三流の魔法使いが現代日本に転移して、魔法を使って俺TUEEE!する話

@kuronekoya

プロローグ

第0話 俺氏、異世界に転移したっぽい

 王宮御用達の荷車に跳ねられて、俺は37年の人生を終えたはずだった。

 魔法学校で「ガリ勉」とあだ名されながらも、持って生まれた才能の乏しさ故に三流の魔法使いでしかなかった俺。

 如何に少ない魔素を効率的に魔法を使うかばかり考えながら、卒業後は小役人として地味に働いてきた。

 迫りくる荷車に「避けるのは間に合わない!」って感じながらも、頭の中ではこれまでに学び研鑽してきた様々な転移や破壊の魔法が走馬灯のようにかけめぐる。

 だが、俺に扱える魔素量ではどの魔法も瞬時に使うことはできなくて……。

 俺は荷車に跳ね飛ばされて意識を失った。



 目を開くと、くすんだ青空が見えた。

 濃密な魔素にむせかえると、荷車に跳ねられたせいだろう、全身が痛んだ。

 反射的に治癒魔法の構造式を思い浮かべたら、その構造式の魔法陣を描いたわけでも呪文を唱えたわけでもないのに魔法が発動した。

 手……足……、動かしてみても、もうちっとも痛くなかった。

 なんなんだ!? 俺の魔力ではこんな強力な治癒魔法は使えなかったはず。

 それにこの空気中の濃密な魔素! うっかりすると過呼吸になりそうな濃度だ。

 王都はもちろん、魔法の練習のために行った人里離れた山奥だって、こんなに魔素は濃くはなかった。

 いったいここはどこなんだ?

 ゆっくりと頭を持ち上げ、体を起こしてあたりを見回すと……、そこは見たこともない世界だった。


 くすんだ青空。

 つなぎ目のない石畳の道路。

 見たことのないつやつやした石でできた巨大な建造物。

 これも見たことのない文字で書かれた大小の様々な派手な看板。

 そんな建物が両側に並ぶ道路の間を、動物が引いているわけでもないのに金属製の荷車がすごい速さで行き交っている。

 俺は道路の端に倒れていたようで、奇妙な服を着た人々が遠巻きに俺を避けて早足で歩いているが、彼らの話す言葉は意味不明だった。


 しばらくあたりを見回していると、通りすがりの揃いの服を着た少女たちが俺に話しかけたてきた。


「qあwせdrftgyふじこlp」


 さっぱり意味がわからない。

 俺は上級魔法である、翻訳魔法の構造式を思い浮かべた。


「ねえ、大丈夫?」


「ハロウィンにはまだ早いけど、どうしてそんな格好しているの?」


 あっさり言葉が通じた……。

 どうして俺に、こんなに魔素を大量消費する上級魔法が使えたんだ!?


「ここはどこだ?」


「え? 何!? やだ、記憶喪失?」


「ウケるー」


 ウケるって何だ? 俺はちょっとムッとした。


「ここは王都の中央大通りじゃないのか?」


「え、やだ! コスプレだけじゃなく、なりきってる系? ちょっとヤバくない?」


「マジキモいわー、ありえないわー」


「あ……あの、もしかして本当に記憶喪失なんじゃ……」


「記憶喪失かどうかはさておき、変な服着て倒れてるなんて普通じゃないから、とりあえず警察に通報した方がいいんじゃないかしら?」


 こいつら何を言っているんだ? 変な服を着ているのはお前らの方だろう。

 短い腰布を巻いただけで素足をふとももまで出したりして、はしたないことこの上ない。


「『警察』っていうのは何だ? 衛兵とは違うのか?」


「こいつ、もしかして本気で言ってんの? マジヤバくね?」


 栗色の髪をツインテールに束ねて、ちょっとキツめの顔をした少女が吐き捨てるように言った。


「ヤバいっしょ。マジありえないわー」


 なぜか頭頂部だけは黒い金髪で、目の周りに不自然なペイントを施した少女がけだるげに言った。


「通報ね」


 黒髪サラサラロングヘアーで長身の少女が、黒っぽい玻璃ガラスの板のようなものを鞄から取り出した。

 こいつだけは長い布の筒のようなもので脚を上の方まで隠しているから、ふとももは殆ど見えない。唯一乙女としての恥じらいを知っているようだが、俺を蔑むような目で見たりしているから評価はプラマイゼロだ。

 翻訳魔法で『絶対領域』という単語が脳裏に浮かんだが、何のことだかよくわからない。


「待って! もうちょっと話を聞いてあげましょうよ」


 ふわっとした黒髪でアホ毛が立っている少女が、アワアワしながら長身の少女が玻璃の板を操作する手にしがみついた。

 どうやら、このアホ毛の少女が一番まともそうだな。


 それにしても、ここはいったいどこなんだ?

 さっきからこの少女たちと会話していても、一向に埒が明かない。


 魔素が濃いおかげで、本来貧弱な俺の魔法も今は威力が底上げされているようだ。

 心を読んだり操ったりする魔法も、今なら俺にも使えるかもしれない。

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