Library

赤石かばね

ライブラリ

 これは、私が旅先で出会った不思議な空間での話である。

「お待ちしておりました、リアン様でお間違い無いですか?」

 声の方を向くと、そこには整えられた白髪に燕尾服を羽織った老人が微笑んでいた。

「ええ、確かに私はリアン・ウェイカーですが、貴方はどちら様でしょうか?」

「これは失礼いたしました、私の名はスチュワードでございます。貴方様にお見せしたいものがございますので、どうぞこちらへ」

 スチュワードに案内され、薄暗くどこまでも続く螺旋階段を下ると、目が眩むほど明るい空間に出た。

 こんな場所は他に無いだろう。壁一面に広がる莫大な量の本が敷き詰められた書架、ひとりでに動く箒、宙を舞う妖精。まるで現実味のない幻想的な空間である。

 私がこの不思議な空間に目を惹かれる様子を見てスチュワードは微笑んでいた。

「どうやらお気に召されたようで何よりです。此処はライブラリ、想像を創造に変える場所。例えば、本の世界を創造することだって出来る。しかし、想像は時に牙を剥くことをお忘れなく」

「本の世界、作者によって創造された世界か。それじゃあ、夢で見た世界は創造されるのか?」

「そのような見解で構いません。夢もまた想像のひとつ。ここ、ライブラリでは夢を一冊の本にして保管する役割も果たしております」

 スチュワードは私にこの空間、『ライブラリ』の説明をひと通りしたが、私には腑に落ちない部分があった。

「ところで、そんな場所に何故、私のような者を案内したのですか?」

「ええ、ここからが本題でございます。簡単に申し上げますと、貴方様にこのライブラリの管理人となって頂きたいのです」

「管理人? 私のような世界中をふらふらと旅をしているだけの者に勤まるとは思いませんが……」

「いえ、その心配はございません。貴方様が不在の時は私が責任持って勤めさせて頂きますので」

「いや、きっと私はここには戻らないと思うのですが……」

「そんなことでしたか。この空間は貴方の夢と繋がっております故、貴方様が眠りにつけばこの空間に転送されます」

「じゃあ、ここは夢の世界の中なのか?」

「正確に言えば夢と現実の狭間と言ったところでしょうか。現実で旅をされている貴方様ならこの世界で想像の世界も旅をされると思ったのですが……」

「想像の世界? 面白そうじゃないか。その話、乗った」

「ええ、貴方様ならそう言われるだろうと思っていました。では、こちらにサインを」

 スチュワードが指を鳴らすと私の前に羽根ペンと用紙が現れ、サインをすると煙と共に消えた。

「これで手続きは完了です。それでは、このライブラリをご堪能ください、我が主人」

「私が貴方の主人?」

「ええ、私達はこの空間の管理人の執事を任せられておりますので、貴方は私の主人でございます。何かあれば私にご命令を」

「達? 他にもいるのですか?」

「ええ、今は不在ですが、他に4名ほどおります」

「私の執事か……実感が湧かないな。でも、頼りにさせて貰います」

「ええ、今後ともよろしくお願いします。リアン様」

 私とスチュワードは手を取り、握手を交わす。これから、想像の世界の旅が始まるのだ。

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