4-22 ぐだぐだな大団円?
ココは浅葱町。一応、異世界。
S市では公務員という立場もありいろいろ制限されるので、自由に動けるこの異世界で今日も小説の執筆をしています。そろそろ、雑誌にも投稿しないとね。
…のハズなんだが。
「やあ、たっちゃん居る?今日は春らしく、ふきのとうを使ったタルトだよ。この苦味を生かすのに苦労したんだ。いやあ、春の山菜を使えないかなと。あと、これはホワイトデーのお菓子ではまぐり入りのケーキ。」
いつもいつも誰かしらがアパートにやってくる。執筆がなかなか進まなくていい加減イラついてきた。
「なぜ毎回毎回、週末の昼間にアパートに来るんだ、このサボリ魔め。」
そもそもバレンタインにチョコレートあげてないのに、ホワイトデーのお菓子を持参する理由がわからん。しかもはまぐりはひな祭りのお吸い物にする具材だろ?いろいろ突っ込み所満載だ。
しかし、罵倒してもこの天然変態ケーキ職人は通じない。にこにことタカヒト君は受け答えをする。
「やだなあ、サボリなんて人聞きの悪い。ちゃんと早番にシフトしているから早朝に働いて早く上がるんだよ。」
普通のシフトで働いて、試作品作るヒマ作らないで欲しいよ。
「いやあ、昼間からお熱いなあ。」
「兄さん、また楽しんでやがるな。」
ついつい、やさぐれた口調になった時、またもチャイムが鳴った。って、鳴ったり鳴らなかったりするからきちんと修理しないと。
『ぴんぽ~ん』
うう、また来客か。図書館へ行って執筆しようかなあ。
「こんにちは。浅葱です。確か今日は田中さんとアッキーは来ていると思いましたが、ご在宅でしょうか?」
あら、浅葱さんとは珍しい。そしてタカヒト君が浅葱さんを見て、なんかダメージを受けている。
「げげっ。浅葱さん!?い、いや確か美術品の探索依頼人だったよな、そうだよな。」
なんかタカヒト君がうろたえているが、構わず玄関にて応対する。
「浅葱さんこんにちは。どうしましたか?」
「いえ、週末だからいらっしゃっているかと思って。これ、アッキーにと思ってお持ちしました。」
そこには「あさきゆめみし」と鯛のお頭付きがあった。
「ニャ~♪」
「うわ!!こんな豪勢な物を恐縮です。」
「いえ、捜していた人…いえ物を見つけることができたのも達子さんだけではなく、アッキーの功績も大きいですから。」
そういえば、きっかけは全てタマが絡んでいる。引越し、アサツキ荒らし、浅葱猫のかぎ分けの特性、偶然か?そんな飼い主の疑惑の目線をよそにタマは無邪気に喜んでいる。
「ニャ~ンニャ~ン♪」
「完全なハッピーエンドではなかったですが、おかげさまで皆、安心できました。」
そう、石垣栄太郎さんこと敬一郎さんは浅葱町への帰還ができなかった。
信次郎さんと再会させてやりたかったが、敬一郎さん自身が浅葱へ通れなくなっていた上、結婚して子や孫のいるワタシの世界で寿命を全うする決心を固めていたからだ。
もしかしたら浅葱を否定した気持ちだけではなく、ワタシの世界で生きる決意が浅葱への道を塞いでしまったのかもしれない。
時計の針は戻せない。それぞれの生活と世界が長い長い年月の間に作られていた。
信次郎さんはワタシの報告に複雑な顔をしていた。望みが叶ったのが半分、失望半分という結果だったからだろう。とはいえ、生きていて自分のことを忘れずにいてくれたと聞いて笑顔があったのは救いだった。
「で、でも、ワタシがメッセンジャーとなっていろいろ取次ぎますよ。完全に途絶えた訳ではありませんから。」
「本当に達子さんには申し訳ない。いろいろと感謝しています。そこでお礼に今度祖父が浅葱家の晩餐会に招待して欲しいとのことで招待状をお持ちしました。」
そう言うと浅葱さんは立派な封筒を取り出してワタシへ渡した。え、えーと紙がどう見てもお高級な上質紙で封には蝋を使っている。浅葱家の晩餐会ってどういうシロモノなんだ。ワタシにはとてもとても畏れ多くて、あわわわわ。ど、ドレスコードあるのかしら?
「あ、浅葱さん家で、しょ、食事?!招待!?」
タカヒト君も何か動揺してよくわからない態度をしているが、関係無いのに何を慌てているのだろう?まあスルーしよう。他人が慌てているのを見ると反って冷静になれた。
「まあ、わざわざありがとうございます。」
「愛人なら食事くらい誘えとワケわかんないこと言ってましたけどね。」
「いつのまにか愛人確定ですか。」
相変わらずのおじいさんだ。ってか、ネタで言っているのよね、この世界には思い込み激しい人が多いよね。
「あ、愛人!?」
そういえばこの変態ケーキ職人も思い込み激しい奴だった。なんか燃料投下してしまったようだがこれもスルーしよう。
「では、仕事の途中ですので、これにて失礼します。」
「本当にありがとうございました。」
丁寧にお辞儀をして浅葱さんは帰っていった。本当に立ち居振舞いが上手な人だな。気を遣わせないように仕事の途中なんて言ってるけど、役場は土日休みなのは同じ公務員のワタシは知っている。まあ、まずはタマにご褒美として鯛を調理しないとね。やっぱり刺身かな、アラサーにもなれば魚の三枚下ろしくらいはできるし。
「良かったなあ、タマや。ん?タカヒト君、どしたの?」
タカヒト君はさっきからワナワナとしている。一体なんだと言うのだろう?ワタシが訝しげにしているとタカヒト君は突飛なことを言い出した。
「た、たっちゃん!いつの間に浅葱さんのおじいさんの愛人になってたんだ!!」
はい??いきなり何を言い出すのだ?
「いくらなんでも年が離れすぎだろう、そんな趣味だったのか~!?」
「いやあ、さすがのオレも知らなかったな。」
「ケイ兄さん、またいい加減な相槌を打たないでや。」
「そんなに浅葱、浅葱って金目当ての愛人になるなんて、見損なったよ!うわーん!!」
タカヒト君は半泣きになって飛び出してしまった。
…なんかまた暴走していったな、あいつは。
「いやあ、青春だなあ。追いかけなくていいのか?」
「いや、もう、もはや突っ込む気もしないし、めんどくさいから放置するよ。」
「面白い展開だなあ、アッキー。」
ケイさんはニヤニヤしてタマに同意を求めている。
「ニィ~~♪」
その鳴き声はタマ、お前まで面白がってんのか?
「お前、飼い主をからかうのならばアサツキとお頭付き没収するわよ。」
「!!ニャーッ!」
タマが慌てたように鳴いたその時、チャイムが鳴った。
「ぴんぽ~ん♪」
ケイさんがいち早く反応し、ニヤニヤしながら玄関に向かっていく。またワタシのおちょくりのネタにするつもりだな。
「おっ!タカヒトが戻ってきたか?よお、悪いけど諦めた方が…げげっ!!」
「キョウさ~ん。ネコカフェに修行に行って耐性をつけたわ~ん。」
そこにはネコ耳メイド姿のみっちゃんがケイさんに抱きついてきた。ネコカフェではなく、ネコ耳メイドカフェではないかと思うんだが、まあ突っ込まない方がいい。
「お。おおおお前、それはネコ違いだから~~~~!」
「面白そうな展開ねえ、タマや。」
「ニィ~~♪」
…ココは浅葱町。一応、異世界。まだまだ波乱は続きそうである。
それから余談だが、S市某町内会ではワタシが影の会長に決まったらしい。なんでだかさっぱりわからない。
~第4部・完~
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