お嬢様は今日も×××

カゲトモ

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 世間で言う箱入り娘とは、どんなものだろうか。

辞書を引いてみると“やたらには外出させない秘蔵の娘”とある。それすなわち、温室のように暖かでお優しい空間で、すくすくと世間知らずに育ったお嬢様の事を言う。

ふむふむ。箱入り娘とはお嬢様の種類の一つとカウントされるようだが、俺の目の前のお嬢様は箱入り娘なんてものじゃない。

天真爛漫、と言うにはいささか純真さがかける気がするし、ザ・お嬢様って感じでもない。言うなれば、箱入りきらない娘、か。姿形の事じゃなくて、態度の話。

「志麻ちゃん」

 呼びかけてもじぃっとテーブルを見つめているだけだ。どうしてこんなことなったのか、それは今から少し前に遡る。


 いつもの夜。客足もゆったりとした時間だった。カウンターにはお客様が一人、テーブル席に二人。お? なんだシケてんなぁ、って思った? いや、平日のこの時間帯はこれが普通だから! 土日は混んでるんだから!

 とまぁ、そんなゆったりとした時間に、カロン、と扉のベルが鳴った。

『いらっしゃいませ』

 とそちらに顔を向けて言うと、そこには覇気のない顔をした志麻が居た。いつもは自信に満ちた顔というか、生き生きした顔つきなのに、今日はどこか寂し気で、しかも一人で来店した。志麻はまだ十九歳だ。

『志麻ちゃん、いらっしゃい』

『・・・』

 バーに十九歳の娘が来ることもどうかと思うが、彼女を帰らせることも出来ない。志麻は常連さんの娘さんで、ある意味常連客でもあるから。

『今日は一人?』

 いつもは父親の常盤さんと一緒だから、一人で来店するのは初めての事だった。

『・・・』

『常盤さんは一緒じゃないの?』

『・・・』

『どうかした?』

『・・・』

『志麻ちゃん』

『・・・』

『・・・』

『・・・』

『・・・なんか飲む?』

『・・・』

 終始無言の志麻は(視線も合わせてくれない)小さく頷いただけだった。

 どうしたものか。志麻は何も話さないが、多分常盤さんと何かあったんだろうと言う予想は付く。志麻にとって俺の店は“無愛想な男の店”だから。それに未成年だし、進んでくるような店じゃない。

 一体何があったんだ。

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