心の弱さに溺れながら
りにゃ
第1話 濁り
その日は、長い長い雨が降っていた。
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ここはロッジ・アリツカ。
アライグマのアライさんがオオカミさんのマンガを見たいということで、ボク、サーバルちゃん、アライさん、フェネックさんの四人でやってきたんだけど、肝心のオオカミさんが良いインスピレーションが湧かないと言って散歩に出かけているとのこと。
「そろそろ帰ってくるのでは?」とアリツカゲラさん。
でもそれがいつになるかは分からないという。
仕方ないので、ボク達は思い思いのことをして時間をつぶす事にした。
サーバルちゃんはロッジにあった紙で紙飛行機の練習、アライさんはキリンさんと一緒にロッジ内の探検、ボクとフェネックさんはその様子を見て時折声を挟んでいた。
でも流石に待ちくたびれたのか、ちょっと不機嫌な顔のアライさんがロッジの探検を終えて帰ってくるなり声を上げた。
「ぐぬぬ…、早くまんがが見たいのだ!」
「まーまー、もうそろそろ帰ってくるってアリツカゲラも言ってたし、もう少しの辛抱だよー、アライさーん」
「そうはいっても遅すぎるのだ!オオカミは何をやってるのだ!」
…アライさんが苛立っているのも無理はない。
ボク達がロッジに着いたときにはまだ頭の真上にあった太陽が、今にも山に隠れてしまいそうなほどにまで落ちてきている。
また運の悪いことに、窓から見える空にはどす黒く分厚い雲が徐々に流れてきているようだ。
「今晩は結構降りそうですねぇ…、オオカミさん大丈夫でしょうか…」
アリツカゲラさんが窓を覗きながら心配そうにつぶやく。
と、突然
「わたし、オオカミのこと
ぼくの隣でずっと紙飛行機の練習をしていたサーバルちゃんも流石に心配になってきたみたいだ。
「薄暗い外、曇り空、帰ってこない先生………、事件の香りがするわ…!」
この状況に感情を抑えきれないのかキリンさんが煽り始めるも、やっぱり慕っているオオカミさんが返ってこない状況を不安がっているよう……
「この事件…、このアミメキリンが解決して見せるわ……。
行くわよサーバル、あなた助手よ!」
「助手なら図書館にいるよ!」
「それなら図書館にガサ入れに行くしかないわね!!」
……には見えないし話の内容も支離滅裂だけど、キリンさんもオオカミさんを捜しに行きたいらしい。
「サーバルちゃん、そろそろ雨が降りそうだし濡れちゃうよ?」
「大丈夫だよ!わたし走るの得意だからすぐに見つけて帰ってくるよ!フン!!」b
「わたしだって足の速さには多少自身がありますよ!」
ボクが待つよう促しても、二人とも本当に心配みたいで行くと言ってきかない。
でもそういうボクもかなり心配していた。
巨大セルリアンの討伐に成功したとはいえ、まだまだ危険なセルリアンがどこに潜んでいるか分からない。
キリンさんやオオカミさん、そしてもしサーバルちゃんがそのセルリアンに襲われる可能性だってある。
そう思うと急に、胸が締め付けられる感覚を覚えた。
不安に支配される。
あの時の、あの光景が脳裏に鮮明によみがえってくる。
もう二度と、失いたくない…
サーバルちゃん…
ボクの大切な……
「かばんさん、大丈夫なのだ!」
唐突に、大きな声が響く。
「心配しないでほしいのだ!アライさんがいれば無敵の布陣なのだ!」
「アライさんは、サーバルみたいに速く走れるのー?」
「だ、大丈夫なのだ!アライさんはそのへんばっちりなのだ!」
「…逆に心配になってきたよー…」
不安が無意識のうちに表情に出ていたのか、アライさんが声をかけてくれた。
フェネックさんの言うことも確かでちょっと心配だけど、アライさんの勢いにいつも元気をもらっていることも確かだ。
「すいませんアライさん、ありがとうございます。」
「ふぇ?アライさんは何もしてないのだ」
「そんなことないですよ、改めてありがとうございます、アライさん」
「なんだかよくわからないが、アライさんにお任せなのだ!」
ということでサーバルちゃん、キリンさん、アライさんがオオカミさんを捜しに行くこととなった。
ボクとフェネックさんとアリツカゲラさんはロッジで待機だ。
ボクは足が遅いし、アリツカゲラさんはロッジ管理者として残りたいという。
でも何故、フェネックさんは行かないのだろう。
いつものフェネックさんだったら心配だから付いて行くと言いそうなのに…。
「気を付けてね、サーバルちゃん」
「まかせて!見つけたらすぐ帰ってくるから!」
「アライさんもちゃんと二人についていくんだよー?」
「まっかせるのだ!」
「雨が降りそうなので一応拭くものも用意しておきますね」
「それじゃあ行くわよ、サーバル、アライさん!」
そして間もなく、3人はロッジの外へと駆け出していった。
元気な3人がいなくなり、ロビーは静寂に包まれる。
「…では私は拭くものを捜してきますね」
そういってアリツカゲラさんはロッジの奥へと消えた。
「…」
「…」
またも静かな時間が流れる。
それもそうだ。
今までサーバルちゃんとアライさんを含めた4人でわいわいとおしゃべりをすることはあった。
だけど、今の状況は全くと言っていいほど経験がない。
フェネックさんと2人きり…、このような初体験の状況で、ボクは何を話せば良いかが分からなかった。
「……………かばんさん」
唐突に、フェネックさんが僕の名前を呼んだ。
なんの前触れも無く話しかけられたのでビクッとしたけど、話しかけてくれたのは嬉しい。
「何ですか?フェネックさん」
「かばんさんはさー……、サーバルのこと、好きなのー?」
「…」
フェネックさんの何気ない普通の質問。
…のはずだったんだけど、ボクは何故か一瞬答えに詰まってしまった。
…何もおかしい質問じゃない。
当然の事を答えるまでだ。
「……もちろん大好きです!
サーバルちゃんは最高のパートナーです!」
「そっかー…」
フェネックさんはボクの答えを聞くと、そっけない返事を返した。
……気のせいだろうか。
フェネックさんの雰囲気が、いつもとは違うように見えるのは。
取り敢えずボクは同じような事を聞き返してみることにした。
「そういうフェネックさんはどうなんですか?」
「んー?」
「アライさんのことですよ、ずっと一緒にいるからとっても仲良しなのかなって思って」
「……ずっと一緒にいるからねー」
…やっぱり今日はフェネックさんの様子がおかしい気がする。
その様子は何故か、ボクが最近サーバルちゃんと2人きりでいる時に感じる気持ちを思い浮かばせた。
……
このままだとまたさっきみたいに暗い顔になってしまう。
そう思い、取り敢えずフェネックさんの答えに反応することにした。
「フェネックさんもアライさんも、お互いのことがが大好きなんですね!」
「…」
「…フェネックさん?」
「そうだねー、大好きだよー、……でも、
――私の大好きはちょっと違うんだ、かばんさんみたいにね」
「―――っ」
心臓が跳ねた。
フェネックさんは…、この気持ちの正体を知ってるのだろうか。
この、心の片隅にある、小さな痛みの正体を。
フェネックさんなら、分かるのだろうか。
友達としての、親友としての大好きとは違う、この苦しい気持ちの正体を。
気付くと、口が勝手に動いていた。
「ボク…、怖いんです。
今のサーバルちゃんを失うのが…。」
「…」
ボクはそう言って手首に付けているラッキーさんを外し、かばんに入れてロッジの受付台の裏に隠す。
そして……
「……フェネックさん
少し、相談に乗ってくれませんか?」
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