躾・通り魔・刑務所・入社・結婚・離婚・男の36年間の人生

@tsorca

しつけ、それは人格を変えてしまうこともある非常に繊細な行為。

「清親(きよちか)!なんだその箸の持ち方は!」味噌汁をこぼし、倒れ込む清親。泣きながら起き上り「ごめんなさい。」と、すぐに鼻をすすりながらご飯を頬張る。母の聖子は小言を呟くように清親を庇うような言葉を発しながら、清親の味噌汁で汚れた服を拭きつつ頭を撫でてくれる。

「風呂行くぞ!」父の幸雄との銭湯通いは清親にとって楽しい時間でもあったが一度は怒られる。しかし、風呂なしアパートに住む家族としてはお出かけができるというイベントが毎日あるような幸せな時間だった。

幸雄はマジメで、仕事人間。短気から産まれたような短気な性格だ。おんな、子供には非常に優しいが、非常識な曲がったことを見つければ誰でもかれでも怒鳴りつける戦後のオヤジそのもの。

バブルはじける前の好景気の時代であった清親の平日の夜ご飯というと、外食に行くことも頻繁で、小料理屋、焼肉、寿司、といった所を連日回ることも多かったが、食後の帰りには満腹になった清親を幸雄がおんぶして帰ることもしばしばあった。そんなある日、父の背中で幸せな短い時間を過ごす清親が高い位置から振り返ると、まだ幼稚園の年少だった清親でもわかるほど酔ったスーツ姿のおじさんと目があった。思わず「あの人が見てる」と清親の発した言葉は幸雄の極端に短い導火線に着火し、清親を半ば振り払うようにおろすと、酔っ払いのおじさんへ一直線に。胸ぐらをつかみ「うちの息子になんか文句あんのか?」ゴツン・・・。一瞬で沈没した大型巨船のようなだった。そんな大型巨船を小型船舶のような父が沈めたのだからスーパーマンのように見えたのは言うまでもない。

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