第7話 お姫様は二度目の朝食を食す。
手を洗いに洗面所に向かう廊下でティリアに母と妹についての印象を聞いてみた。
「変わった家族だろ? いつもこんな感じなんだよ母さんも、妹も。」
「ちょっと驚きましたけど、羨ましいです。」
「羨ましい? 」
「涼祐は家族と仲が良いように見えたので。」
「そうかな?」
「違うんですか?」
ティリアはさっきのやり取りを見て、そんなこと考えてたのか。
...どの辺が仲が良いと思ったのだろう? そんな要素があっただろうか?
「うーん、悪くは無いと思う。」
「悪くないって事は良いって事ですよ。」
「そう言われれば良いのかも。」
そんな会話をしながら洗面所に入り、順番に手を洗う。
先にティリアが手を洗ってる間に俺は新しいタオルを用意しておく。
ティリアにタオルを渡して、その後に俺も手を洗う。
「ありがとうございます。」とティリアがお礼を言ってくれる。
そんなに律儀にお礼をしなくても良いと思うんだけどな。
「どういたしまして。」と返事を返して俺もタオルで手を拭き、タオルを洗濯機の中に入れる。
「それじゃリビングに戻ろうか。」
「はい。」
リビングに戻るとテーブルの上には朝食と思われる、炊きたての白いごはんにわかめと豆腐が入った味噌汁、ふわふわの卵焼きと香ばしく焼けたシャケが二人分並んでいた。
「はい。朝食まだでしょう? 食べて食べて!」
そう言いながら母さんが椅子を引く。
「母さん...実はさっきもうファミレスで朝食食べてきちゃったんだ...。」
母さんにLIME(ライム)を使い連絡をするべきだった。
連絡を取っていれば物事が無駄なくスムーズに進んでいただろう。完全に俺のミスだった。
「涼祐は食べ盛りなんだから大丈夫よ! 食べなさい。」
と俺に言うと母さんは
「ティリアさんは無理しないでね。」
とティリアには気を使った。
「ありがとうございます。 私もいただきます。」
「大丈夫? 無理しないでね。」
「大丈夫です。わざわざ作ってくださってありがとうございます。とっても美味しそうです。」
そうティリアが丁寧にお辞儀をすると、母さんはニヤニヤしながら俺にウインクしてきた。
「本当に良い子ね〜涼祐のことこれからもよろしくお願いしますね〜。」
「涼祐、お母さんはとりあえず洗濯物干して来るから、その後で詳しく話聞くから。」
と言い残し、母さんは洗濯物を干しにベランダのある二階に向かった。
「私も手伝うー。」
と妹も母さんに続いて二階に向かった。
母さんはこういう時に適当なんだよな...。
母さんのこういう性格は俺や妹に受け継がれていると、父さんによく言われるんだけど、妹はともかく俺は似てない...と思いたい。
「本当に大丈夫? お腹いっぱいだったら、無理して食べなくても良いからね?」
「大丈夫ですよ私も涼祐と同じ、食べ盛りですから。」
「それにせっかく作ってくださったのに食べないのは勿体無いです。」
ティリアに気を使わせてしまったかな? 女の子って少食のイメージだけど、大丈夫かな?
「いただきます。」
「いただきます。」
俺とティリアは今日、二度目の朝食を共に食べる。
ティリアは箸を問題なく使い、卵焼きを口に運び食す。
「涼祐のお母様は料理お上手なんですね、とても美味しいです。」
ティリアは箸を使った事があるのだろうか?
外国の方は箸を使うのが苦手な人が多いと聞くんだけれど...異世界はどうなんだろう?
それとも異世界では箸はポピュラーなものだったりするのだろうか?
「ティリアは箸の使い方が上手だけど、箸を使った経験あるの?」
「ありますよ。」
「私の父が鰻のお重が好物だったので、幼い頃にお箸の使い方をお勉強しました。」
「そうなんだ...ちなみに異世界にも鰻っているの?」
「鰻は異世界にはいないですね。 ニワトリの卵と一緒で、鰻も日本などから輸入してます。」
異世界って一体どんな所なんだろうか...。
異世界の人は鰻の捌き方とか、焼き方とか知ってる人いるのだろうか?
「ティリアのいた世界では箸はみんな使えるの?」
「和食が好きな人は箸を使えると思いますけど、基本的にはフォーク、スプーン、ナイフなどのカトラリーを使うのが主流ですね。」
「そうなんだ。」
「てか...異世界にも和食ってあるんだ。」
俺とティリアはたまに会話を挟みつつ、本日二度目の朝食を済ませた。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした。」
母さんと妹がリビングに戻ってくるのが遅い。
おそらく、ティリアの事を二人で話しているのだろう。
洗濯物を干すだけなら、とっくにリビングに戻ってきているはずだ。
「お母様と妹様、戻って来ませんね?」
「そうだね。俺ちょっと見てくるよ。」
そう言って俺は椅子から立ち上がり、二階へ向かう。
「母さんと千夏は一体何を話している事やら...。」
その時ベランダでは...。
母さんと妹が不思議そうに道路を見ていた。
「お母さん、あれ何ー?」
「なんだろうね? 兵隊さん?」
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