バイサマアフターSS まとめ
三河怜
オカルト部と体育祭。
爽やかな秋晴れの下、今一つの戦いがはじまろうとしていた。
天築学院体育祭名物、部活対抗騎馬戦。
優勝者には部費として賞金が即金で出る。そのため、どの部活も気合が入っていた。
それは、このオカルト部も例外ではなかった。
様々な種目を消化し、ついに決戦の時が来た。
グラウンドに各部活が集い、割り当てられたスペースで開始の合図を待っている。
『さあ、いよいよ始まります、部活対抗騎馬戦。実況は佐能武暁、解説には風紀委員の雷銅さんをお迎えしてお送りしますー』
『まあ、せいぜい潰しあえよ』
『注目どころは、どこですかね、雷同さん』
『オカルト部だな、部長は曲者で回りはガタイがいいのが文化部にしては揃っている』
『ダークホースってやつですね』
『ま、どこが勝っても知ったこっちゃないけどな』
『もう少し興味持ちましょうよ……さあ、開戦まで後五分となりましたー!』
「佐能のやつ、うまく逃れたでありますな」
やれやれと喜介は肩を回す。準備運動だ。
「まあ、武ちゃん、頭脳系っすからね」
「俺たちは俺達で頑張ろう」
「ああ、部費のためにな! あと一般来場のやつらにしっかりアピールして再生数を稼ぐ!」
こん助、寿がそこそこにやる気を出す中、よっしゃあ!っと一人、家光は気合を入れる。
それをみながら喜介は息をついて。
「なんともやる気がでない理由でありますね」
そういいつつも柔軟運動を始める。
「おいおい喜介、やる気出さねえと死ぬぜ?」
「は?」
家光の言葉に喜介は怪訝そうな表情を浮かべていると武暁の説明がはじまる。
『はい、それでは騎馬戦のルール説明をします』
・騎手のハチマチを取られる、もしくは騎手が地面に触れたら脱落。
・武器防具の使用はあり。
・勝者の一騎が残るまでの勝負。
『いやーわかりやすいルールですね、雷同さん』
『ああ、屑同士、容赦なく潰しあって風紀委員を楽にしてほしいもんだ』
ここまでのルールは喜介も知っている、中高一貫だったから問題はない。
「オカルト部の皆さん、がんばってくださいね」
喜介が疑問に思う中、チアリーダー服姿の静葉が黄色のポンポン片手にやってくる。どことは言わないが揺れる。
その瞬間、オカルト部は感じた、ピリピリとした殺気を。だが、この程度は学院ではよくある事だ。
そんなことを誰も気にすることもなく話は進んでいく。
「ほら、瑠璃さんも」
静葉は笑顔で促す。
すると、もじもじと、静葉の背後から瑠璃がぽんぽんで顔元を隠して出てきた。
体育祭ということで、せっかくだからということで挑戦したらしいが、少し後悔しているようだ。
「その怪我しないように……してくださいね?」
その瞬間、感じられる殺気が倍になった。心なしか観客席からも殺気が放たれた気がした。
さすがに喜介が戸惑っていると家光は笑って。
「こういうことだ。三年と二年のアイドル的な存在を擁するオカルト部は色んなところからいらん恨みを買ってる訳だ」
ふふん、と得意げに家光は話す。半ばやけくそなのかもしれない。
それに対して喜介は深々とためいきをついた。
「勘弁してほしいでござる……」
「きーちゃん、やるしかないっす」
「去年は負けたが怪我もなかったからな。気にするな。なんとかやるさ」
そんな話をしつつ寿は小さく深呼吸。
普段は優しい上級生だが、刀を振るうとなればその雰囲気は一変する。そのための前準備だ。
各部活が武器や作戦を立てる中、オカルト部はいつも通り雑談をして待つ。
『開始一分前です! どの部活も既に臨戦態勢ですね!』
武暁の声が響く。
「じゃあ、私たちは、席で応援してますね」
「――ご武運を」
静葉と瑠璃を見送れば。
「そろそろだな、喜介。静葉の胸見てないで集中しろよ」
「違います。先ほどの応援の際、ちらりと見えた臍(へそ)や足の事を……冗談であるよ? 冷ややかな目を向けないでほしいでござる」
家光の言葉に即答した喜介の言葉に空気が凍った。
「「「……」」」
しばらくの間があって。
「いや、なんつーかひくわー」
「エロはだめっすよ。きーちゃん」
「聞かなかったことにしよう」
「だ・か・ら冗談であるから!」
冗談に聞こえないから、と誰がいったのやらそういいつつもオカルト部は騎馬を組んだ。
『さあ、準備が整って参りました……あ、今、ガスガンをスライドした朱理さんが、聖理先生に連行されましたね』
『いつものことだろ』
『まあ、そうですが、では……始めましょう!』
武暁のカウントがはじまった。
『5、4,3,2,1……スタートです!』
一斉に各部活の騎馬が動き出し手近な組みやすいと見た相手へと襲い掛かる。
そして、オカルト部も例外ではない。得体が知れず、体格が良いが文化部というくくり、そして何よりも3年、2年のアイドル的人気を持つという私怨で四方から襲い掛かってくる。
「左前、そこから抜ける!」
「こん助、ついでにタックルな」
寿の鋭い言葉と鞘に納まったままの刀を振るう。
それに合わせて、家光達が動き、目の前の卓球部の騎馬を一撃の寿とこん助の一撃のもとに崩し方位を突破した。
『各部活それぞれの方法で敵を撃破していきますね』
『まあ、それが手っ取り早いからな』
適当な実況と解説を背に状況は動いていく。
オカルト部は家光の寿、3年らの指示で2年生であるこん助、喜介らがサポートする形だ。
3分も経つ頃には既に残る部活は絞られていた。
オカルト部、野球部、弓道部、剣道部、ラグビー部だ。
野球部、弓道部の弾と矢による遠距離攻撃を加えてラグビー部が体格任せにオカルト部へと突っ込んで来る。
剣道部はその様子を静観していた。
「くそっ、あいつらきたねえ」
「いや、割と徳川先輩。嘘八百言って虚を作ったりしたでござろう?」
「それはそれ、これはこれだ!」
「口より何とかして欲しいっす!」
時たま、矢やボールがこん助のバケツに当たり、小気味いい音と合間に「いたいっすー」となんとも奇妙な状況だ。
「何とかしてくれ、寿」
「無茶言うなよ」
ボールと矢の雨をかいくぐりながらオカルト部は逃げ続ける。
『オカルト部、ピンチですねー。打開の手とかありますかね? 雷同さん』
『思いつかねーな』
『そろそろスマホから目を離して欲しいですねー。俺には応援することしかできない! がんばれオカルト部!』
もはや、実況と解説が仕事していないが誰も指摘することはない。
「ふははは、このままオカルト部をこのまま潰せば二人の美少女は我らの手にぃ!」
異様な雰囲気を持ってラグビー部がとびかかってくる、回避も迎撃を難しい状況だ。
「全員右へ!」
喜介の声で騎馬が右へと動くが完全に回避は間に合わない。
その意図は長い付き合いで分かった。
「後は頼んだでござる! 寿先輩!!」
ダイビングタックルを受けて避けきれなかった喜介は轢かれた。ぐぎゃああっという断末魔の叫びが上がる。
「任された!」
寿が背後から渾身の一撃を放ちラグビー部の騎馬のバランスを崩す。
「こいつはおまけっすよ!」
さらに、こん助がローキックを見舞い、騎馬を崩した。
「……喜介、お前の犠牲、無駄にはしないぜ。この熱いシチュエーションでしっかり、俺の名を売ってやる」
「いや、部長、それは望んで、ないで、ありますよ……」
『部員を犠牲に、オカルト部。ラグビー部を打ち破りました!』
歓声に包まれる中、喜介は意識を失うがオカルト部は振り返らず騎馬を組みなおした。
家光を後ろに、こん助が前へ。バランスとしては前に体重をかける形だ。
狙うは、弓道部と野球部。
オカルト部と合わせるように剣道部が弓道部に襲い掛かった。
結果として残るはオカルト部と剣道部だ。
「とうとう雌雄を決する時が来たな。春日寿よ!」
剣道部の騎手が竹刀を向けてくるが寿は首を傾げた。
「寿、知り合いか?」
「いや、知らん。面被ってるし」
「剣道部に再三誘いをかけた――」
「今だ、やっちまえ!」
家光の指示で容赦なく、寿は正面から鞘による一撃を叩き込もうとするが弾かれる。それを見れば家光は舌を打った。
「手ごわいっすね」
こん助が牽制の蹴りを放ち、騎馬の距離を取った。
防具一式をつけた剣道部は間違いなく強敵だ。
「どうする? 家光」
「逃げ回ったら疲れて倒れてくれねえかな?」
「いや、難しいと思うっす。真っ向からは」
剣道物の騎馬が突っ込んで来る。対してオカルト部は、相談しつつ逃げる。
誰もがオカルト部が逃げたように見えた。
――それらは勝負のための布石。
「先輩、どうぞっす!」
こん助が足先で一つのものを上へと蹴り上げた。
寿がそれをキャッチする、先ほど野球部が投げたボールだ。
「やっちまえ。寿」
「任せろ」
寿が投擲を行う、狙いは剣道部の騎馬の足。そこは唯一防具に覆われていない。
ボールが命中し、予期せぬ遠距離攻撃に剣道部の騎馬の動きが鈍った。
そこへとオカルト部の騎馬が突っ込む。
寿による乾坤一擲の一撃が放たれ――
「えーっと、体育祭、お疲れ様-!! 乾杯!!」
オカルト部、部室内。家光が雑な音頭だせば皆が紙コップを合わせる。
「いやーまさか、騎馬戦優勝者なしとは驚きでしたね!」
「あれは、家光先輩がこけたのが原因であろう」
「いやーしょうがないしょうがない」
最後の一撃を放つと同時に家光がこけて、オカルト部の騎馬が崩壊、寿の一撃により、剣道部の騎馬も崩壊。
結果、勝者なしだ。賞金のチャンスは逃した。
しかし、動画の視聴数が伸びたため、家光としては負けてはいないのでまあいいか、という具合だ。
「楽しかったからいいだろ。十分だったよ。俺は」
「俺も久々に本気出したっスー」
「なんか、俺だけ損した気が……」
思い思いに騎馬戦の感想を語りながら菓子を摘まむ。
「勝ったらどうするつもりだったんですか? 部長」
静葉の言葉に家光は胸を張って。
「そりゃあ、機材をそろえて動画のクオリティアップを――」
「部費の私有化はいかんでござる」
家光や武暁が動き、 寿とこん助が乗る、喜介が諫めながらもフォローして、瑠璃もなんかんだかんだついていって、奏と静葉が見守る。
――ああ、結局はいつも通りか。
人知れず瑠璃は笑んでそんないつも通りのオカルト部の様子を見ていた。
「しっかし、優勝の金あてにしてたから部費がやべえ。皆でバイトしないとな」
「なんで、既に部費つぎ込んでるでありますか!?」
まだまだ騒ぎは続きそうだ。
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