バーテンの流儀
カゲトモ
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バーで酒を飲む時のマナーと言うものが一つだけある。それは酒を軽々しく扱わない事だ。
酒なんて飲めりゃそれでいい。そう思っているのならバーではなく居酒屋へどうぞ。
バーで飲むのが格好いいから、という理由であるならお気軽に来店なさってください。でも、モテたいがために酒を飲みに来るのなら、それはいけません。上質な酒を出す以上、酒には敬意を払っていただきたい。
なんて、昔マスターが言っていたのを思い出した。あの時は大学生くらいの若い男女が、オーダーした酒をほったらかして飲みもせずに大声を張り上げて笑い合っていた時だった。
にっこりと笑いながら静かに怒っていたマスターが印象的だった。十年修行させてもらって長く傍に居たけど、あんなに怒ったマスターは初めてだったかもしれない。
『お客様の次に酒に敬意を払いなさい』
マスターに良く言われた言葉だ。酒を軽々しく扱っていては上達も出来ないし、美味い酒なんて作れない。酒を殺すも生かすもバーテンしだいなんだから、と。
バーは静かに酒の良さを味わってもらう所だ。酒と向き合い、自分と向き合える場所であれ、とも良く言われた。そのためにバーテンは酒の真の価値を引き出さなければいけない、と。それを出来るのはバーテンだけだと。
だからマスターが店を閉める時に、俺が独立したいと言ったら、
『自信を持て、お前ならもう一人前のバーテンだ』と言われた時は、本当に嬉しかった。
俺が惚れた酒の良さを、お客さんに知って貰うことが出来る。こんなにワクワクして誇らしい仕事はない。
俺はバーテンになって良かったと思う。多分天職だ。だってこんなにも毎日が楽しいんだから。
「これ、どうにかならないかな?」
しかし今、俺は窮地に立たされている。バーテンとして試されている。
「このバラをお酒にして欲しいんだけど」
目の前に一本、バラが差し出されていた。
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