第5話 アリバイ
『初めまして。今回の事件を担当している高井(たかい)と申します』
そう言って高井刑事は俺が案内したリビングのソファーに腰を下ろした。
年齢は50歳いくかいかないかくらいのところか。
『朝比奈さんも先日起きた通り魔事件をご存知ですよね?』
やはりというか分かっていたがやはりという内容で切り出し始めた。
『はい。ニュースでも見ましたし、クラスメイトからも聞きました。うちのクラスだったんですよね?被害者の田中君は』
『その通りです。遺体のそばに置いてあった犯人からであろうメッセージの内容はご存知で?』
『それも聞きました。あなたのそばにいるよ、でしたよね?』
『そこまでご存知でしたか。なら説明はいりませんね』
そう言って刑事さんは今よりも真剣な顔つきになりつづけた。
『あのメッセージは犯人からのでほぼ間違い無いでしょう。そして、恐怖心を煽る目的で置いたものでしょう』
『恐怖心を煽る?なぜそのようなことを』
シンプルに疑問だ。煽ったところで警戒心が強まるだけで犯人自身も得はないはずだ。
『おそらくですが、犯人は非常にサイコパス性が高い人物だと思われます』
サイコパス。聞いたことがある。昔の大量殺人鬼などの猟奇殺人者たちは常人とは逸脱した思考を持っている。俺たち普通の人間じゃ考え付かない残酷さを持ってると聞いた事がある。
『サイコパス性が強い殺人鬼は自分の殺した人の遺体を芸術といった表現などをするそうで、注目を浴びたいなどの願望があります。今回の犯人もメッセージを残すことによって、自分の存在をアピールしているのではないかと考えています』
スラスラと刑事さんは言うがとんでもなく狂気的といったところだ。さすがサイコパスだな。
『そこで本題なんですが、我々警察側はあなたのクラス内の中に犯人がいると睨んでいるんです』
その言葉を聞いた瞬間、解けていた緊張が一瞬にして戻ってきた。
『そばにいるということは、いつでも殺せるということを伝える意思表示でしょう。クラスメイトなら個人の予定を把握するのは容易なことです』
誰も俺の状況を把握できてないのは致命的だ。俺は絶対にやっていないがアリバイがなくては疑われて当然だ。
『そして今、あなたのクラス全員にアリバイ調査をしてまして、聞いたところあなたは今休学中のようですね』
『その通りです。1年前に両親が失踪してから自分は働いています』
『退学はしないのですか?』
『高卒は取りたいと思っているので』
『なるほど』
『妹は剣道をやっていて、高校でも続けてもらいたいので自分はバイト掛け持ちして稼いでます』
『では、事件当日もアルバイトを?』
一瞬、そうです!と答えようか考えたが正直に言うことにした。
『いえ、その日は休みでした』
『では何をしていましたか?』
『その日はやることが無かったので1日中寝ていました』
『そうするとあなたにはアリバイが無いということになりますが。証人はいますか?』
どうする。このままだと本当に疑われて容疑者になりかねない。正直に話して信じて貰うか。いや、ダメだ。それこそ疑われてしまう。
『いや、証人は...』
言おうとした瞬間に、
『私が証人です』
そう発言したのは妹の蒼蘭だった。
『私、毎日朝練行ってるんですけど犯行時刻はどのくらいなんですか?』
『朝の6時から6時半の間ですね』
『ならお兄ちゃんは寝ていました。私は6時半には学校にいないといけないので6時過ぎには家を出ます。いつもお兄ちゃんに声をかけるので覚えています』
こんなできた妹の兄で良かったとつくづく思う。ファインプレーだ妹よ。
『証人がいるのであれば話が早いですね。わかりました。これで全員に聞くことができました。ご協力、感謝します』
そう言って刑事さんは頭を下げ、我が家を出た。
『さっきはありがとな。蒼蘭』
『私は本当のこと言っただけだよ。お兄ちゃんはそんなことしない人だってのもわかってるしね!』
『朝比奈蒼太はアリバイありと。だが、足を運んだ甲斐はあったな。まさかあんな形でピンと来るとは思わなかったがな』
刑事になって20年経つが、流石に勘が鋭くなるな。
『朝比奈蒼蘭。怪しい』
お兄さんには悪いが、妹さんをマークしておこう。
公園で計画を立てているところを陰から覗かれている事に高井刑事は気づけなかった。
『ふふっ』
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