の持ち手は古い物とは思えないほど手に馴染まず、街の人が言っていたような伝説の物とは思えなかった。

「貰ったのはいいけど、どうするんだろうこれ?」

私は魔法学校に通っているただの学生なので、こんな盾は必要ない。


魔法騎士のように「軍」に属している人間ならばあるいは嬉しいのだろうが、しがない女子学生が貰っても微塵も役に立たない代物だ。


しかし、この盾は私でないと運べないのだ…。


先日の祭りの次の日、祖父の家から帰る際に祖父にこの盾をプレゼントした。

私の手を離れた盾はとんでもない速度で落下し、玄関の扉の下枠を歪め、更にはそこにくさびのように刺さったまま動かなくなった。

祖父は恐れ戦き、私に盾を返した。


私も、それを受け取らざるを得なかった…。


そんな感じで、この盾は私に付いてきた。


魔法学校に寄付する…?いやいや、置いたきり、また数百年動かなくなったら迷惑だ。

「…取り敢えず先生にこの盾のことを聞いてみよう。」


私は今日の学校の準備に取り掛かることにした。

ーーーーーーーーー

リュックサックに適当に縄で盾を縛り付けて学校まで持って行くことにした。


どうやら私の持っているものに触れている間も普通に動くらしい。


それなら何故私が地球に触れているのにコイツは微塵も動かなかったんだ、などと考えながら歩いていると


「おはようアルちゃん!」


と後ろから声が聞こえたので、遂に呪いの盾が喋り出したかと思ったが、クラスメイトのフラウンの声だった。


「あ、おはようフラウン。」

「今日は見慣れないもの背負ってるねー」

「うん、ちょっとね。変な呪いをかけられたもんで。」

「えええ!?呪いって…!?」

「あぁ、いや冗談だって!半分だけど」

「ビックリした。アルちゃんなら呪われても仕方ないようなことしそうだから信じちゃったよ…。ところで、半分ってどういうこと?」


失礼な!私がしたのはマンドラゴラの葉っぱを齧ったくらいのものじゃないか!勝手なイメージ付けは困るなぁ、などと思いながらも続ける。


「いやね?この盾、私が触ってないと動かせないらしくて、他の町のものなんだけど貰ってきちゃったのよ。」

「へー!不思議な盾だね。もしかして、どんな攻撃も防ぐ魔法の盾だったりして!」

「そんだけ値打ち物だったら私も嬉しいんだけどね。どんなものなのか全然わからないから今日先生に聞いてみようと思ってさ。」

通りのパン屋の新作パンを横目に見ながら返した。ふむ、シュガーソースにスパークピーマンとは、前衛的ね。

「なるほどね。誰に聞くの?」

「歴史のミーナ先生か、物理学の先生かな?」

「魔法物理学の先生の方がいいんじゃない?」

「どうだろうね。なにせ魔法もクソもなく物理的に動かないもんだから。」

「クソって…。前から思ってたけどアルちゃんはもっと上品な言葉使おうよ、女の子なんだし…。」

「そうですわね。考えておきますわー。」

「…はぁ。」

へっへっへ、と下品に笑いながら校門をくぐる。


私とフラウンの通う国立ミュリア魔法大学付属高等学校はそれなりにハイレベルな高校だ。

確か、国内3位か4位のアレだったと思う。フラウンはしっかりとした努力で、私は裏口入学…ではなく、適当な才能で合格した。

豪奢、荘厳、しかして流麗。

とにかくデカい。魔法学校と言うよりは魔王の城といったイメージだ。

というのもこの校舎、元は昔の王国軍が魔王軍を制圧した際に手に入れた建物の一つ、ミュリア城なのだ。

どんな攻撃も防ぐ強い魔力結界と、当時では驚きの耐震性能を誇るという理由から、奪取後は魔法学校として利用されている。


昇降口で靴を脱ぎ、上履きに履き替える。いつもこの時、ラブレターの一通や二通入ってないかと確認してしまう。

階段を登り、4階の2年生の教室を目指す。

「そういえば今日エルナ語小テストじゃなかったっけ?」

「あー、そう言われてみれば…いや、覚えてないわ。」

「確か悪い点だったら放課後追試があるって言ってたよ」

「まぁ最悪この盾言い訳にして逃げるかな。」

「だめだよちゃんと受けなきゃ…あ、先生、おはようございます。」


担任のミーナ先生だ。担当教科は歴史。高校になってからはあまり見ない女性教師だ。

年齢は誰も知らない。

聞いた奴は殺されるという噂。


「おはよう、2人とも。アルミナはちゃんとこの間のプリントお母さんに渡した?」

「あー…。帰りに食べました。」

「ヤギかアンタは…。ちゃんと帰ったら忘れる前にすぐ渡しなさいね。」

「はーい。」


フラウンが「アルちゃん盾、盾」と耳打ちしてくる。


「あぁ、そうだ。先生これなんですけど…。」

バッグの後ろにくくりつけた縦を見せる。

「ん?なぁにそれ?」

「それが、かくかくしかじかで。」

「…何も伝わってないわよ。」

「これ、シールンって村に伝わる伝説の盾らしいんですけど…」

「まさかアルミナ、あんたこれ盗んで来たんじゃ…。」

「そんなわけないじゃないですか!!私ってそんなに信用ならないですかね!?」

「あ、いえ、そういう訳じゃないの。続けて?」


生徒を信用出来ない教師に未来は無い…。


「道に落ちてたのを拾ったんですけど、これ特別な人間しか使えない魔法の盾らしいんですよ。ずっと動かせないまま道に落ちてたらしくて。それで、私が偶然持ててしまったので村の人が私にくれたんです。」

「なんか要領を得ないけど、大体は分かったわ。じゃあそれを調べたいって訳ね。」

「そんなとこです。」


大学付属ということもあり、学校に許可を取れば大学の所有する研究用の魔法機器を借用することが出来るのだ。

また、学校の生徒や関係者ではなくても窓口に利用したい旨と目的を伝えれば自由に利用できる。

他にも魔法学校というのは色々な雑用をこなしてくれる機関である。


「じゃあ放課後職員室まで来てくれれば対応するわ。」

「はーい。」

「ってもうこんな時間!早くしないとホームルーム遅れちゃうわよ2人とも!」

「ええっ!大変!!」

「いや先生のクラスですから。遅れる時は先生も一緒ですよ。」

「先生は多少遅れてもセーフなのよ!」

「そんな理不尽な!!」


先生と一緒に廊下を全力疾走し、ホームルームにギリギリに間に合った後はいつもと何ら変わらない授業が進行していき、本日の授業が全て終了した。


ちなみに、エルナ語の追試は盾を理由に逃げる事にした。

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