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「お待たせいたしました」

 志麻の前に出したのはガラス製のティーカップ。ダージリンを丁寧にいれたものだ。それにスプーンを置いて、角砂糖にブランデーを注ぐ。

「よく見ていて」

 不思議そうな志麻の顔、俺はそのスプーンに火をつけた。

 ぶわっ、と途端に青い炎が現れた。志麻は驚いたように目を丸くしてそれを眺める。こうしていると普通の女の子だ。

「綺麗」

 炎が消えたのを確認してそれを紅茶に溶かす。ティーロワイヤルと呼ばれる飲み物だ。

「はい、どうぞ」

「・・・あなた、お酒以外も作れるのね」

 本当に感心したように志麻が言った。これくらいお手の物だってーの、なんてことは言わずに目を細めて口角を少し上げた。

 紅茶はカクテルにもよく使うものだ。それなのに俺が上手く入れられない訳がない、なんて。

「・・・美味しい」

 志麻はポロリ、とそう零すと、ゆっくりと時間を掛けてカップを空にした。

「はぁ」

 落ち着いたのを確認して声を掛ける。今日はどうして一人で来たのか、と。すると意外な答えが帰って来た。

「パパを困らせようと思ったの」

 それでうちに? なんでまた。

「ここなら、見つけてもらえるかもしれないじゃない」

 どんな自信なんだ、それ。と思いながらなかなか可愛いことをする、なんて思ってしまう。なんでも、常盤さんに約束をすっぽかされたそう。

 その後花束を持った常盤さんがやって来たのはそれから一時間後だった。志麻に三杯目のティーロワイヤルを作り終えた時で、喜んだ顔を一瞬だけ見せて、常盤さんに怒っていた。

 え? どうして常盤さんがここだと分かったって? そんなのバックルームに以前貰った名刺があったからに決まってる。

『僕の私用の番号だから、いつでも連絡して』

ってキザッたらしく貰ったやつだ。まさかこんなことに役立つ時が来ようとは。

 

 いやはや、お嬢様とは本当に困ったものだ。

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