一章 龍崎奏
第2話 葛城楓
…….。
彼は―龍崎奏は先から無言だった。と言うか喋る気がなさそうだった。無気力感が顔から伝わって来る。無気力のせいか制服が若干着崩れており顔色も良くはなかった。
なぜそうなったのかは既に存じてあるだろうがもう一度言おう。
結論、少女と二人でこなした書類の柱共は朝までかかった。と言うか先に龍崎が強制帰還させられた。本庁を出た頃には外で小鳥が優雅に鳴いており、窓から朝日が差し込む頃だった。つまりは徹夜作業。寝不足。気を抜いたらすぐに寝そうな気がする。
「―おっはよ!」
不意に可憐な元気な声がしたと同時死角から足が飛んできた。
こんな事が朝から起こるとは、と寝不足の頭を回しつつどう対処するか。回し蹴りとでも言うのだろうか、右足が飛んできてる気がする。とりあえず、と龍崎は一切の目視等をせず勘だけで飛んできた足を捌いた。素早く半歩前に出て背後を見て左回転で回った勢いを殺さず左手で足を防ぐ。だが、攻撃はそれだけで終わらない。今度は飛ばしてきた右足を軸とし左足で膝蹴りを仕掛けてきた。はためくスカートに目もくれず龍崎は冷静に、瞬時に右手で膝を止め半歩足と体を出し相手の喉元へ閃光―左手を剣の如く扱い手を置いた。
「…やっぱりやるわね。」
その相手―少女は微笑んで言う。龍崎はその返答が終了の合図かの様に動いた。喉元にかけてた左手を下げ、彼女の目を見た。
「朝から元気なもんだな、赤城。」
その少女、赤城由乃は小さく舌を出し可愛らしく謝罪した。
赤城由乃、龍崎と同じ高校に通う一女子高生。両サイドツインテールが特徴的でそのせいか実年齢より幼く見える傾向にある。胸部の双丘は確認できず肢体もどこか幼げ。要すれば合法ロ―
「殺すよ?」
……。ナンデモアリマセン。赤城様。
「…どうした一体?急に怖い顔になって。」
赤城の横にいた龍崎は小首を傾げ眉間にしわを寄せつつ聞いた。というか眠い。頭が回らん。
「ううん、なんでもない」
赤城はその幼げな顔で笑顔で応じる。その笑顔に男なら虜になっててもおかしくはない。だが、私は生憎ロリコンではないしさっき怖い思いしたからそうは思えないのは秘密だ。
「さ、早く行こ!」
一瞬こちらに冷えた目線を向けたが瞬時に笑顔に戻り、龍崎を押す形で彼らは学校まで歩いた。
というか龍崎がさっきから体に力入ってなさそうに見えた。なんかふらふらして危なっかしい。
(あれ...力入んねぇ。)
手にすらも力が入らなくなってたから相当なのだろう。残ってる体力を全部足にまわしてどうにか歩く。半分程は赤城に押してもらって、というか勝手に押しているだけだが。
というか赤城よ、そんなに押すな。痛いから。やめてくれ。
「ギャアァァァァァ!?」
早朝、ある一室から叫び声が本庁全体に広がった。
『葛城一佐密室殺人事件』
というタイトルで本庁全体に広まった。発見者は一課副主任である志崎舞。ボブカットが特徴な全体的にふわふわした印象の持ち主であった。
事件発生は早朝七時。葛城に用件があったらしく副主任が葛城の部屋に行ったがいなかったため親友(?)である龍崎の部屋を訪れたら、ソファーで死んだようにしてた葛城を発見した。とのこと。
「私はまだ死んでないわ。」
悲鳴で飛び跳ねるように起きた葛城からの第一声であった。不機嫌の塊をそのまま塗りたくったかのような顔をしていた。眉毛にシワを寄せ若干怒りが見えていた。
「ご、ごめんなさい。葛城君。」
志崎は何度もペコペコと頭を下げる。この志崎舞という女性と葛城との関係だが、単なる上司と部下。まぁ、元だが。
「いや、まぁ、それはいいとして...。」
未だ悲鳴の副作用なのか耳がキーンとするのを堪え、話題を変えた。
「久しぶりだな、志崎。元気にしてたか?」
葛城は懐かしい奴に会ったかのような顔をしていた。実際、懐かしいものではあった。再編の時に、彼女は違う課に異動してしまったからだ。そのまま残ってくれた方が私的には嬉しかったんだけど、と葛城は心中その時の事を思い出しつつ言う。
「私は大丈夫ですよ。先輩こそ、体...大丈夫ですか?」
少し気まずそうに、志崎は聞いてきた。葛城は一瞬目を丸くした後、苦笑し言う。
「心配するな、今は大丈夫だ。」
一見して寝不足で顔色が悪そうな所以外、体調が悪そうには見えないが。が、確かに妙な事はあった。影というか、葛城が一瞬見せる行動に違和感が生じる時はある。
「というか、なんか顔色どうしたんです?白っぽいというかなんというか...。」
「ん...?あぁ...まぁ、な。最近ちょっと忙しくてな。」
肩を竦めて、おどけてみせる葛城。確かに、若干白っぽい顔色はしてるが...大丈夫か。単なる寝不足なのだし。しかも連続寝不足。まぁ、本人からしたら普通なんだろうけど。
「そう言えば、用件ってなんだ?」
完全に用件を忘れていた森山がハッとする。
「あぁ、そうでしたそうでした。葛城君、後一時間で作戦準備ですから。って事を伝えに。」
あぁー、もうそんな時間か。と壁にかけられた時計を見た。時刻は朝の七時。龍崎が出たのは六時程。一時間は眠れたか。
「ん、ありがとう。」
面と向かって、葛城はお礼を言った。いえ、そんな...と志崎は照れくさそうに笑顔で返した。
なんか和む。いいねぇ。付き合ってばかりのカップル感と似てる気がする。のだけど、残念ながら付き合ってないんだよなぁ、この二人。志崎が零課副任として来た時は、「お、付き合ってるのかこいつら。」並の、と言うか今もだが、アツアツそうな感じはあった。それともう一人—
と言うか、何言ってんだ私。とりあえず、次行きますか。
だけど、彼はまだ忘れられていない。あの事件を。
EDR〜防衛省とファティマの予言〜 臥煙柊 @Katuragie
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