第一章

第3話 一つ目の町

 世の中のニュースはテルル解散であふれていた。

 現実世界ではどこのニュース番組でもテルルの報道ばかり、ニュースでなくてもテルルのことでいっぱいだった。新聞では見開き二ページはテルルのことだった。

 ギルドランキングは一位のテルルに変わり二位だった『ガーム』というギルドが一位に変わっていた。

 しかし、個人のランキングは世界も国内も変わらずセレンをはじめとし元テルルのメンバーで総なめしていた。四位にはセノンの名前も変わらずにあった。

 仮想現実の世界にも二つの世界があった。一つ目は[日本列島]。ここには現実世界と同じように四十七都道府県があり、地名なども同じように使われている。建物も同じようにあるが中身などは自分たちで好きな部屋に変える人が多い。しかし、[日本列島]はもう片方の世界のせいで人口が減少しつつある。

 そのもう片方の世界は[創造都市]といわれるところだ。ここの世界は絶対にリアルでは存在しないような世界が複数存在する。

 例えば[狩集区かりしゅうく]。ここは冒険者になりたい人たちがたくさん集まってくる。みんなが自分の武器を持ちモンスター討伐や鉱石を掘ったりと夢が詰まった世界だ。

 ほかにも[成変区]や[空中都市]といった世界など今は約50の世界がある。そこでたくさんの人が自分のしたいことをしたり、働いたりしている。

 セノンはこれまでテルルのメンバー以外とは全くと言っていいほど人間関係がない。仲間を探すことに一苦労することはわかっていた。

 が、やはり個人ランキングも上を見据え、ギルドランキングでは自分のギルドで上を目指すために仲間探しの旅に出ることにした。

 仮想現実世界の移動手段はループというものがある。それは例外はあるが基本どこにいても指定された場所ならどこでも一瞬で移動してしまうのだ。

 セノンはそのループを使い[狩集区]につく。

 その場所に広がっていた世界は異世界そのものだった。周りにいる人はもう人間の姿だけではなかった。獣人と呼ばれる獣の姿をした人もいた。また、建物はテントのようなのもがたてられておりその下で商売をしたりしていた。その都市の中央には高くそびえたつ塔もあった。

 その塔は[試練の塔]と言われている。そこではたくさんの探検家たちが採掘をしたり、獲物をとったりしている。上に行けば行くほど相手が強くなりこれは自分のランクで行ける高さが変わってくる。

 今の最高ランクはセレンの六十二といわれている。試練の塔へはギルドテルルで二度入っているがどちらも最上階まではたどり着けていない。そのため、試練の塔の最上階はいまだに何階まであるか知られていない。

 試練の塔の横には役所がありそこで冒険家になるための手続きができる。また、そこで採掘した鉱石をお金と交換したり、モンスターのドロップアイテムとお金を交換したりする。

[狩集区]へのループは必ず役所の広場となっている。

 セノンが[狩集区]へループしてくるとそこは役所の中にある中央広場だった。

 そこはループをしてきた人が集まっている。セノンは朝早くのこの場所に登場したが大男たちがもう酒を交わしている。そのためがやがやとしていた。

 酒場に到着したばかりのセノンは周りを見渡す隙もなく後ろから肩をたたかれた。

 セノンが後ろを振り向くと背の小さい女の子がたっていた。

「もしかして、セノンさんですか……? 私、近藤一香こんどういちかって言います――」

 小さな女子は緊張こそしているが愛嬌のある声をしている。少しお辞儀をしている一香は少し赤色に染めている。栗色の髪は前に垂れているが顔を隠しきれてはいない。

 テルルのことが書かれた本を今までに一度読んだことがあり、このギルドの中で謎の深いセノンについて興味があったのだ。そのため、セノンについて情報を集め、見た目が少しずつわかったきたところに現れた本物のセノンが表れて声をかけたのだ。

「そうだが……何か用でもあったか?」

 セノンは少女を前にしてフードをとった。そのとき、白色の長い前髪が目にかかった。

「いえ、なんでも……」

 一香は初めて見るセノンの顔に一歩後ずさった。

「じゃあ俺は行くから」

 セノンは少し冷たい口調で言い放った。

「でも、その前に君の右ポケットに入っているものを返してくれないか?」

 セノンは一香に後ろから肩をたたかれた瞬間に自分のアイテムポーチから大事なカードを盗み取られていた。

「え……ど、どうしてわかったんですか?」

 一香は悔しそうな表情を隠そうと必死になってる。

「物を盗むときは相手を選んだほうがいい。あと、俺も一つ質問させてくれ?」

 セノンの仮想現実世界での生活はトップレベル。いきなり子供に物を盗むスキル[スチール]を使われたところで分からないはずがない。

「な、何ですか?」

 一香は少し目に涙を浮かべていた。

「人から物を盗むことは楽しいのか?」

 セノンはコールドリーディングをそれなりに得意としている。そのため一香の表情を見破ることぐらいは朝飯前だ。

「そ、そんなこと楽しいわけないじゃないですか!」

 それまで、物静かな雰囲気だった一香が大きな声を出す。

 それにより朝から酒を飲んでいた大人たちもその異変に気付きどよめき始める。

「なら、どうしてやっている?」

「…………」

 一香は悔しかった。人から物を盗むことなんて好きなはずがなかった。そんな彼女にとってセノンは大きな存在だ。だから、反論を言いたくても何も言葉が出てこない。

 セノンは少し困らせるが困っている少女を見捨てるほど鬼ではない。

 そんなセノンは軽く一回ため息をつき言った。

「そんな人生とはおさらばしないとは思わないか? 君の上に立ってるやつらは俺が叩く。もちろん君が自立するまでは俺にできることがあれば付き合う。どうだい?」

 この後、一香は少し考えた。

「ご、ごめんなさい。うれしい話だけど……私にはそれはできない――」

「仲間か? それとも怖いか?」

「……私一人だけ抜け駆けなんて悪いよ――それに……」

 セノンは少し考えた。しかし、テルルがなくなった今やることもこれといってなく、将来のためにもと思い考えを口に出す。

「それに、怖いのか? 後からの仕返しが。俺を誰だと思ってんだよ」

 セノンは少し笑いながら言った。

「仲間も俺が何とかしてやる」

 セノンの心はドキドキだが、堂々たる表情しか見せない演技をしていた。

 それもあってか、一香は下を向いていた顔がセノンに見えるまで上を向いた。

「なら、ぜひ! お願いします!」

 一香は深々と一礼した。

「なら、あといくつか質問していいか?」

「はい。私にお応えできることがあれば何でもお申し付けください」

 一香はにっこりと笑みを浮かべる。そのまま、右のポケットからセノンのカードを取り出し返した。

「なら、まず一つ目。仲間は何人だ?」

「私含めて三人です」

 セノンはあまりに人数が多くては困っていたところだったが予想よりはるかに少なく安心していた。

「なら、次の質問。アジトの位置を教えてくれ」

「はい。アジトはこの街の十三区の裏路地にあります」

 十三区の裏路地は昔から治安の悪さに定評がある場所でもあった。

「わかった。なら出発は明日にしよう」

「はい!」

 セノンの手助けにより一香は最初セノンに話しかけた時よりも前を向けている。

「先に宿と飯だな。一香はどこかこの辺でいい場所でも知ってるか?」

 セノンは一香に目は見せていないものの口角が少し上がったことにより距離感が少し縮まっている。

「それなら私に任せてください! 外見はいまいちってなるかもしれませんが料理の腕が確かな店は知っています。私のボスも食事だけ行ったりしていたので」

「それはそれはずいぶん危なそうだな…」

 セノンは少しだけ覚悟がいる気がした。しかし、一香の言う通りの店に向かうことにした。

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