―迎撃―

 〈神の一族〉の大小様々な品々を輸送する荷馬車の隊列。

 その幾つもの荷馬車を取り囲む形で進行している甲冑の兵士たち。

 〈聖輝統団〉第一師団の兵士で構成された護衛隊。

「――ん?」

 その護衛隊の中で、唯一の白銀の甲冑に身を包んだ大柄の男――第一師団長アデルク――は、山の方から迫りくる馬の群れに気付いた。

「団長っ! 賊ですっ!」

 兵士の一人が、少しばかり慌てた様子でアデルクにそう告げた。

「分かってる! 皆の者! 迎撃態勢を取れ! 積荷を守るんだっ!」

 力強く頷いたアデルクが剣を抜いて命じると、兵士たちは迫りくる賊の群れと荷馬車の列を隔てる壁となるように、陣形を素早く組んだ。

「くっ……厄介だな、かなりの数だ。仕方ない。皆の者! 聖輝弾セイントバレットの発動を許可する! 直ちに詠唱を始めろ!」

 アデルクは盗賊の群れを見渡し、兵士たちを振り返って再び命じた。

『汝、捧げん。

聖なる光、集いし輝き、聖輝せいきの御力。

我、放たん。

聖なる輝き纏いし御玉。

我、聖輝を継いで応えん』

 荒々しい馬の足音が徐々に迫り、兵士たちの詠唱が辺りに響き渡る中――。

「〈神護の園〉の名の許に、〈聖輝統団〉が、道を外れし者たちを裁き戒めん」

 アデルクは剣を胸の前に掲げながら空を見上げ、そう唱えると。

「――よし。皆の者! 放てっ!」

 兵士たちに向き直り、そう発した。

『聖輝弾!』

 兵士たちが術を発動させると、いくつもの拳大の光弾が盗賊の群れを目掛けて放たれた。

――ぎゃあああぁぁああぁぁ!!

 着弾のち炸裂して致命傷に至る程のダメージを与える光弾。

 先行していた盗賊の一群が、その光弾の雨によって断末魔をあげながら次々と弾け飛んでいく。

「――うわぁっ?! ス、スピガンさんっ! 撃ってきましたよっ?!」

 頬を掠めていく光弾と、その餌食となっていく破落戸たちを目の当たりにし、忽ち怖じ気づいた華奢な青年は馬の背にべったりと張り付く様に身を低くして強張る。

「おっと! 危ねぇ危ねぇ。詠唱術かぁ~? 心配ねぇよっ! 大した数やられてねぇって!」

 巧みに馬を操り、光弾を難なく躱していくスピガン。

 そして、スピガン率いる盗賊団はその数を減らしていきながらも止まることなく、護衛隊に迫っていく。

「いくぜぇぇぇぇ!! ウヒャハハハハっ!」

 スピガンは背中に差した大鉈を手に取り、片手で馬を繰って、高らかに笑いながら護衛隊へと突っ込んでいく。

「応戦しろっ!」

「おおぉぉぉーっ!」

 アデルクの掛声と共に、兵士たちは剣を抜いて、白兵戦へと転じた。

 護衛隊の連携のとれた戦術と、ただ暴れまわるだけの盗賊団。

 数を取っても圧倒的に護衛隊が優勢であり、戦死者は皆無とはいかないが、凄まじい勢いで盗賊団の数を減らしていく。

「――くっそぉーっ! やっぱり強ぇーなぁ。そう簡単にはいかねーかぁ」

 次々と倒れていく仲間たちを前に、スピガンは軽い口調でそう言って肩を竦めた。

「だ、だから言ったじゃないですか! 〈神護の園〉のヤツらを敵に回しちゃマズいんですって!」

 兵士たちを相手に立ち回るスピガンの傍を離れずに、戦う事なくただ逃げ回っていた華奢な青年は、情けない声高で喚いて頭を抱える。

「へっ! まあ、仕方ねーよなぁ……よしっ! あの一番護りが厳しいヤツっ! あの積荷だけ奪うとするかっ!!」

 荷馬車の列をざっと見渡すと、スピガンはアデルクの傍に停まる荷馬車を指差し、勢い込んだ。

「えっ?! ちょっ、スピガンさん?!」

 スピガンの言葉の意味が一瞬理解できず、華奢な青年は間の抜けた声を漏らして、首を傾げる。

「そこのお前らもついてこいっ!!」

 スピガンは近くにいた仲間たちを連れ、護りの兵士たちが最も多い荷馬車へと駆け出した。

「くそっ……あーっ! もうっ! どうにでもなれっ!!」

 華奢な青年は悪態混じりに頭を掻き毟ると、自棄になってスピガンたちの後を追った。

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