相容れない。

朝凪湊

相容れない。

「ザクロ。こっちにおいで」

 赤い獣を呼ぶ。その雪のように白い手が、隣に座る赤い獣の頭を撫でる。真紅のその髪をなでながら、、彼女はその黒い両目を細めて愛おしそうに獣を見つめる。

「ふふ。キレイだね」

 赤い獣ーーーーつまり彼は、何も反応を示さない。ただ、彼女にされるがまま。

 ザクロ。彼女は彼をそう呼ぶ。その赤い瞳は鋭く、その長身で筋肉が引き締まった体。野獣の如き双眸をもつザクロは、人ではない。妖怪の部類に入る者。魑魅魍魎。化け物。

「ねぇ、ザクロ。あなたは、どれくらい生きてきたの?」

「……思い出すのも面倒だ」

「……ザクロ。あなたは、本当に、私の式になってよかったの?」

「……今更か」

「だってザクロは、ずっと誰の式にもならなかったのに」

「……気まぐれだ、気まぐれ。お前が死ぬまでは、とりあえずお前のものになっても悪かねえし」

 彼女は頬を緩ませる。そして、彼の肩に頭を預けるようにして傾く。縁側に座って、庭の景色を眺める。最近の彼女の日課だった。ぼーっと焦点が合っていない目で眺めて、彼女は一時的に思考を放棄する。

「おい、寝るんなら布団で……」

「んーー、ちょっとひといき。熟睡はしないから」

「……ちっ」

 赤い獣はそのまま彼女の眺める先を見る。

 居心地がよさげに、彼は目を細め、浅い眠りにつく。

 そんな時間が続けばいいと、密かに彼女は思う。叶わないと知りながら。




 人と妖。主人と式神。

 相容れないものを求めるのは、なんと悲しく、愛おしいのか。




 end

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相容れない。 朝凪湊 @minato1107

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