第2話

名字は山田なのに。


しかも男の子に。


メルセデスとはもともと、ベンツの創業者の娘の名前で、ドイツでは女の子につける名前である。


逆に言えば、ドイツ人の男の子に桃子とかいう名前をつけるようなもので、馬鹿らしいことおびただしい。


親もそんなにもベンツが好きなら、それくらいのことは知っていてもいいはずなのに。


車もベンツも全く興味がないこの私が知っているというのに。


一人息子に芽瑠瀬出素なんてどこに出しても恥ずかしい名前をつける親に、知性とか教養とか常識といったものを求めてはいけないのだろうが。


ただ両親は底なしの馬鹿でも、息子はそうとは限らない。


芽瑠瀬出素は、恋愛にうとくて男子にあまり関心を持たない私から見ても、なかなかにいいやつである。


「それじゃあ因番鬼様にお願いしないとね」


私が言うと、蘭子は小さくうなづいた。


因番鬼様とは、誰が流行らせたのかは知らないが、おそらくこの学校限定の神様である。


私はそういった類のものはまるで信じないが、実際に因番鬼様にお願いした女子の中に「因番鬼様は本当にいた!」と大騒ぎする子が何人もいる。


そのおかげで因番鬼様の人気は、現在うなぎのぼりとなっている。


誰か一人の思いつきで始まったものだというのに。


信じてもいないのに蘭子に勧める私もどうかと思うが、少なくとも蘭子が信じていることは前から知っていたので、そう言ったのだ。


因番鬼様とかいう変な名前であるが、やり方は昔流行ったというこっくりさんと全く同じである。


はいとか、いいえとか、あいうえおとか書いた紙も、部室の机の引き出しにある。


あまりにも流行り過ぎたので、学校では因番鬼様遊び(先生はこう呼んでいる)を禁止したのだが、先生は持ち物監査とかはたまにやっているが、部室の机の引き出しなどはそれほど気にはしていないものだ。


机の上に紙、その上に十円玉を置き、二人で人差し指に手を添えた。

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