オカルト部と実績稼ぎ。

「っと、言うわけで廃部になるかもしれない」

「いやいや、色々はしょりすぎでありますから!」

 一月、放課後の部室に集まった家光の第一声に間髪入れずに喜介が突っ込みを入れる。

「あの、どういうことでしょう?」

 戸惑う静葉の言葉と向けられる視線にバツが悪そうに家光は頭をかいて。

「ここ最近の活動実績があまりないから、だってよ」

「あれ? 徳川先輩の動画じゃ、ダメなんですか?」

「入ったお金の報告とかされてない上に、学校側に許可をとってない、後やらせもあるから。学校としてはイメージダウンにつながるから公には認められないってさ」

 武暁の質問に、寿が肩をすくめた。

「そんなわけでやばいな、どうしよう? っていうミーティングだ」

 何故か腕を組んで偉そうな家光にそれぞれが頭を抱えたり、ためいきをついたり、お茶をいれはじめたりと反応を返す中。

「学院の三つの不思議」

 窓際で本を読んでいた瑠璃が静かに呟いた。

「あーなんか、最近一部で噂になってますね」

「その正体を探ってレポートなりなんなりと提出すれば実績になるんじゃないんですか? ちょうど私も調べようと思っていました」

「……瑠璃さんも目をつけてましたか。俺が調べようと思いましたけど、こうなったら皆で行きましょう!」

 武暁の提案に皆が頷いた。こうなると動きは速い。

「じゃあ、夜の学校に入る許可取らないとな」

 寿が真っ先に職員室へと向かう。

「んじゃ、動画撮影の準備しないとな。ほら、活動記録も必要だろ?」

「それ絶対、動画流すつもりでありますよね?」

 いそいそと機材を用意する家光を喜介が半目で見る。

「それじゃあ、私は夕ご飯の買い出しに行きましょう」

「手伝うっすよー」

「それじゃあ私も」

 静葉、瑠璃、こん助が近くのコンビニまで買い出しへと出ていく。 

「俺は色々聞いて回ってきますね!」

武暁が情報収集へと出ていく。

オカルト部の各々夜に受けて動き始めた。

どこかちぐはぐだが、不思議と息が合っている。

いつも通りのオカルト部だ。

 ――そうして夜を迎えた。

 この日、居残りの許可をもらったオカルト部以外に生徒はいないという状態だ。

 僅かな照明と音のない学院、そこのエントランスへとオカルト部は懐中電灯を片手に集まっていた。

「とりあえず、これがまとめた情報です」

 武暁がノートにまとめた情報を皆に見せる。

 ・会議室で一枚足りないというすすり泣く女の声。

 ・理科室で肉を焼く音とそれを食べる鬼の話。

 ・大教室、視聴覚室から悲鳴が上がる

「残念。七不思議ではないみたいですね」

「雨城先輩、そういう問題ではなく……ともかく、どれから当たったものか」

「んじゃ、寿、任せた」

 思案をはじめた喜介を見れば家光は寿にグループ分けを任せる。やれやれ、と寿はメンバーを見て提案すると、それで、と皆が応じれば組みわけが進む。

 結果、第一グループ 家光、寿、武暁。

     第二グループ 静葉、こん助、喜介、瑠璃

「こんなかんじでいいだろう」

「まあ、異論はないでありますよ」

 家光によって組を分けられればメンバーを見て、喜介は頷いた。

「じゃあ、静葉。一年をよろしく」

「ええ、寿君達も気を付けて」

 オカルト部の探索が始まった。


 第一グループは大教室や視聴覚室の調査を始める前に動画撮るために寿はカメラを回し、導入の場面だけを撮り納めた。

「武暁と瑠璃はすぐ喧嘩するし、喜介はうるせーし、静葉は瑠璃は動画映えするけど変なやつ湧きそうだからってところか。この組み合わせ」

 家光の言葉ににっと、寿は笑顔になって。

「流石、家光。その通り。 面倒ごとは嫌いだろう?」

「ケンカじゃないですよー議論してるんですよ」

 武暁の言葉に面倒そうに吐息を一つ、家光はついて。

「音声消すの面倒くさいんだからな? 勘弁してくれよ本当」

 家光が機材のチェックをはじめれば、寿は武暁へと視線を向ける。その瞳は真っすぐなものだ。

「あと、卒業したら佐野達が最上級生なんだから頼むぜ? 部活内で喧嘩してたらまた今年みたいに後輩無しってなるし」

 ぽん、と武暁に肩に寿は手を置いた。

「ちょっとはやいけど頼んだぞ」

「え? 俺部長になる流れですか?」

「いや、そういうわけじゃないけども……どうするよ? 家光」

「んーまあ、テキトーに決めようぜ。あとで」

「……そんな具合だが。まあ頼んだ」

「なんともしまらないですけど、分かりました」

寿は家光達と話をしながら学院の中へと入れば再びカメラを回せばユーチューバーの顔でにこにこ、と家光は得意げにこのあたりで起こる怪奇現象について武暁と話し始める。

「今、人の悲鳴が……多分、視聴覚室だ」

「おっと、早速ですね! 急ぎましょう!」

駆け出して、視聴覚室の前までやってくる。確かに時折悲鳴が聞こえる。

三人は無言で目を合わせて意を決して視聴覚室の扉を開けた。

暗い部屋、スクリーンに映し出されるのは某有名なホラー映画。そしてそれを見ているのは

「いやースクリーンで見る映画は格別デスネー」

 ポップコーン片手にホラー映画を見る理事長レオン=シュルス゛ヘ゛リィの姿に3人は盛大にずっこけた。



 第二グループが目指すのは理科室だ。

「どうせ、誰かしらがいるだけなんでしょうけど」

「いやいや分からないっすよー」 

 先頭を瑠璃とこん助が歩き、その後ろを静葉と喜介が付いてくる形だ。

「瑠璃さんもだいぶ皆と仲良くなったようで」

「ええ、ありがたいことに」

 静葉と喜介が話しているのは最近の瑠璃についてのことだ。

 オカルト部二年生で集まって食事をとることや勉強会をすることもあった。

 これまで瑠璃は家の用事ということでそういったイベントに来ることはなかったが家族と和解してからは来るようになっていた。

「バケツ君とよく話していますね」

「こん助は見た目はあれですが、頼りになります故」

 こん助と話すのは喜介の見舞いの関係やミステリー実在派の武暁とは話しづらいというのもあるだろう。

 ――俺が嫌われているわけではない。と思いたい。

 そんなことを考えているとうーん、と静葉が首を傾げ

「佐能君もだけど瑠璃さんと付き合おうとは思わないんですか?」

 いきなりの言葉に喜介は思考が停止した。さらに一泊置いて、考えを整理して口を開く。

「えっと……それは、ないでありますね、皆とこうしているのが好きですし。瑠璃だけが特別という感情はありませぬ」

「そうですか」

「あ、もちろん。瑠璃に魅力がないわけではありませぬ。容姿端麗でよく気が利きますし冬服も趣があって良いと――」

「何の話っすかー?」

二人が遅れているのを気にしてか、こん助がやってくる。

「んー? 瑠璃さんの最近について?」

「先輩、そうではなく――」

いやいや、と喜介が訂正しようとするがそれより早く。

「あ、笑顔が可愛くなったっすね!」

「――先輩たち、早くいきましょう。部の存続がかかってるんですから」

 遅れてやってきた瑠璃が静かに、3人に向けて声をかけるとふい、と再び歩き始めた。

「お、怒ってるでありますかね?」

「というよりは――」

「照れてるっす」

 結局、理科室の一件は不良たちがアルコールランプを使って焼肉をしていたらしい。

 現場へと訪れればこん助の姿に化け物と勘違いして逃走していった。

 理科室にバケツの守護神が現れるという都市伝説ができるのだか、それはまた別の話だ。


 十分後エントランスで合流。結果報告。

「活動記録になるのか? これ」

「そこはうまくごり押すしかないだろ」

 報告された内容に寿は首をひねり、家光は面倒くせーな、と頭を抱えた。

「とりあえず、学校の問題を解決できたから、よしってことにしましょう」

 残念そうに言う武暁に、元気出すっすよーとこん助が励ます。

「残すところあと一つ。手早く済ませましょう」

「そうでござるな」

 全員で耳を澄ませる、静葉が控えめに手を挙げて。

「会議室から音が……」

「おーし、動画撮るから。邪魔するなよ。お前ら」

「活動記録という名目はどこへ?」

 家光は意気揚々と動画を撮影する準備すれば喜介の言葉を聞かずに、寿とこん助、武暁を連れて駆け出していく。

「もうすぐ、卒業だし。好きにさせてもいいんじゃない?」

「未だ、実感が湧かないのでありますよ……変なことする前にいかなければ」

 瑠璃に言葉を返して喜介は駆け出した。

「実感が湧かないのは、家光君達もそうだと思いますけど」

「……その方がありがたいですね」

 オカルト部に湿っぽいのは似合わないから、と瑠璃は声に出さず立ち止まっていると静葉が瑠璃を後ろから抱きしめる。

「雨城先輩……!?」

「なんか、こうして欲しいのかなって」

「子ども扱い、しないでください」

「あら、ごめんなさい」

 すんなりと、静葉が離れると瑠璃はありがとう、とぽつりと呟く。

 その様子を見れば静葉は微笑して。 

「急ぎましょうか」

「そう、ですね」

 瑠璃も静葉と共に家光達の後を追った。 その表情には曇りのないものだ。

 

 ほどなくしてオカルト部が皆そろう。耳をすませば確かに「足りない、足りない」と涙交じりの声が聞こえる。

 暗い校舎とあいまって悲壮感を誘うような声だがオカルト部は動じることはない。

「さあ、盛り上がってまいりましたー」

 こん助や寿が家光の動画づくりを手伝う。

 その様子を喜介は呆れてみつつも楽しんで。

 武暁と瑠璃がミステリーについて討論を始めようとすれば静葉が宥める。

「それでは、開けてみたいと思いまーす。お邪魔しまーす」

 勢いよく会議室の扉が開かれるそこにいるのは……・

「あれ? 奏先生」

 皆が首をかしげると奏は視線を向けた。

 机に置かれたプリントの山と栄養ドリンク、ノートPCが照らす微光。

「ざ、残業、っすかね?」

 戸惑うこん助の言葉に、こくりと奏は頷いて涙を拭った。

「そうなの……オカルト部の後処理が大変で授業や担任の業務までなかなか手が回らなくて」

 その言葉に静葉以外の皆が視線をそらした。

 動画投稿問題、進路が決まらない、バケツを被って生活する等々様々な問題を支援者として奏が支えていた。

 皆知ってはいたが、その結果、こうなっていると見てしまえば申し訳なくもなるわけだ。

 そんな中、静葉が一歩前へと出た。

「何か、お手伝いできることありますか?」

「プリントのコピーお願い。職員室閉まってるから近くのコンビニで――」

 結局。その日は奏の残業の手伝いをして解散。持ち回りで奏の手伝いが部活の決まりに追加された。

 一部伏せた状態でレポート提出。不良を撃退したことと、理事が視聴覚室を私物化していた問題をダシにオカルト部存続を認めさせるのであった。

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