首あり村連続殺人未遂事件

ごま忍

第1話はじまりはいつも駄目

おきろやおきろ‥‥

あかいきつねがやってきて‥‥

みどりのたぬきがやってきて‥‥

たけだのおじさんよろこんだ‥‥

おれいにあげようくさったみかん‥‥


子供達が人形を抱え楽しげに歌っている。どうやら、ままごとをしているようだ。


「不思議な歌だなぁ?」


「佐藤警部補さん。あれはこの村に伝わる子守歌です。ああやって人形を寝かしつけてるんでしょうね。」

丸米太郎(まるこめたろう)は答えた。


「ふーん。それにしても変な歌だな。村の名前も奇妙だし…。首なし村って、いかにも何かありそうじゃないか。」


「失敬だなブタさん。うちは“首あり村”ですよ!」

ハンバーガーの似合うおっちゃん佐藤警部補は、この村の青年丸米の案内の元、事件現場に向かうのであった。

その先に待ち構えている事件こそ、奇妙キテレツなものとは知らずに…。



二人を乗せた車は村の畔道を進んでいく。村のあちこちには選挙のポスターが貼ってある。


「ん?丸米君。やたらポスター貼ってあるけど、選挙でもあるのかい?」


「はい。近々この村の村長を決める選挙があるんです。まあ、被害に遭われたのも立候補の一人なんですけどね…。」

「ん~。なにか関係あるのかもしれんなぁ。」


「丸米君。事のついでに、もうひとつ気になる事があるんだが…。」


「なんでも聞いて下さい警部補。全てお答えしますよ。」


「丸米君。そういえばさっきブタって言ったよね…。」


「その質問には答えられません!」

と丸米は、半ば逆ギレのように答えた。


佐藤は警察である立場を捨て、今ここで事件起こしちゃおうかなという感情と葛藤しながら現場に向かうのであった。

「選挙ポスターもそうだか、所々に置いてある地蔵はなんだい?」


佐藤の視線の先には何度も、奇妙な地蔵が目に入っては通り過ぎていた。


「ああっ、あれですか。昔から村に伝わる、九尾様です」

「九尾様?」

「元々、この村は九尾狩り村(きゅうびがり)と言われてたんです。狐の尾を4本と狸の尾を4本持っていると言われる九尾様が、満月の晩姿を現し、悪い行いをした者を懲らしめると言われてるんです」

「でも、尻尾は8本じゃないか?」

「最後の1本は懲らしめる時に姿を現すそうです。」

「昔から伝えられる物と言うのは奇妙なもんばかりだな」

佐藤は最近生やし始めた口髭をなでながら答えた。

「江戸時代から現代にかけて、名前が変化して今の首あり村になったみたいですよ」

丸米は運転しながら自慢げに笑った。


「今回は話も順調に来てるから、私が主役で間違いないな。邪魔者もいなさそうだし」

佐藤はニヤつきながら呟いていた。


「お待ちしておりました。佐藤警部補!」

現場に到着した佐藤を女性刑事が出迎えた。その姿は、スーツの着こなしのせいか、その幼顔のせいか、まだ初々しさを感じさせる。


「おお、メイちゃん久しぶりだな…。いや、君も立派な刑事になったからな。早月君と呼んだ方が適切かな?」


彼女の名は、早月メイ(さつきめい)、佐藤とは早月が幼き頃関わった(トウモコロシ殺人事件)以来の付き合いだ。


「で、状況はどうなっているんだい?」


「はい。被害者は大村田 権造(おおむらた ごんぞう)氏、近々行われる村長選の候補者の一人だったようです。

凶器は刃渡り20cmのナイフ。心臓をひとつきされた模様です。

それと…。関係あるかは分かりませんが、現場に赤いきつねが大量に散らばっていたようです。」


「赤いきつね?」

「カップラーメンです。」


「ほぉ…赤いきつねか…そういえばこの村の古い話しにも、きつねが絡む言い伝えがあるそうだぞ。」


「さすが警部補!情報が早いですね!ではその辺の事件の関連性も、村人から情報を集めてみます。」


「そうだな。それでは引き続き情報収集に動いてくれたまえ。」


「はい!わかりました!」

そう言うと早月は駆け足で佐藤の元を離れた。


「フフフ、真面目な展開…。キャストもいい感じだし…。今回こそますます私が主役…グラフフフ。」


佐藤は、垂れそうなヨダレを我慢しながらつぶやいた。


その時だ!


プスッ!


佐藤の尻に吹矢が刺さったのだ!


柱の影からルミコがほくそ笑む。

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