第3話

この場合、願い事があるのは蘭子のほうなので、蘭子が因番鬼様に話しかける。


「因番鬼様、因番鬼様。私を芽瑠瀬出素君の彼女にしてください。お願いします」


すると十円玉が二人の指といっしょに、物凄い勢いで「いいえ」のところに移動した。


私は指に力を入れていなかったので、何の疑いもなく蘭子が十円玉を動かしたのだろうと思った。


しかし欄子を見てみると、その顔は「おまえが十円玉を動かしたんだろう」と言っていた。


二人でお互いの顔を見つめ合っていたが、やがて二人ほぼ同時に十円玉を元の位置に戻した。


蘭子が一息ついた後、再び言った。


「因番鬼様、因番鬼様。私を芽瑠瀬出素君の彼女にしてください。お願いします」


蘭子が言い終えた途端、再び十円玉が、いいえに移動した。


二人の指をのせたままで。


「ちょっと、蘭子。あんたが動かしているんでしょう。しかもよりによって、いいえのところに。芽瑠瀬出素君の彼女になりたいんじゃないの。なに考えてんのよ、まったく」


「私は動かしてないわよ。はるかが動かしているんでしょ。だいたい私がいいえのところに動かすわけがないじゃないの」


私は蘭子の目を見ながら言った。


「そう。そう言うんならもう一度やってみる。そうすればわかるわ」


蘭子は怪訝な色をその顔に浮かべた。


どうやら私が言っている意味が、よくわかっていないようだ。


でも少しきつめの口調で答えた。


「わかった。もう一度やるわよ。いいわね」


蘭子は十円玉を戻した。


「因番鬼様、因番鬼様。私を芽瑠瀬出素君の彼女にしてください。お願いします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る