SS・短編、お題箱

友浦乙歌

『四次元の箱庭』関連

登場人物紹介SS 【一条椋谷】一条家の召使は一条家の長男と兄弟です

 名家一条いちじょう家にも盆は来る。親族一同が邸に集まり、盛大に宴が執り行われるのだ、と、春先に勤務を開始したばかりの白夜はくやはことあるごとに聞かされていた。ついに夏真っ盛りの八月、使用人総出でその準備をしていた時だった。

「こっ、これ!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、座席表を確認していた白夜だった。

「いや~、ひどい間違いを見つけてしまいました。あはは、いくら椋谷りょうやさんの苗字が一条だからって、一条家ご親族の方に椋谷さんまで入れちゃあだめですよー……」

 椋谷の苗字は一条。一条いちじょう椋谷りょうや。一条という苗字は全国にそう多くはないとはいえ、特段珍しいわけでもない。一条姓が偶然被ることもあるだろう。邸の者はお互いを名前で呼び合うことが推奨されているので普段特に意識したことは無かったが、まさか一条一家の盆の宴の座席表の中に、家事使用人である彼の名前が混ざるなんて、ひどい間違いもあったものである。

「これじゃ、この表作り直しですね。座られるお席がズレていたりしたら一大事……ん? どうしたんですか皆さん?」

 白夜があたりを見回すと、なにかを言いたげに使用人仲間がこちらを見ていた。

 その時ちょうど、一条椋谷本人がおつかいから帰ってきた。

「あー……それはな、いいんだよ」

 状況を察した椋谷は頭を掻きながら進み出て言った。

「盆と正月だけは俺、一条側で出なきゃなんねぇから……」

 歯切れ悪くそう説明する椋谷。言葉に窮するのは今度は白夜の方だった。

「どういうことですか……? もしかして椋谷さん、一条家とは遠縁とか……?」

「いや、血縁はめっちゃ近い……てか、一条家跡取りの勝己と俺は兄弟だよ。異父だけど」

「はあっ!? えっ?!」

 あれー白夜まだ知らなかったっけー? と言葉を交わす仲間達。知らないのは白夜くらいらしい。

「つーわけで、当日は、俺はいねーから、雑用は白夜一人でなんとかガンバ」

 そう言って彼は言いつけられていた食材をテーブルに並べて置くと、すぐに前掛けをかけて廊下へ走っていく。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよー!」

 帰ってきてすぐ庭師の春馬に草取り人員として呼び出されたらしく、言われた範囲の中庭の草を、膝をついてせっせと毟り始めていた。

(半分だけ一条家の血縁? その彼がどうして使用人として邸で働いているんだ…?)

 泥に塗れた前掛けと執事服もすっかり板についている。彼から幽かな気品のようなものを感じたことがあるかもしれないとふと思う。でも、庶民の白夜の感度でははっきりとは感じ取れなかったし、彼を覆い隠すその前掛けはあまりにも汚れていた。

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