ブラッディプリンセス
NEO
第1話 血染めの散歩
山奥の古城。そこは、古来より私の一族が治めてきたこの王国の中心……あー、面倒臭い!!
あなたとは初対面だけど、砕けた口調での無礼をお許しを……ってね。
私はカシミール・ドラキュリア。この王国の王女やってます。はい、こんなんですいません。つまり、このボロ城は私の家でもあるわけね。辛気くさくて嫌いだけど……。
「さてと、街にでも行くかな……」
頑張ってファンシーなグッズを揃えた私の部屋で、ベッドの上をゴロゴロしながら私はつぶやいた。
すると、何かと気が利く侍女様が、さっそく外出用の衣装やら何やらを、そっと用意してくれる。毎度疑問なのだが……どこにしまっているんだろう?
「カシミール様、お着替えを……」
これで、外出しないわけにはいかなくなった。一人で着替えくらいは出来るが、そつなく手伝ってくれる侍女様に素直にやってもらい、さらにはメイクやら何やらも任せる。
なぜ「様」を付けているかといえば、侍女というのは召使いではあるが、同時に教育係でもある。散々「躾けられた」結果、様と敬称を付けるのが自然になってしまったのだ。
さて、それはいい。私は最後に口から覗いている二本の「牙」を確認した。これがないと、私は私ではない。それくらい重要だ。
そう、別に隠しておく必要もないだろう。「ドラキュリア」の家名が示す通り、この国は代々「吸血鬼」が治める国なのだ。
といっても、別に普通の国と変わりはなく、様々な種族が暮らしている。徴収する税金が、生き血を得るための山羊などである事くらいか。他の国と違うのは。
「行ってらっしゃいませ。夕飯までにはお戻り下さい」
侍女様に言われて送り出されたが、ガキンチョじゃあるまいし……。
さて、吸血鬼の移動方法。思いつくのは、やはりコウモリなどに化ける事ですかね。
まぁ、昔はそうだったみたいだけど、この国は異世界との交易と、その珍しい品を各国に売る事で、経済的にはかなり潤っている。だから、税金が山羊でも困らない。私は城の中を歩き、程なく格納庫に辿り着いた。
「さて、愛機ちゃん。今日も頼んだわよ!!」
格納庫に収められているのは、航空機……その中でも、戦闘機という戦うための航空機ばかりだ。
その中の一機、私専用の機体がある。「AV-8 ハリアーⅡ+」。垂直上昇も超短距離離陸も可能なとてもいい子である。
まあ、勢いで外装をショッキング・ピンクに塗ってしまったのは……ちょっと後悔している。しかし、気にしたら負けだ。
ああ、そうそう。今の吸血鬼は戦闘機で空を飛ぶ。そういう時代なのだ。
「うん、いつも通り速いね」
先ほど私の部屋の前にいた侍女様が、戦闘機乗りの必需品たるフライトスーツ一式を抱えて待っていた。
「恐れ入ります。いつも通り、最大重量まで誘導爆弾を搭載しておきました」
……戦争じゃねぇし。散歩だし!!
「まあ、いいわ。ありがとう。じゃあ、行ってくる」
吸血鬼っぽく(?)ゴシック調の服装の上に、真っ黒なフライトスーツというのは、どう考えてもミスマッチではあるが、気にしない気にしない。
私が愛機のコックピットに収まる間に、地上要員が準備を整える。さてと……。
いつも通りにエンジン始動。ペガサスエンジンの甲高い音は、いつ聞いても心地いい。
最終チェックを終えてタキシング。城の滑走路は短くカタパルトが設置されているが、このハリアーには必要ない。垂直上昇も出来るが燃料をバカバカ食うので、ちょっとだけ滑走して離陸。街までは約十五分である、天気は絶好調。機体も絶好調。私もご機嫌だ。
「さて、何しようかな……。あっ、やっぱり来た」
私の機を挟むように、護衛機が二機すっ飛んで来た。「F-14 トムキャット」、足の速さではさすがに勝てない。
『姫、勝手に出歩かれては困ります』
無線から声が聞こえてきた。
なによう、もう!!
「あーあ、テンション下がっちゃったわ……」
せっかく、好き勝手に買い食いでもしようと思っていたのに……。
とまあ、そんな感じで街の滑走路が見えてきた。城下街のワスプ・シティー。この国最大の規模を誇り、種族のルツボとも言われている。
セオリー通り、私の機が先に着陸し、護衛機が後から降りてくる。駐機場に駐めてエンジンを切ると、私は大きくため息を吐いてからコックピットから降りた。護衛機のパイロットたちは、そのまま地上でも護衛になる。トムキャットは復座、つまり二人乗りなので、合計四名を連れて歩く事になるわけだ。あーあ、お散歩が……。
「全くさぁ、たまには単独行動させてよ……」
言っても無駄だが、苦言の一つも言いたくなる。それが人情……あー吸血鬼だけど、まあ、そんな感じというものだろう。
「無茶言わないで下さい。我々の首が飛びます」
護衛の一人が表情一つ変えずに言った。分かってらい!!
「まあ、いいわ。行くわよ!!」
フライトスーツを脱ぎ捨てながら、私は護衛どもに言った。
まあ、必要はないと思うのだが、一応護身用に短刀程度は腰の後ろに帯びておく。
街中に入ると……うん、すんげぇ混んでいる。いつもの事だけど。
「姫、道を空けますか?」
護衛が一斉に腰の銃に手を掛ける。「.44マグナム」。四十四ではない。フォーティーフォーと読んでくれ。正確には「S&W M29」だが、こっちよりも通りがいいだろう。護衛用にしては大げさ過ぎる殺傷能力を持っているが、見た目のゴツさは威圧感十分である。
「こら、そんなもん無闇に振り回すな!!」
全く、うちの護衛はこれだから……。
人混みをかき分けかき分け、高級店が建ち並ぶエリアに来ると、さすがに人も少なくなった。
「はい、お買い物タイム。あんたら、荷物持ち!!」
この街で護衛なんざ、そんなもんだ。
「やれよ。楽しませてくれ」
四人がチャキっと銃を抜いて、私に銃口を向ける。
「……なんでもない」
怒るなよ、全く。つか、護衛が対象に銃を向けるな!!
「くそ、こんな事なら侍女を連れてくれば良かった……」
もはや、お散歩ではなくなってしまうが、このやたら銃を抜きたがる、クレイジーな護衛が付いているなら同じ事だ。
「姫、呼びますか?」
護衛の一人が犬笛片手にそんな事を言う。おいおい。
「あのさ、さすがにこの距離でそれは……。ってか、人間の耳には聞こえないって!!」
まともな護衛はいないのか!!
「大丈夫、大丈夫。見て廻るだけにするから」
なにか、色々諦めた私は、今日は買い物は諦めてウィンド・ショッピングに徹することにした。なんだかなぁ……。
なにか、モヤッとしたものを残したまま帰る事にして、私は再び雑踏の中へ。人混みの中を進むそのうちに……それは、一瞬の事だった。
私は反射的に短刀を抜き、それを前方に繰り出していた。手に重たい衝撃が走り……。
「えっ?」
やっと思考が追いついた。私の目の前には、木で作ったナイフのような物を持った少年。恐らく、お遊びか何かで、私にじゃれてきたのだろう。しかし、その胸には私が突き出した短刀が、深々と突き刺さっていた。えっ?
「姫!!」
護衛の声が遠く聞こえ、私はその場に崩れ落ちた。
「医者を呼んでこい!!」
誰かが叫ぶ。そんな事はどうでもいい。これ、私が?
これが、人生最悪の散歩となった瞬間でもあった。
正当防衛? どこが。
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