第6話 お姫様と妹と母
「ただいまー」と言うと、リビングの方から「おかえリーゼントはテッカテカ〜」と妹のふざけた返事が聞こえた。
その後にお母さんが「おかえりー」と普通の返事を返してくれる。
「ティリア、遠慮なく上がってよ。朝から追いかけっこして疲れただろ?」
「"追いかけっこ"って...私は必死で逃げてたんです!」
俺は先に靴を脱ぎ家に上がり、ティリアがヒールを脱ぐときに手を貸す。
「ありがとうございます。涼祐ってレディーファーストですね。」
「うーん、そうかな? 別に普通だと思うんだけど。」
「涼祐は優しいです。お店に入った時も扉を開けてくれたり、私の歩くペースに合わせてくれたり。」
「たまに私の事からかったりするのが余計ですけど。」
「ゴメン、ゴメン。ティリアがピュアな反応するから、つい...ね?」
「涼祐は優しいのか、意地悪さんなのか? どっちなのか分からないです。」
「どっちかな? 自分でも分からないよ。」
玄関と床の段差にティリアが躓かないように優しくソッと手をとり、ティリアの補助をする。
「...それをレディーファーストって言うんですよ。」
「ん? 何か言った?」
「...なんでもないです。」
手をとりティリアを家に上げると、顔が近くに来て思わずドキッっとする。
ティリアの顔をよく見ると、大きく綺麗な碧い瞳で、まつ毛が長くて、唇はツヤっとしてピンクで、綺麗な金色の髪は艶があって、とても顔が整っている。いわゆる美人ということだ。
ティリアの顔を見つめていると、頬がほんのりとピンクに染まり...。
「涼祐? どうしたんですか? その...そんなに見つめられると恥ずかしいです。」
「ごめんっ。」
すぐに視線をを離して、一歩後ろに下がりティリアと距離を置く。
「これ使って。」と来客用のスリッパを下駄箱から出して床に置く。
「ありがとうございます。」
すると、「何してんのー早く手洗って来なさいー朝ごはんできてるよー。」っと母さんが俺を呼んでいる。
とりあえず、ティリアを紹介しなければいけない。
「ティリア、とりあえずついて来て。」
「はい。」
リビングの扉を開ける。まず目に入ってきたのは、パジャマ姿でソファーに寝っ転がって、TVの朝のニュース番組を見ている妹だった。
「兄ちゃんおかえり〜。」
「ただいま。」
妹はこっちを見ずにTVの星座占いに夢中だった。
「お邪魔いたします。」
ティリアが声を発すると妹がこっちを向き、驚いた顔をして一言。
「おかーさーんーちょっと来てー! 兄ちゃんがすごい人連れてきたー!」
ティリアが俺の裾を摘んでクイクイする。ティリアは戸惑っているようだ。
「
「こんにちは〜じゃなくておはよ〜。」
我が妹よ...お前は体裁をもう少し気にした方がいいと思うぞ。
この自由人は俺の妹の
千夏はシュシュで二つに髪をまとめてお下げ髪にしている。
兄の俺が言うのも変かもしれないが、顔はとても可愛い。
こんな自由人な妹だが、妹に告白しに家に何人も男が来るくらいモテている。俺の同級生も何人か告白したらしい。
妹は面倒だからと全部断っているので、彼氏はできたことがないけど。
好物はさきいかとあさりの酒蒸しで、おっさんみたいな味覚だ。
「なになにー千夏どうしたのーお客さんー?」
そう言いながら洗濯物をカゴに入れて母さんがリビングに入ってきた。
母さんはティリアを見て、特に驚きもせずに平然といつも通りだ。
「あら、これまた可愛らしいお嬢さんだこと。」と一言。
「こら涼祐! 友達だか彼女だか知らないけど、連れてくるなら事前に言っといてちょうだい。知ってたら部屋片付けて、お菓子でも用意したのに。」
普通に母さんに怒られた。状況を理解してないのか? それとも、この状況を既に受け入れて理解したのか?
どちらにしても母さんは凄い人だと改めて思った。
「こちらは先ほど出会ったティリアさん。」
「初めまして、ティリア・ラピスラズリと申します。」
ティリアが名乗り、お辞儀をする。
「これまたご丁寧にどうもありがとね〜涼祐の母です〜。」
母さんがお辞儀をすると、妹もソファーから立ち上がりお辞儀をする。
「なになにー外国の方? 綺麗なドレスね〜似合ってるわよ〜。」
妹が近づいてきて俺を引っ張って耳打ちしてきた。
「どういう関係? 兄ちゃんの彼女?」
小声で俺も返事を返す。
「違うよ、説明すると長くなるけど、いろいろあったんだよ。」
妹と話していると、母さんに頭をツンツンされて。
「とりあえず、手洗って来なさい。その後で話を聞くから。」
俺とティリアは洗面所に手を洗いに向かった。
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