―概観―

 この世界の名は〈キュース〉と呼んだ。

 人間や動物、魔獣などが存在する世界。

 そして、詠唱する事で、森羅万象の力を利用した多種多様な現象を起こす術――――詠唱術――――が存在する世界。

 詠唱術は使用者の精気――魂の力――を代償とする術であり、人々はこの術を生活における手段の一つとして使用していた。

 それは、暖炉の火熾しや洗い物の濯ぎ、木々の伐採、地面の削孔などから軍事利用まで――――。

 キュースは、北の大陸、中央の大陸、南東の大陸、南西の大陸、この四つの大陸からなり、人々は最も大きな大陸である中央の大陸と、次に大きな北の大陸に文明を築いていた。

 北の大陸は〈ノーキス〉という国が全領土を治め、中央の大陸には〈ガイマ〉、〈ウェスト〉、〈ミサーナ〉という3つの国と〈自由領土〉という各国の緩衝地帯を兼ねた不可侵地域があった。

 中央の大陸は丁字型をしており、〈ガイマ〉が東部を〈ウェスト〉が西部を〈ミサーナ〉が南部をそれぞれ治め、中央に〈自由領土〉があった。

 〈自由領土〉は国が統治することのない土地であり、代わりに『領地』という町長や村長などの『領主』が治める地域が数十とある広大な土地だった。

 することのない土地とはいうものの、実際には複数の領地を治める領主もいたりと、曖昧な所があった。

 そして、なにより〈神護の園ガーデン〉があった。

 〈神護の園〉は、〈神の一族〉の許で魂を聖なるモノと掲げ、世界の平和と秩序を求めて活動している組織であり、一つの国として成り立つほどの規模を有していた。

 総本山である本部の他に4つの支部があり、本部とその本部を取り巻く様に広がる街〈神の垣根ヘッジ〉、そして、本部を越えた先にある〈神の一族〉の住居〈神邸ケージ〉を合わせて、〈神護の園〉と世間の人々は呼んでいた。

 〈神護の園〉は〈聖輝統団セイントハンドラー〉という軍隊を有し、その武力を持って〈自由領土〉におけるいざこざを解消していた。

 その内容は大小さまざまであり、領地を襲う盗賊団の制圧から、魔獣の討伐などがあった。

 それぞれの領地には自警団があるとはいうものの、それだけでは対処できないのが現状であり、〈神護の園〉が今の〈自由領土〉の秩序を保っていると言っても過言ではない。

 しかし、数年前から、その秩序を乱す動きがチラホラと……。


 ――汝、叡智の炎。灼火の化身。我に与えよ。

   大火の赤子。飛翔の火線。一矢の火射。

   我、精気を以って償わん――


 〈自由領土〉の北西区域に位置する総人口5千人ほどの町。


射炎矢フレイムアロー!」


 〈神護の園〉本部から最も近い領地であるその町〈フーシー〉に、火の手が上がった――。 

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