時空超越の伝説継承者
三木十字
第1話 少女と追跡
匿名希望@都市伝説
『
名無し太郎
『更新士って何ソレw』
以下、VIPがお送りします
『時縛霊って魔物と闘う政府公認の超能力者だろ。知らねぇのかよ』
神@世界の理
『そんなのウソに決まってるだろ、公認の超能力者とか草生える』
「……笑うよな。更新士は本当にいるっていうのに」
少年が右の人差し指で宙をなぞると、視界の右上に開いていた仮想SNSの窓が虚空に消えた。
VR技術が発達した時代では、あらゆる情報操作が視界の仮想空間で済ませることができてしまう。
しかし何十年も前の時代は、SNSを使うにも携帯端末を覗き込まねばならなかったらしい。
前方不注意による移動中の事故が絶えないのも当然だ。
少年は授業で聞いた雑学を思い出し、昔はえらく不便だったんだなぁと遠い過去に思いをはせた。
カンカン照りの真昼間。
ホバリングスクーターで移動すること約10分。
学校が位置する町の中心部は、既に後方の山の陰に隠れてしまっていた。
ひたすらとろくに整備もされていない土砂むき出しの道が続いている。
とはいっても、宙に浮かんで進むスクーターの乗り心地には何ら影響を与えない。
むしろ交通規制や障害物がないことを考えると快適だ。
そんな田舎道を疾走しながら周りを見渡すと、田んぼの上も畑の上も稲や野菜の葉がにぎやかに茂っている。
しかし人の姿は一人として見当たらない。
運転中のSNS使用は規制されていた気もするが、慣れた道なら事故なんて起こさない。
そもそも違反を取り締まる警察に見つからなければいいだけのこと。
少年がそんな生ぬるい言い訳をひとりごち、アクセルをさらに踏み込もうと力を込めた。
ーーその矢先。
「そこのスクーター止まりなさーーいっ!」
予想だにしていなかった呼びかけに、少年の両肩がビクンと跳ね上がった。
よりによって一番聞きたくなかった声だ。
彼の推測が正しければ、背中を追ってきているのは警察よりも厄介な人物。
少年は警告が聞こえていない体を装うことにした。
さらにスピードを上げて逃走する。
「ってこらぁぁぁあ! まちなさーーーい!!」
声の大きさから推定するに、依然として後方の女子はぴったり同じ車間を保っているらしい。
もちろん追跡をやめる気配は毛頭ない。
少年としては目的地の森に着く前に彼女を振り払いたいのだが、あいにく相手を撒くのに十分といえる遮蔽物は見当たらない。
農家の小屋はぽつりぽつりと点在しているが総じて言えばすがすがしいほど開放的な地形だ。
この地区で彼女の死角に入るのは不可能だと判断した少年は方針を切り替えることにした。
一度は速度メーターを目いっぱい振り切らせたスクーターを徐々に減速させ、ついに路傍で停止させる。
「案外あっさりと止まってくれるんだ。拍子抜けしちゃった」
少女は次いで縦列駐車させたスクーターから降りて、風ではだけたセーラー服の襟を正し、プリッツスカートのひだをそろえる。
最後にヘルメットを脱いでバックミラーを覗きながら鎖骨にかかる髪を整えた。
少女は我が物顔で繁茂する道脇の雑草を足蹴にしながら歩いてくる。
その姿がどこか垢抜けない彼女の素朴さにお似合いで少年は思わず笑みをこぼしてしまった。
しかしそれを悟られる前に口元を引き結び、努めて興味なさげな面持ちで声をかけた。
「止まれって言ったのはゆずだろ、どうしたのさ?」
「用も何も、放課後の仕事を放ったらかして飛び出ていったでしょ!」
「仕事……?」
「日直当番っ!」
「あー、忘れてた」
少年は照れくさそうに頭をかきながら頬を引きつらせて笑う。
意図的にサボったのではなくすっかり忘れていたのだ。
土曜日で半ドンということもあり、少年の頭の中は一刻も早く待ち合わせ場所へ行くことで頭がいっぱいだった。
「……今から戻んなきゃいけない?」
「もう遅い。
「その方が助かる。ありがと、ゆず」
「ゆずじゃなくて
「うんうん、ゆずありがとねー」
「だーかーらー!」
すると容量に空きができた
「あれ、じゃあわざわざそれを伝えに来たの? 明日言ってくれてもよかったのに」
「えっと、それは……」
珍しく柚葉がひどく動揺した表情になる。
それを目にして、
「もしかして他にも何か?」
言ってから空に目を向けて理由を一通り思案してみたが一向に見当がつかない。
そのうえ柚葉があまりに長く答えを渋るので、
もう一度質問するべく顔の向きを正面に戻す。
「ねぇゆずー、って大丈夫か?」
「えっ、あっ、何!?」
驚いたことに、彼女の顔は強い直射日光のせいか朱色に染まっていた。
幼馴染であるだけに
「顔が真っ赤になってるよ。君って日光に強くないでしょ」
「そんなことない! これくらいなんともないもん」
夏で薄着なうえに汗で衣服が透けているので白い肌やら大人びた水色の下着やらがうっすら見えている。
「で、どうしたの? 他にも用事があるんでしょ」
「用事……、そう! カイルって運動できるのに部活せずにいつもすぐに帰るじゃない」
「うん。それが?」
「だから先生に頼まれたのよ。カイルが放課後に何をしてるのか聞いて来いって」
「それわざわざ後をつける意味ある? 学校じゃだめなの?」
「ぐっ……。とにかく答えなさい! 今からどこへ行くつもり!?」
平生は意思の強そうな
その上、
どうにも彼女が狼狽しているように見えてしまう。
もはや立ち振る舞い全てがどうにも怪しい雰囲気をまとっている。
だがその一方で、他の生徒や教師がそのような疑問を持つことについては
というのも、放課後の日課のことは家の者にも友人にも教師にも詳細を明かしたことがないからだ。
秘密にするようにと固く釘を刺されているのも一因だが、彼自身がその秘密を保持することに使命感をもっている。
故にその真相がここで明かされてしまうことはなんとしても避けなければならない。
従って
「いやー、この先で祖父母が農家やっててさ、その手伝いに行ってるんだよ」
「カイル? おじいさんと面識ないんじゃなかったっけ」
「そんなこと言った!? おかしいな……」
しまった、と
昔の自分が他の友人には話していないことまで彼女に話していたらしい。
いよいよ表面的な嘘では切り抜けられなくなった
もちろんこの先に祖父母の家なんてなければ、農作業を手伝いに行っているわけでもない。
「じゃ私の聞き間違いかもしれないね。お手伝い頑張って」
「え、うん?」
今のやり取りでどうして
「じゃあまた明日ね」
その後ろ姿はみるみる小さくなっていった。
踏み倒された雑草の中に取り残されたのは、
それらを見やって
「結局なんだったんだ?」
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