大人の事情で異世界転生 〜せっかく来たんだし異世界最強目指す〜
きしりトール
プロローグ
今日も今日とて彼ーー
「あーー……暇だ。何もない。いつもの場所で、いつもの空を、いつもの気分で眺める。我ながらつまらん人生だわ」
この世の全てに絶望したかのような表情でそう呟く彼だが、側からすればそれなりにいい人生だ。
彼が通う高校、
体育館や講堂、室内プールに映像鑑賞シアター、食堂などなど他の高校にあるものなら全てが揃っているほどの高校なのだ。
そんな進学校に通う彼にはもう一つ、羨ましがられる点があった。
「またここにいたのー! もう、いい加減ちゃんと授業受けなよ!」
それは、屋上に来たかと思うと大声で注意してくる幼馴染の存在である。
彼女ーー
ざっくり紹介すると、運動神経抜群な頭脳明晰、金髪美少女な訳だ。それは男子高校生なら誰しもが夢見る存在であった。
それなのに、風雅は心ここに在らずといった具合で返事をする。
「ああ? なんだ、エレナか。いいだろーそんなこと、自由を重んじる学校じゃなかったのか、ここは」
「自由には責任がつきものなの! さあ行くよ!」
風雅の服を掴むと、ずるずると引きずり連れて行こうとする。
「そうだ、エレナ! 今日はどんな夢だった?」
突然そう言うと、彼女の手を払いのけて軽く笑みを浮かべる。
「またそれ??…シュークリームたくさん食べる夢だった……」
「ははっ。なんだそれ、夢の中でも食い意地はってるのかよ。どうせ夢だからっていっぱい食べたんだろうな!」
風雅がからかうと、頰を真っ赤にするエレナ。綺麗な金髪をしているだけに頰の色が良く映える。
「はってません!! そういう風雅はどんな夢みたのよ!」
「俺かー?……史上最高のハンバーグを作る夢だ!」
「風雅の方が食い意地はってるんじゃない!」
「流石エレナ、生徒会長として恥のないツッコミだったぞ」
親指を立て、ウインクで讃える。
「うるさいわよ! もう……」
からかいすぎて、いじけてしまったようだ。
この二人は、毎日夢の話をする。なぜなら彼らは
明晰夢とは、自身が夢の中にいることを自覚して見ることができる夢のこと。つまりは、夢の世界で自由に行動できるということである。
二人が幼馴染として仲良くなれたのは、この明晰夢のおかげもあるかもしれない。
「私のことをからかってばかりいないで、授業行くよ!」
「わかったよーー」
観念したのか大人しく付いて行く。
「あっ、そう言えば風雅」
「ん、なんだ?」
「今日の放課後、学園長室に呼ばれてるわよ」
「…………え、まじ???」
これには流石の風雅もたじろぐ。
「大まじよ」
「……俺って何かしたかな??」
「何かしてないとでも思ってるの?」
「ですよねーー……今から反省文でも書いて用意しておくか…はあ」
自分の行いが故とはいえ、これには溜息が漏れる。
「まあ、今回を機にもう少しちゃんとするのね」
エレナは、自業自得とばかりにニヤついた笑みを浮かべていた。
(この女のどこがいいんだか)
心の中で、愚痴る風雅であった。
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