ROMAN
八條ろく
龍と少年
はるか昔、この地には
龍はその威厳ある姿から神と畏怖され人々に信仰されてきました。
しかし、愚かな人間は龍の大切な宝物を奪い、その逆鱗を買ってしまったのです。
龍と人間は戦争を起こしました。
しかし、勝利の女神は人間側に微笑んだのです。
倒された龍達は鱗を剥がれ、首の玉を取られ、亡骸は無残にも放置されてしまいました。
戦があった地には龍の亡骸が転がり、人々はその他を"
その場所には生の終りを悟った龍が訪れるようになり、その場所で龍は死ぬのだという話が世界中に広まりました。
そして、その龍の墓を守るのは人間と龍がまだ仲が良かった頃に生まれたドラゴニュートと呼ばれる種族の一族でした。
しかし、その一族も龍とともに滅びゆく道を辿りつつあり、今では年端も行かぬ少年が独り墓を守っているのでした。
彼らは戦争以来、人と交わる事が多く、殆どが人間になってしまったのです。
そして今現在その場所を守るのは最後のドラゴニュートの少年。
彼はつい最近、龍の亡骸から卵を発見し、それを住処に持ち帰り孵化させていたのです。
龍の卵を孵化させるのはとても大変でした。
龍の体内の温度を保つ為に彼は火を絶やさず炊き続けました。
唯一救いだったのは近くに高温の温泉があった事でした。
少年は1年間その卵を温め続け、遂に孵化させることが出来ました。
産まれた龍は深紅の体に黄金色の瞳を爛々と輝かせて少年の事を見上げました。
そして、この時に龍は少年を親だと認識したのです。
少年はこの龍に天空を意味するシュペールという名前をつけました。
こうして少年とシュペールの生活が始まったのです。
2人は一緒に空を散歩したり、少し遠くの山へ遊びに行ったりしました。
ある日、シュペールは少年にもっと遠くへ出かけてみたいと言いました。
しかし少年は一日で帰ってこれる場所でないと駄目だと首を横に振りました。
でも、シュペールだけでなら何処へだって行けるとも言いました。
しかし、シュペールは親同然の少年とは離れたくはありませんでした。
そんなシュペールに少年は、本当はもうひとり立ちする時期なんだと告げました。
実はシュペールは少年よりも先に大人になっていたのです。
龍の血を絶やしてはならないと少年は先祖代々より言いつけられていました。
もし亡骸から卵が見つかったのなら、見て見ぬ振りをせずに孵し、大人になるまで面倒を見て、大人になったら番を探す旅に出させなさい。
これが少年の一族に受け継がれてきた掟なのです。
少年はシュペールを強く説得し、言い合いの末にシュペールが折れるという形で納得させることが出来ました。
そして2人は最後の夜を過ごし、朝方にシュペールは飛び立ちました。
太陽が昇る方角へ向かって飛び去るその姿が見えなくなるまで少年は見送り、再び独りになりました。
それから死に来る龍は来ず、何十年、何百年と彼は独りの時間を過ごしました。
そして彼が年老い、背中が曲がった頃。
天から深紅の体をした大きな龍が一頭。墓場へとやってきたのです。
その龍はあの時、少年が孵した龍——シュペールでした。
おかえりと彼が言うと、シュペールはその場に倒れ込み、甘えるような鳴き声をあげました。
彼はシュペールと分かれたあとの話を聞かせてやりました。
変わらない毎日の中にあった微々たる変化を話して聞かせました。
彼が話し終わる頃、シュペールは幸せそうな顔をしたまま息を引き取ったのです。
彼は冷たくなったシュペールの頭を撫でてやりました。
「おやすみ」
彼はシュペールの隣に寝転がり、そのまま目を閉じました。
彼は朝が来ても目を覚ますことはありませんでした。
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