鋼鉄人間:戸塚涼介
なんこつとりで
プロローグ
魔女は予想通り神社の賽銭箱に腰掛けていた。
時刻は午前三時。誰もが眠りにつく時間。
「魔女が神社にいるなんて場違いじゃないのか?」
フード付きの黒のナイトローブに身を包み、大きめの竹箒を持つその姿はどこからどう見ても魔女にしか見えない。
「あら、こんな所に人間がいるなんて……参拝しに来たの?」
暗闇に近い神社に黄色い声が響く。
「こんな時間に参拝する変わり者なんかいるか。そういや最近犬の変死体が相次いで発見されてるみたいだな」
「ええ、不思議な事件よね。ビルみたいな高い建物がない所で、まるで高い所から落ちた見たいにぐちゃぐちゃになった犬の死体が発見されているわね。物騒だわ」
魔女はそう言うと賽銭箱から腰を上げ、俺に近づく。俺より頭一つ分小さい身体に、幼い顔立ちが確認できた。
「人を殺したら殺人罪だけど、動物を殺したら確か動物愛護なんちゃら違反でそんなに罪は重くない。まあストレス解消にはもってこいだよな。動物殺し」
「悪趣味よねー」
魔女は微笑む。罪の意識などないかのような笑顔。
「ああ、悪趣味にも程があるぜ。出来損ないの魔女さんよ」
その言葉を口にした途端、魔女の顔から笑顔が消える。
「もしかして私を捕まえに来たのかしらお巡りさん?」
「公僕を見るだけで気分が悪くなるからなりたいと思わなかった」
「じゃあ動物好きの探偵さん?」
「生き物は苦手で探偵という胡散臭い連中は嫌いだ」
「そう、なら正義感の強いお馬鹿な市民ってことね」
そう言うと魔女は竹箒に跨り宙に浮く。日常では目にかかれない光景が映る。
「魔女は竹箒に跨り空を飛ぶ、という模範的回答を実行してみたわ」
犯人確定だな。簡単に正体をばらしてくれるなんて楽な仕事だ。
「あ、あら?冷静なのね。驚かないの?人間がトリックなしで宙に浮いてるのよ!ありえない光景でしょ?」
魔女が戸惑いの声を上げる。
「人間を止めた奴と何人か会ってる。その中で『浮遊能力』を使う奴は少数だが見たことがある」
俺は全身に力を込める。
「そして俺自身も人間を止めている。以上が答えだ。これで満足か魔女……いや、俺と同じ『超能力者』さんよ」
「なっ!は、はったりよ!超能力者なんてそうそういない!いないんだから!」
「そういない。そんなにいてはいけないんだ。特にお前のような能力を悪い方に使う奴はな」
「と、とにかく知られたからには生かしちゃおけない!死んでもらうわよ!」
物騒な事を言っているが、明らかに動揺してるのが分かる。
「やれやれ……」
俺は静かに右手を上げる。それと同時に魔女が地面に叩きつけられた。
うつ伏せに倒れた魔女の苦しそうなうめき声が聞こえ、足からはおびただしい量の血が流れている。血はあっという間に赤黒いカーペットを作っていった。
もう何度も嗅いだ鉄の錆びた臭い。
「い、痛い!痛いよ……」
「正直どうでもいいんだよ。こちらは報酬をもらえればお前なんて死のうが生きようが関係ない」
「ひぐっ!た、助けて……死にたくない!死にたくないの!」
魔女は泣きながら俺に助けを求める。
「ああ、安心しろ。人間を止めた者はそう簡単に死なない。弾もちゃんと貫通してるから、後は異常発達した治癒能力にまかせりゃ治るだろ」
俺は魔女に背を向ける。
「それじゃあ俺はこれで失礼する。後は警察の仕事。しっかりと罪を償うがいいさ。この悪趣味な魔女が」
俺はそう言って神社を立ち去るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます